「沖縄慰霊の日」 兄を亡くした祖母の涙…平和への思いを込めて 高校生が詩を朗読
78年前の沖縄戦の犠牲者を悼む「沖縄慰霊の日」の23日。糸満市で行われた「沖縄全戦没者追悼式」では男子高校生が平和への思いを詩に込めて朗読しました。そのきっかけは沖縄戦で兄を亡くした祖母の涙でした。
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「平和の詩」を朗読したのは、沖縄県西原町在住で、通信制の私立つくば開成国際高校3年、平安名秋さん(17)です。
「今、平和は問いかける」と題した「平和の詩」は、平安名さんが中学生のころ、沖縄戦で兄を亡くした祖母とともに、糸満市摩文仁の「平和の礎」を訪れたときの体験をもとに書かれました。
礎に刻まれた兄の名前にそっと指で触れる祖母の目に光る涙は、平安名さんの目にも、強く焼き付いたといいます。
幼かった祖母が、慕っていた兄と平和に触れ合った日々もあったはずなのに、いま、兄の名前には触れていても、兄その人にはもう決して触れることができない。
戦争が奪ったものの大きさと重さが、祖母の涙を通じて、平安名さんの胸に迫り、戦争と平和について自ら考え始めるきっかけになったといいます。
詩のタイトル「今、平和は問いかける」は、ロシアによるウクライナ侵攻など、最近の国際情勢を思い浮かべながらつけました。
「平和とは何か」という問いを大切に、今後は、同世代の若者たちと沖縄戦を語り継ぐ活動にも取り組んでみたいと平安名さんは話しています。
「平和の詩」は、毎年、沖縄県内の小中学生と高校生による応募作品の中から選ばれ、今年は933点の中から平安名さんの詩が選ばれました。
■「平和の詩」全文
今、平和は問いかける
夏六月
溶けかけたアイスを手に走り出す
緑萌ゆるこの島の昼下がり
礎に刻まれた「兄」に
まるであの日のように
そっと触れるおばぁの涙は
陽炎が登る摩文仁の丘に
ただ果てしなく広がっていく
その涙は体を包み込み
私を「あの日」へといざなう
限りないこの空は
何を覚えているのだろう
涙に満ちたおばぁの瞳は
何を語りかけているのだろう
七十八年前の
あの日
あの時
かけがえのないたったひとつの命が
憎しみと悲しみの中で
散っていった
名も無き赤子の
微かな
微かな泣き声は
震える母の手によって
冷たく光の無いガマの中で
儚く消えていった
幾多もの砲弾が
紺碧の海を黒く染める鉄の嵐となって
この島に降り注いだ
戦争が起きる前
そこには日常があった
私達と同じように
原っぱを駆け回り
友達とおしゃべりをする
みんなで暖かいご飯を食べ
時には泣き
時には笑い
時には「ありがとう」を伝える
そんな今と変わらない日常が
平和が
そこにはあった
平和は不確かで
脆く崩れやすい
いつもすぐそばにあるのに
いつのまにか消えていく
おばぁの涙は
摩文仁の丘に永遠(とわ)に灯る
平和の火は
今、私達に問いかける
平和とは何かを
私達に出来ることは何かを
私は過去から学び
そして未来へと語り継いでいきたい
おばぁの涙を
沖縄の想いを
かけがえのない人達を
決して失いたくはないから
今日も時は過ぎていく
いつもと変わらずに
先人達が紡いできた平和を
次は私達が紡いでいこう
そして世界に届けていきたい
平和を創り
守っていく
この沖縄の「チムグクル」を
※チムグクル = 精神、心に宿る深い想い