"産後ケア"が抱える課題解決に向けて 気軽に利用できるサービスや画期的な施設が登場
児童手当の拡充など"異次元の少子化対策"として、さまざまな政策を打ち出している政府。出産直後の家族に対する支援、いわゆる"産後ケア"も整備を進めていますが、まだまだ課題も多いようです。
「自分が産んだんじゃん…」 子育て家族が抱える本音
岐阜県土岐市に住む市岡健人さん・裕季奈さん夫婦。1歳8か月の聖奈(せな)ちゃんと、5か月の蒼人(あおと)くん、2人の子育て真っ最中です。保育園の帰りに近くの公園や公民館で遊ぶのが日課。聖奈ちゃんの最近のお気に入りは、公園にあるでこぼこした足つぼコース。でも、この日は甘えたかったのか、ママが抱っこして一周回るはめに…。終始こんな感じなので、裕季奈さんは大変です。この日はパパの健人さんも一緒でしたが、健人さんが仕事の時は蒼人くんを抱えながら聖奈ちゃんと遊びます。
家に帰っても大忙し。蒼人くんを抱えながらご飯の準備をしなければいけません。実は裕季奈さん、蒼人くんが産まれた半年程前から、体力的にキツい生活が続いているそうです。
市岡裕季奈さん:
「今もずっとしんどくて、今も蒼人くんが1時間おきに起きるので休む暇がない。本当に大好きなんだけど、それとこれとは話は違うね。辛いなんて言おうものなら"自分が産んだんじゃん"って言われるかもしれないし。それ言われたら何も言い返せないし。(発散は)不満を夫に言うだよね。当たるだよね。泣きながら」
年子で産まれた聖奈ちゃんと蒼人君。裕季奈さんにとっては、1時間おきに母乳を与える生活が、もう1年以上続いています。パパの健人さんも取れるだけの育休を全て取って最大限一緒にいてくれますが、それでも体力的には辛いといいます。
子どもを授かれば誰もが通る道…。決して、市岡さん一家だけが特別なわけではありません。
岐阜県瑞浪市の通所型産後ケアサービス 「スーパー銭湯に行くような気分で来てもらえる場所に」
"異次元の少子化対策"として政府が打ち出すいわゆる"産後ケア"の柱は3つあります。
<1>専門知識を持ったスタッフなどが自宅を訪ねる"訪問型"
<2>親子でクリニックなどの施設に通ってサービスを受ける"通所型"
<3>施設に泊まってサービスを受ける"宿泊型"
これらを整備し、誰でも使えるようにすることが自治体の努力義務になりました。
そんな産後ケアのサービスのひとつが、岐阜県瑞浪市で10月からスタートしました。同市にある塚田レディースクリニックは、助産師に話を聞いてもらったり、母乳のマッサージを受けたりと、専門的なサービスが受けられる瑞浪市で初めての"通所型"の施設です。このクリニックは、おととしまで分娩のために使用していた施設を"産後ケアの場所"として提供しました。
利用時間は午後1時から5時まで。料金は、瑞浪市民と土岐市民は1回1000円。生後4か月未満の子どもと母親が対象で、利用するには市への申請が必要となります。休みたい人は、赤ちゃんを預かってもらい、シャワー浴びたり、ゆっくり睡眠をとったりすることも可能です。
助産師 辻裕己さん:
「スーパー銭湯に行くような気分で来てもらえる場所、気軽に来てもらえる場所を作っていきたいなと思っています」
瑞浪市は、宿泊型の産後ケアサービスは可児市と恵那市の施設に委託し整備していましたが、通所型のサービスは移動時間の負担を考え、どうしても市内に作りたいと考えていました。そんな時に、手を挙げたのが塚田レディースクリニックです。2021年12月で産科を廃業し、婦人科のみとなっていたため、分娩のための入院施設だった2階部分はきれいなままなのに使われず放置されていたのです。
塚田レディースクリニック 塚田英文院長:
「これまで8000人以上の赤ちゃんを取り上げた場所。手前みそだがここまでの施設はそうはない。地域貢献という意味でも"産後ケア施設"に転用できればいい」
2023年の5月ごろから話し合いが始まり、運用開始が10月。補助金の予算付けなどを含め、市役所も迅速に動きました。瑞浪市は、より多くの人に使ってもらうため、さらなるサービスの拡充を目指したいといいます。
瑞浪市役所健康づくり課 和田美鈴課長:
「できれば午前から午後、お昼をまたいでの利用が一番望ましいと思われます。ご相談させて頂きながら事業の拡大ができれば」
整備が続いている"産後ケア"ですが、まだまだ課題も多いのだそうです。
産後ケアが抱える2大課題 "スピード感"と"2人目問題"
このような産後ケアのサービスの整備は進みつつありますが、取材の中で、課題も見えてきました。
ひとつ目が"スピード感"です。現在の産後ケアの制度では、サービスを利用するためには一度、申請用紙を自治体に提出することが必要となるため、"いま"使いたいのにタイムラグが発生してしまいます。育児に疲れている母親が役所に行くのも大変です。
そして、もうひとつの課題が"2人目"問題。産後ケアのサービスは、2人目が産まれた時に使おうと思うと、原則、通所や宿泊の施設に上の子と一緒には行けません。なぜなら、産後ケア施設の対象は生まれたての子どもと母親のみだからです。上の子は対象外となるため、託児所などに預けるか、他の家族に見てもらわなければいけないのです。
この2人目問題を解消しようと、塚田レディースクリニックでは地元NPOと協力して専門知識をもったスタッフを派遣してもらい、産後ケアに託児機能を追加。上の子も一緒に行けるようにしました。追加料金も利用者の収入などに合わせて無料~1000円程度と格安に設定されています。
こういったスピード感が自治体に求められているのです。
無料で誰でも利用できる! 専門知識をもったスタッフが常駐する子育て支援センター
そんな中、少し違う形のアプローチで支援に取り組む自治体がありました。
その場所は、岐阜県土岐市のイオンモール土岐。2階の少し奥まったところにある一見、よく見かける子供のプレイルームのような場所ですが、実はイオンモールと土岐市が連携してはじめた市内4か所目の子育て支援センター「ときめっく」なのです。
土岐市の子育て支援センターですが、市民に限らず、予約不要で誰でも利用できるため、利用者の約6割はお隣の多治見市や名古屋市から来ているそうです。利用は無料で、時間制限もありません。しかも、専門知識をもったスタッフが常駐していて、子どもと遊んでくれるだけでなく、子育てのアドバイスも受けられます。
実際に利用していた人に話を聞いてみると、「買い物ついでに来れるのでよく来ます。(専門知識をもったスタッフがいて)一人で考えなくていいからうれしい」「在宅ワークをしていて、ここでパソコン開いて仕事ができる。子どもをスタッフの人に見てもらいながら仕事しているので、週3とか週4で来ています」と好評。
ここでは、家族で参加できるイベントや、保育園やこども園に関する相談会なども行っていて、子育てについて幅広く情報収集ができることも魅力だと言います。また、週末はパパと子供を「ときめっく」で遊ばせ、ママは買い物やリフレッシュという家族も多いそうです。
課題はあるものの、様々な形で広まりつつある産後ケアサービス。まだ利用したことがない人は試しに使ってみても良いのではないでしょうか。