【特集】愛知・犬山市7歳女児虐待死事件 なぜ奈桜ちゃんを救うことができなかったのか 市の検証結果からわかったことは…
笑顔で、いちごをほおばる女の子、島崎奈桜ちゃん(7)。2024年3月、保育園の卒園式の日に撮影されたとみられています。しかし、約2か月後の5月、奈桜ちゃんは命を落としました。
そして7月、逮捕されたのは、実の母親と、「パパ」と呼び、なついていた内縁の夫でした。
■ハートの折り紙をくれた優しい子だった奈桜ちゃん
犬山市に住む、花垣龍次さんは、息子が、小学校で、奈桜ちゃんと同じクラスでした。
奈桜ちゃんについて…。
「すごい優しい子だなっていう印象に残っています」「折り紙を折ってあげるという話になって、(息子が)黒が好きだよって話したら、これあげるって奈桜ちゃんがくれました」
ダウン症の息子の好きな色を聞いて、ハートの折り紙を折ってくれたという奈桜ちゃん。今も大切に持っているといいます。
当時、奈桜ちゃんが亡くなった理由はわからず、花垣さんは、この折り紙も、両親に返したほうがいいのかなと思っていたといいます。
事態が一変したのは、7月。朝、愛知県警の捜査員が向かったのは、奈桜ちゃんが住んでいた犬山市の集合住宅の一室。
捜査員がインターホンを押すと出てきたのは、1人の女。奈桜ちゃんの実の母親、島崎みなみ被告(33)です。
その内縁の夫の倉田凱被告(32)とともに、逮捕されました。
その後、倉田被告は、傷害致死の罪で、島崎被告は、保護責任者遺棄致死の罪で、それぞれ起訴されました。
倉田被告は、奈桜ちゃんが亡くなる前日の朝、腹部を拳で複数回殴り、死亡させた罪に問われ、また、島崎被告は、倉田被告の暴行を認識した上で、奈桜ちゃんが、腹痛を訴え、嘔吐を繰り返すなどしたにもかかわらず、すぐに病院に搬送するなどの措置をとらなかったとされています。
亡くなる前、児童相談所に一時保護されていた奈桜ちゃん。
児相によると、倉田被告が奈桜ちゃんに虐待していた疑いがあったことから、倉田被告と奈桜ちゃんが関わらないことを条件に、一時保護を解除していました。
しかし、実際には、倉田被告との同居は続き、約1年後に、奈桜ちゃんは亡くなりました。
事件後、犬山市は内部検証を実施。12月、市として、どうすべきだったのか、結果を公表しました。
報告書によると、傷やあざを発見した保育園が市の担当課に報告すると、「児相に」と言われたとされています。
一方の児相は、園に対し、「連絡のたびに会議を開かなければならない、そんなに連絡してもらっては困る」と返答。
虐待の疑いがある倉田被告と、同居が続いているのではないか という懸念を園側が伝えた際も、児相は、「そんなことを言われると困る」と返答したとされています。
孤立を深めた保育園。
園が感じた危機感はどこにも伝わらなくなってしまったといいます。
報告書の中では、犬山市の対応について、「児相の案件だから」と、児相から指示されたことだけをこなしていればいいという誤った認識が問題だったと指摘。
児相と市、保育園などの見守り機関、それぞれの役割を明確にし、協力体制を構築していくことが求められる、などと提言されています。
再発防止が求められる行政。
犬山市は内部検証の結果を受け、今後、市独自の対応マニュアルを策定するということです。
また、愛知県は児相のシステムを改修し、虐待に関する情報について、警察と即時に共有する体制を今年度中に構築するとしています。
長年にわたり、児童虐待防止などの活動に携わってきた冨田正美さん。
今回、専門家の1人として、検証員を務めました。
関係者へのヒアリングなどを通し、「こんなに引っかかっていたのに どうして救うことができなかったんだろう」と感じたといいます。
児相も市も「大丈夫だろう」という認識で、他人事になってしまっていたのではないかと話します。
児童虐待は社会の問題だという冨田さん。
今回の検証の中では、「地域」という言葉が出てこなかったと指摘します。
「地域全体で子どもを守っていかないといけない」「間違っていてもいいから、通報してほしい」などと話しています。
<児童相談所虐待対応ダイヤル「189」>
■「二度とこんな事件が起きない ように」動き出した人たち
事件を受け、動き出している人たちも。
「奈桜ちゃんは自分がつらい目に遭っていたのに息子に優しくしてくれた」「自分は何もできなかった」「二度とこんな事件が起きないように、子どもたちを守るため に、自分に何かできることはないか」
こう話すのは、息子が奈桜ちゃんと同級生だった花垣さん。
地域住民などと一緒に、「おやじの会」を立ち上げようとしています。
「地域の中で子どもたちを守っていきたい」
困りごとがあれば、気軽に相談できるようなゆるいネットワークをつくり、できる人で対応していきたいといいます。