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“戦争遺構”と“観光地”を巡る旅「明るいダークツーリズム」 名古屋の大学生が考案 若い世代が伝える“戦争の記憶”

2024年8月19日 19:27
“戦争遺構”と“観光地”を巡る旅「明るいダークツーリズム」 名古屋の大学生が考案 若い世代が伝える“戦争の記憶”
半田赤レンガ建物で梶田さんの説明を聞く学生たち
終戦から79年が経過し、過酷な体験を語れる人は年々減少しています。戦争の記憶をどうつないでいくのか…。名古屋の大学生が考えたのは、愛知県に点在する“戦争遺構”を巡り、楽しい"観光"もするという「明るいダークツーリズム」でした。若い世代が伝える“戦争”。新たな試みが始まっています。

半田赤レンガ建物に刻まれた“銃弾の痕”

今年7月、愛知県半田市の半田赤レンガ建物に、大学生を乗せたバスが向かっていました。

明治時代に建てられた半田赤レンガ建物の壁に、びっしりと刻まれていたのは“銃弾の痕”。79年前、愛知県内の各地を襲った空からの爆撃や攻撃で、この地域一帯でも多くの人が命を落としました。

大学3年生 山田麗香さん:
「写真で見るより迫力すごいですね。実際に使われた銃弾が展示されているのを見たんですけど、このくらいのサイズの銃弾でこんなに穴あいちゃうんだっていう、威力のすごさと迫力を感じますね」

こう話すのは、名古屋市内の大学に通う山田麗香さん。観光経済学を専攻する山田さんが“戦争の遺構”を訪れた理由は、「ダークツーリズム」について学ぶためです。

「ダークツーリズム」とは、戦争や災害の遺構を巡ること。ヨーロッパから広まった言葉で、悲惨な行為を二度と繰り返さないための“学びの観光”なのですが、山田さんたちは、若い世代でも戦争に興味が持てる独自の観光ルートを作ろうと、愛知県の各地を下見しているのです。

大学3年生 山田麗香さん:
「愛知県内だと地元だし、自分の身の回りに戦争とか悲惨なことが起きていたと感じられるので、私たちもダークツーリズムをやってみようと」

かつて軍用機が飛び立った幅60メートルの滑走路

学生たちが次に訪れたのは、半田市にある一直線の道路。戦争とどんな関係があるのでしょうか。「半田空襲と戦争を記録する会」の梶田稔さん(85)によると、この道はかつての滑走路だといいます。

半田空襲と戦争を記録する会 梶田稔さん:
「滑走路が幅60メートル。木立の左側までが滑走路の本体です。家を取り巻くように円形になっている。こうして当時のまんまのかたちで残っている」

1945年7月5日に撮影された終戦前の写真には、同じ形をした滑走路が写っていました。近くにはかつて軍用機を作る工場があり、当時、全国から集められた学生が、この工場で働いていました。作られていたのは、「彩雲」と呼ばれる偵察機や攻撃機です。

この滑走路は1キロに満たないため離陸専用。戦争に使われた軍用機が、この地から飛び立ったのです。

田畑や住宅街が広がる場所で、道路の形から79年前の記憶が蘇ります。

南知多町「中之院」に佇む92体の軍人像

ダークツーリズムのスポットは南知多町にも。中之院の一角にあったのは多数の軍人像。なんと92体もあるといいます。

上陸作戦では、17歳から20歳ほどの若い兵士たちが撃たれて命を落としました。亡くなった我が子を思う遺族が、石工に写真を渡して掘ってもらった石像。ひとりひとりの生き写しです。

92体もの石像が集まる異様な風景に、最初は少し怖がっていた学生たちでしたが、この話を聞いて心が動いたようです。

大学3年生 山田麗香さん:
「一体一体表情も違うし、ポーズも違うし、すごく遺族の思いが伝わってくる。今でもお供えをされているので、戦争は今でもずっと続いていることだと思う」

「明るいダークツーリズム」は戦争を知る世代に受け入れられるのか…

各地を下見した学生たちが考えたのは「明るいダークツーリズム」というものでした。若い世代も「巡ってみたい」と思えるように、“戦争の遺構”と“楽しめる観光地”を順番に巡るプラン。例えば、赤レンガ建物や滑走路があった半田市は海運業や醸造業で栄えた街なので、ミュージアムなどもツアーに盛り込もうというものです。

大学3年生 山田麗香さん:
「ダークツーリズムだと、ずっと戦争の遺構ばかりまわってて、ただ気分が暗くなるだけだとやっぱり行きたくならないので、普通の観光地とか楽しい場所を挟んでまわって、交互にやっていくと、みんなまわりやすいのかなと」

ところが、年配の先生から「“明るい”と“ダークツーリズム”の組み合わせは、馬鹿にしているような印象を受ける」という意見が出てしまいました。

学生たちの祖父母の多くは戦後生まれ。身内に戦争体験者がいない世代が考えた“新たな伝え方”に、否定的な意見が出ることも。しかし、ダークツーリズムを研究する椙山女学園大学の水野准教授は、このように話します。

椙山女学園大学 水野英雄准教授:
「戦後これだけ時間がたってきたことで遺族感情も変わってきたことを知ってもらいたいと。暗いものとして隠すのではなく、明るいところへ出してもいいと認識を変えていってもらいたい」

そこで、学生が考えた戦争の新たな伝え方「明るいダークツーリズム」を、平和を考えるイベントで発表してみることにしました。果たして、受け入れられるのでしょうか…。

発表を聞いた高校生に話を聞いてみると、「戦争って重い感じに聞こえちゃうから、もっと気軽に話せるようになったらいい」と、「明るいダークツーリズム」の考えに共感しているようでした。

一方、戦争をよく知る世代にはどう映ったのでしょうか。イベントに参加していた人に意見を聞いてみると、「観光化っていうのはちょっと抵抗あるけど、知るっていうことは大事」「戦争は始まったらなかなか終われないものだし、知るためのダークツーリズムという考え方はすごくいいと思います」と、理解を示してくれました。

悲劇を繰り返さないためには、若者たちの感覚で戦争を語り継ぐことも必要です。名古屋の大学生が考えた「明るいダークツーリズム」。彼女たちの試みは、まだ始まったばかりです。

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