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“決まった答えがある”から数学が得意、でも美術は苦手… “将棋少年”が達成した夢~藤井聡太八冠の軌跡

2023年10月13日 22:28
“決まった答えがある”から数学が得意、でも美術は苦手… “将棋少年”が達成した夢~藤井聡太八冠の軌跡

中学2年生で四段・プロ棋士へ。「実力をつけて、タイトルが狙える位置にいきたい」と夢を語っていた少年は、7年後、前人未到の八冠を達成する。史上初の大記録を成し遂げた若き棋士の軌跡を辿ってみると、純粋に将棋が大好きな“将棋少年”の姿が常に存在していた。

中学2年生でプロ棋士へ!前人未到の八冠までの軌跡

王座戦五番勝負第4局で永瀬王座を破り、将棋界にある8つのタイトル全てを獲得した藤井聡太“八冠”。将棋界の若き棋士が成し遂げた大記録に、彼の出身地である愛知県瀬戸市はもちろん、日本中が沸き立った。八冠達成はもちろん、これまでも“前人未到”の将棋人生を歩んできた藤井八冠。その軌跡を振り返ってみる。史上最年少記録を62年ぶりに塗り替え、中学2年生で四段・プロ棋士となった藤井八冠。デビュー戦で加藤一二三九段に勝利し、初勝利の記録を14歳5か月に更新。中学生で初めて五段昇段を果たし、その2週間後に六段に昇段。さらにその3か月後、竜王戦のランキング戦で優勝し、史上最年少15歳9か月で七段に昇段する。その驚異的なスピード昇段は、六段昇段の祝賀会で“七段昇段”を祝うという前代未聞のエピソードを残すほど。そして、2020年7月、17歳11か月という史上最年少記録でタイトルの一つ「棋聖」を獲得。同時に挑戦したタイトル「王位」も奪取し八段に昇段、翌年タイトルを防衛し、10代で初めて最高位の九段に昇段する。会見で「結果に満足することなく、初心にもどって前を向いていきたい」と、さらなる挑戦への決意を口にした藤井八冠。その後、将棋界最高峰のタイトル「竜王」をはじめ、「叡王」、「王将」、「棋王」、「名人」を獲得。史上最年少で七冠となった。そして、2023年10月11日、史上初の八冠を達成、21歳の若き棋士は将棋界の頂点へと昇りつめた。

「詰将棋」で培った終盤力の強さ

圧倒的な“終盤力”も、藤井八冠の強さのひとつ。自玉と相手玉の詰みの有無を見抜き、無駄なく寄せ切る。“異次元の強さ”と評される終盤力は、子どもの頃から取り組んでいた「詰将棋」で培ったものだ。幼い頃から、「詰将棋」も大好きだった藤井八冠。プロ棋士になる前から、詰将棋を解く速さと正確さを競う大会にも出場していた。大会では唯一の全問正解を誇り、なんと「詰将棋」でも“史上初”の4連覇を達成。当時、六段だった藤井八冠。大会後のインタビューでは、「今年も素晴らしい作品に出合えたことが嬉しい」と将棋愛に溢れるコメントを残していた。

対局以外の場でも、将棋と常に向き合ってきた藤井八冠。プロとして連勝記録を続けるなか、愛知県岡崎市で行われた子供向けの将棋イベントに参加。子供たちへの指導対局やトークショーなどを通して、将棋の魅力を発信し続けてきた。「自分が対局指導をする日が来るなんて、感慨深い」と話しながら、子供との将棋を楽しんだ藤井八冠。当時学生だったこともあり、トークショーでは学校に関する話題も。“決まった答えがある”ことから、得意科目に数学を挙げる一方、「苦手科目は美術です。(何を作ればいいか)まったく発想が湧かなくて…」と照れ笑いを浮かべながら回答。プロ棋士として数々の記録を更新しながらも、不得意な科目に悩む学生らしい“等身大”な一面も併せ持ってることも、彼の魅力なのかもしれない。

将棋界を築いてきたレジェンドも祝福

将棋の歴史上、全タイトルを独占した棋士は、藤井八冠を含め4人存在する。そのうちの一人が、日本将棋連盟の会長も務める、羽生善治九段だ。全タイトルが7つだった頃、1996年2月に25歳という若さで史上初の七冠を達成。47歳で永世七冠を獲得した“将棋界のレジェンド”だ。八冠達成後、藤井八冠に祝福のコメントを寄せた羽生九段。「継続した努力、卓越したセンス、モチベーション、体力、時の運、すべてが合致した前人未到の金字塔だと思います。今後も将棋のさらなる高みを目指して、前進を続けられる事を期待します」と将棋界を担う若き棋士にエールを贈った。

そんな羽生九段について、「(羽生さんが)初めて人間と麻雀をしたのがうちだった。パソコンでやっていたけど、人と麻雀やったのは初めてだと言ってね」と思い出を語るのは、愛知県蒲郡市の老舗旅館「銀波荘」の大浦武夫会長。将棋界のタイトルが5つしかなかった60年前、5冠達成を果たした大山康晴十五世名人とも親交が深かった人物だ。将棋のタイトル戦で使用されることもある「銀波荘」。実はその部屋は、大山十五世名人が監修したもの。対局者の周りに撮影スペースを確保することや中継カメラを設置するための仕組みなど、棋士ならではのアイディアが盛り込まれている。最盛期を迎え、五冠王として多忙を極めていたという大山十五世名人。そんななかでも、「銀波荘」の料理や経営についてアドバイスをしていたという。現代の将棋界の礎を築いてきた、頂点を極めた棋士たち。藤井八冠が歩む未来も、次世代の棋士たちの指針となっていくのだろう。

師匠「将棋が誰よりも好きな“将棋少年”の気持ちで…」

藤井八冠が目指す、さらなる高み。それは「永世八冠」という称号。永世タイトルとは、獲得したタイトルを防衛し続けることで獲得することができる“殿堂入り”のようなもの。例えば、最初に獲得したタイトル「棋聖」の場合、藤井八冠は2020年に獲得してから4期続けてタイトルを持っているため、来年度あと1回防衛すれば「永世棋聖」を獲得することができる。各タイトルの防衛戦に勝ち続けることで、それぞれのタイトルの永世称号を獲得することができるのだ。すべての永世タイトルを獲得するためには、最速でも7年が必要。それは、現在21歳の藤井八冠が、28歳を迎える2030年だ。気の遠くなるような、「永世八冠」への道。しかし、この永世称号を獲得した人物がいる。その人物こそ、八冠達成に祝福のコメントを寄せた羽生善治九段。永世七冠に続く“永世八冠”誕生の未来は、将棋界にとっても期待したい未来なのだ。

そんな次世代の将棋界を担う、藤井八冠の未来を温かく見守る人物がいる。それは、藤井八冠の師匠・杉本昌隆八段だ。弟子の偉業達成について、「感無量です」と満面の笑みで嬉しさを滲ませた杉本九段。「期待していたことを全て実現してくれたので、これ以上何かを期待するのはずうずうしいかなとも思う。今までと同じように、将棋が誰よりも好きな“将棋少年”の気持ちで将棋盤の前に向かって欲しいなと思います」と、藤井八冠のなかに宿る“将棋少年”の存在に心を寄せた。

八冠達成の会見で、「四段から今日まであっという間だった」と振り返った藤井八冠。将棋の面白さについて、「局面が進むにつれて、どんどん複雑になっていくところ。“そういう局面に出会えたらいいな”と思いながら、将棋を指している」と笑顔で語った。藤井八冠の心のなかには、将棋を純粋に楽しむ“将棋少年”が常にいる。初心を忘れない自分をもつこと、さらなる高みに挑戦し続けること。この2つの面を両立しながら、彼の快進撃はこれからも続いていくのだろう。

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