実習で「教員にならない」決断をする学生も… 教員採用試験の倍率は過去最低 長時間労働で“なり手不足”深刻化
教員になりたいという人が減っています。その背景にあるのが、教育現場の多忙さです。中には、教育実習で先生たちの働き方を見て、教員にならない決断をした学生もいました。深刻化する“教員のなり手不足”。学生たちの本音を取材しました。
求人は増加する一方で希望者は減少 学生たちが不安視する“教員の働き方”
先月26日、一番の繁忙期を迎えていた「教員人材銀行」。愛知県内の学校で非正規の講師として働く先生の登録などを行っています。講師を求める学校からの問い合わせは、多い日で100件以上にのぼります。求人が増える一方で、講師登録者数は減っていて、特に新卒での登録者数の減少が大きいといいます。
深刻化する“教員のなり手不足”。文科省の調査によると、近年、教員採用試験の受験者数は減少傾向にあり、今年度の倍率は過去最低の3.4倍。こうした状況を、学生はどう見ているのでしょうか。
塾講師のアルバイトをしながら教員を目指す、教育学部3年生の寺島和希さんは、勉強の楽しさを教えられるような先生を目指す一方で、不安視するのは教員の働き方。
教育学部3年生 寺島和希さん:
「友達から聞いた話なんですけど、教育実習に行って(他の先生が)朝7~8時に出勤するんですけど、夜も10時くらいまで残ってたよと聞いて、ちょっと不安だなと感じました」
文科省が昨年度行った調査によると、月の時間外労働が、いわゆる“過労死ライン”の80時間を越えて働く教員は、小学校で14.2%、中学校で36.6%にのぼっていて、その実態は、学生の目の届くところまで来ています。
なりたくても“できない”と感じてしまう教員という仕事
「教員にならない」決断をした学生にも話を聞くことができました。教育学部4年の井上響さんは、教員にならず一般企業に就職することを決めました。決断に至った理由についてこのように話します。
教育学部4年 井上響さん:
「実習で見た先生たちのように、遅くまで残って朝早く出勤という感じになると、『子どもたちと関わりたい』『授業をつくりたい』という気持ちがなくなってしまうんじゃないかなって」
一方で、実習で感じた勉強を教える“楽しさ”は心に残っていて、働き方が改善されれば、また教師を目指したいといいます。
なりたくても“できない”と感じてしまう教員という仕事。このまま目指す人が減ると、教育の質の低下が懸念されるとの指摘もあります。
東京学芸大学の岩田康之教授は「例えば、学校の先生が信用できないから塾や家庭教師で補えばいいやと考える親御さんが増えてくると、学校以外で教育を受ける機会を持たない子もいますので、格差が拡大していく影響もあると思います」と分析します。
学生の不安を解消するカギは現役教員の“生の声”
教員を目指すことに不安を口にしていた寺島さんは、現役教員を招いた勉強会に参加しました。実際の働き方などを知りたいと、岐阜県内の大学に通う学生が主催したもので、20人ほどの学生が集まり、不安の声も聞かれました。
大学1年生:
「仕事をするために生きるんじゃなくて、生きるために仕事をしているのに、なんで仕事で病まなきゃいけないんだろうみたいな考えなんですけど」
大学4年生:
「残業時間とか残業代が出ない状況で、僕は早く帰りたいと思っているんですけど、それを良く思わない先生とかも多いんじゃないかなと思っていて」
高校教員:
「毎日学校に通って授業をする。めちゃめちゃいい仕事だなって思う。だからこそ適正な仕事量の現場に変えてきたい」
勉強会に参加した寺島さんは、教員の見方が良い意味で変わったといいます。現役の教員から直接話を聞いたことで、教員の働き方は良くなっていくと希望が持てたようです。
自治体も動き始めています。三重県四日市市の学校で行われたのは、先生たちの「授業実践研修」。三重県では去年から、大学生が実際の研修に参加できる取り組みを行っています。学生は、授業を見学するだけでなく実践もあり、現場に入り働くイメージを持ってもらう狙いです。
研修に参加した三重大学教育学部4年の小川みゆきさんは、このように感想を話します。
三重大学4年 小川みゆきさん:
「(教育実習だけでは)先生方の思いを聞く機会がない。姿を見て感じることしかできないので。(研修では)子どもたちに対する熱意とか愛情を感じたし、すごくいい経験だったと思います」
長時間労働の改善とともに、このような取り組みが広がっていけば、教員の“なり手不足”も解消の糸口が見えるかもしれません。