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「いらっしゃいませ」が聞こえない店 “表情”と“身ぶり手ぶり”の接客で人気を集める「サイニングストア」 客は「幸せな気分になれた」と笑顔に スタッフの多くは聴覚障害者

2024年9月24日 17:55
「いらっしゃいませ」が聞こえない店 “表情”と“身ぶり手ぶり”の接客で人気を集める「サイニングストア」 客は「幸せな気分になれた」と笑顔に スタッフの多くは聴覚障害者
全国に広まりつつあるサイニングストア

こだわりバウムクーヘンの味もさることながら、珍しい接客で人気を集める店がありました。スタッフが「いらっしゃいませ」と声をかけることはないのに、来店した人は「幸せな気分になれた」と笑顔…。いったい、どんな店なのでしょうか?

言葉を使わず豊かな“表情”で接客 スタッフの笑顔が客を笑顔に

愛知県豊山町の「エアポートウォーク名古屋」にオープンしたのは、愛知県犬山市を中心に18店舗を展開するバウムクーヘンの人気店「ココトモファーム」。もちもちした食感の米粉を使ったバウムクーヘンは、見た目もかわいらしいことからSNSでも人気を集めています。

しかし、この店の魅力はバウムクーヘンだけではないのです。店内の様子を見てみると、お客さんが入ってきてもスタッフが「いらっしゃいませ」と声を発することはありません。それなのに、なぜかお客さんはみんな笑顔に…。

実は、ここで働くスタッフの多くが聴覚障害者。お客さんとは手話を使ってコミュニケーションを図ります。

試食サービスの呼び込みも、もちろん手話で行います。単に呼びかけるだけでなく、通りかかる人に積極的にアプローチ。身ぶり手ぶりのジェスチャーで商品を説明しつつ、細かなニュアンスは豊かな表情で表現。この表情こそが“強み”になるのです。

接客を受けた人たちに話を聞いてみると「すごい笑顔で接してくれて、幸せな気分になりました」「明るくてみんな頑張っているので、気持ちよく、不安なく買えました」と、笑顔で答えてくれました。

細かい内容を伝えるときは、筆談やスマホアプリを使うこともありますが、お互いに理解しようという気持ちをもって向き合うことで、お客さんや手話がわからないスタッフとも、快適にコミュニケーションがとれているといいます。

こうした手話やジェスチャーなどでコミュニケーションをとる店を「サイニングストア」といい、全国的に広がりつつあります。

社長に直談判して切り開いた道 「障害があっても人と関わる仕事ができる」

エアポートウォーク名古屋店の運営を任されている玉木浩人さん(60)も、まったく耳が聞こえません。それでも、約1年前から名古屋駅前での催事や別の店舗の運営などを任されてきました。客からの問い合わせは本社で対応するなど、配慮が必要な場面もありましたが、表情豊かな接客は、どの場所でも大人気。

玉木さんに店を任せると決めた「ココトモファーム」の齋藤社長も、このように話します。

ココトモファーム 齋藤秀一社長:
「最初はサイニングストアが本当にうまくいくか不安はあって、小さな催事からやったんですけど、すごく人気で普通のお店よりも売り上げが高いくらい」

きっかけは、玉木さんからの「働きたい」という直談判でした。

障害があると職業選択の幅が狭く、特に販売など人と話す仕事につくのは難しいのが現状です。アルバイトの伊藤さんも、前職は就労継続支援A型事業所でラムネなどの製造を行っていました。現在は「接客の仕事はドキドキするけど楽しい!」と、人とつながる仕事にやりがいを感じているようです。

周りの理解や配慮があれば、障害があっても人と関わる仕事ができる。そう信じて働く玉木さんたちの姿は、店を訪れた人にも刺激をもたらしているようです。

カフェを開くのが夢だという難聴の男性は、「こういうお店で働いているのを見て、自分もやれるかもと思った」と笑顔を見せました。手話を知らないお客さんが、スタッフと積極的にコミュニケーションをとる様子も、あちこちで見られます。

サイニングストアが与える影響について齋藤社長は「新しいコミュニケーションをしながら商品を購入するという、新しい価値が生まれている」と分析します。

社長に直談判して、新たな可能性を切り開いた玉木さん。すでに次の目標を見据えていました。

店を運営する玉木浩人さん(60):
「全国に広げていくことです。ろう者で運営できる店をどんどんつくっていきたい。次の世代に引き継いでいきたい。それが夢です」

サイニングストアと聞くと、手話がわからない人は身構えてしまうかもしれませんが、玉木さんたちの温かい接客は、そんな不安な気持ちを吹き飛ばしてくれます。訪れた人を笑顔にするサイニングストアで、新しいコミュニケーションを体験してみてはいかがでしょうか。

最終更新日:2024年9月24日 17:55
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