1年に1日だけオープンする「幻のレストラン」 “生産者”と“消費者”がつながる場所に… 仕掛け人は東京のフレンチシェフ 三重・尾鷲市
地元尾鷲の食材を使ったフルコースが楽しめると、国内外からお客さんが集まる人気レストラン。しかし、このレストランがオープンするのは1年に1日だけ。東京からやってきたシェフが、遠く離れた尾鷲にこだわるワケとは…?
尾鷲の海に異変…シェフ困惑「魚がとれない」
レストランの仕掛け人 横山太郎さん:
「聞いたことない魚とか見たことない魚を、よく見ることが多い。(尾鷲は)豊かな漁場の条件がそろっている」
しかし今、尾鷲の海で異変が起きているといいます。尾鷲で長年、鮮魚店を営む岩﨑さんも、その異変を痛感していました。
岩崎魚店 岩﨑肇さん:
「季節感がなくて、秋だからこの魚がとれるっていうよりは、夏の暑さがそのまま秋まできて、魚を選べるほどの量がないっていう時代」
漁獲量の減少は、地球温暖化や黒潮の大蛇行、森からの栄養が減っているなど、複数の原因が指摘されています。
こうした環境の変化も知ってもらいたいと考える横山さんは、1日限定レストランを開催し、生産者と消費者をつなげているのです。前回開催したのは2019年。コロナ禍を経て今年、5年ぶりにオープンすることになりました。
オープン前日。地元の鮮魚店で朝から仕込み作業が行われていました。横山さんの“尾鷲を盛り上げたい”という気持ちに賛同した料理人たちが東京から集まり、作業は順調…かと思いきや、作業を中断して急いで車に乗り込む横山さん。コース料理で使う予定だった野菜に問題が発生したようです。
レストランの仕掛け人 横山太郎さん:
「手配していた野菜がダメになっちゃった。リカバーはできるんですけど、どうしようかなって」
代わりの食材を手に入れるべく、地元の農家や近くの店に問い合わせます。
さらに横山さんたちを困らせたのが、降り続く雨。テーブルのセッティングなどは前日までに終わらせる予定でしたが、会場の設営にも遅れが出ていました。そこへ、待ちに待った野菜が到着! 前日の仕込み作業は夜遅くまで続きました。
果たしてオープンに間に合うのでしょうか…?
漁師も絶賛! 尾鷲産のフルコース
レストラン開店当日。昨日の雨とは打って変わり、青空が広がっていました。
レストランの仕掛け人 横山太郎さん:
「いろんな人がこのためだけに集まっているから、エネルギーが凝集した時間なので、それを楽しんでもらえたら」
尾鷲の山から切り出したヒノキのテーブルには、同じく尾鷲の山でとってきた植物が飾られます。そこへ続々とやってくるお客さん。用意された40席は国内外から集まった人たちで満席になりました。
こうして1日限定のレストランが開店しました。ウスバハギやカンパチなど、尾鷲でとれた魚の盛り合わせや、調達に一苦労した野菜とイカのサラダも好評です。会場には鮮魚店の岩﨑さんの姿も。
岩崎魚店 岩﨑肇さん:
「全然(魚が)とれなくなって、なかなか食材をそろえられない現状で、おいしいっていう一言がすごくうれしいですね」
定置網の漁師さんもお客さんとテーブルを囲み、「今日の朝しめたやつですよ、ウスバハギ」と食材の説明をしながら、尾鷲の食材をふんだんに使った全8品のフルコースを一緒に楽しんでいます。
横山さんが目指していた「消費者と生産者が交流する空間」が、そこにはありました。
お客さんたちも「生産者の方のお話が聞けるのが素晴らしいと思います」「森が豊かになると、海の豊かさ、流れていく水の循環ができる。太郎さんがずっと言っていて、今日はそれを感じられたのかな」と笑顔を見せ、1日だけの特別なレストランで、かけがえのない時間を過ごせたようです。
レストランの仕掛け人 横山太郎さん:
「この食材の場所で対話や交流をするのが一つの趣旨なので。(達成度は)正直言えないですけど…120%にしておきましょう!」
生産者と消費者がテーブルを囲んで語り合う「幻のレストラン」。次のオープンは来年の予定です。