がん×認知症の“併発”で死亡リスク増――医師「がん入院患者の2割」 大切なのは「本人が決める機会」…家族は?【#みんなのギモン】
そこで今回の#みんなのギモンでは、「がんと認知症 併発したら?」をテーマに、次の2つのポイントを中心に解説します。
●死亡リスク増 何が困難に?
●家族にも負担 どう支える?
「2月4日は『世界対がんデー』です。日本人の2人に1人が経験すると言われるがん。超高齢社会を迎えた今、がんと認知症を併発するケースが増えています」
「まずは、がんの全体像を見ていきます。国立がん研究センターがん情報サービス『がん統計』(全国がん登録)によると、2019年にがんに罹患(りかん)した人は99万9075人。このうち65歳以上は75万4054人に上り、全体の75%を占めています」
「続いて認知症です。日本では2012年時点で65歳以上の約15%、462万人が認知症と推定されています。2025年にはさらに増え、推計約700万人になると言われています」
菅原委員
「国立がん研究センターでがんと認知症について研究している小川朝生医師は『がんで入院している患者の2割ほどは認知症を併発しているとみられていて、その数は増加傾向にある』と話しています」
鈴江奈々アナウンサー
「もしもがんになったら、もしも認知症になったら、それぞれは想像したことはありましたが、併発するということがあるんだ(と思いました)。確かに言われてみればそうですよね」
菅原委員
「高齢の方が増えていますからね」
鈴江アナウンサー
「そうなった時にどういう困りごとがあるのかは全く想像ができていないので、どんな備えが必要なのかぜひ知りたいです」
菅原委員
「まず、がんと認知症を併発すると何が問題なのか。認知症を併発していると、入院後の死亡率がかなり上がります。がんに限らず、様々な病気で患者が入院した時、認知症も併発している場合の死亡率は、認知症ではない方の2~3倍になると言われています」
辻岡義堂アナウンサー
「明らかな(違いがある)数字、非常に恐ろしい数字ですね」
菅原委員
「がんと認知症の併発で死亡リスクが上がる背景に何があるのか。小川医師によると3つの課題が出てきます」
「1つ目が服薬管理。認知機能の低下で、薬を飲んだか分からなくなり、適切なタイミングで薬を服用することが難しくなります。例えば、抗がん剤を2回続けて飲んで用量オーバーになってしまう、薬を飲んだ記録をつけられない、といったことが起きるといいます」
「2つ目が、痛みや体調を伝える難しさです。痛みや体調不良があってもうまく伝えられなかったり、そもそも痛みがあったことを忘れてしまうことがあります。そのため、周囲が気づかないうちに体調が悪化していた、ということが起こり得ます」
「そして小川医師が最も重要な問題としているのが、治療方針を患者本人が決める機会を失うことです。認知症の患者は適切なサポートがあればきちんと自分で決めることができるといいます」
「しかし『認知症だから本人に判断が難しいだろう』と、家族や医療者だけで治療方針を決めてしまう恐れがあります。患者さんがきちんと納得できずに治療が始まるとどうなるのか、小川医師はこう指摘します」
小川医師
「認知症の人は、周りに負担をかけまいと思って、説明が分からなくても『はいはい』とうなずいてしまいます。そうすると、それを見た担当医の先生と看護師は本人が分かったんだと思ってしまって治療を決めます」
「それで実際に治療に入ると、本人が実は全然理解ができていなくて、本人も戸惑って、病院側もどうしていいか分からなくなる、ということはよくあります」
市來玲奈アナウンサー
「認知症と併発するがゆえの難しさだなと感じました。患者さんご本人の納得もとても大事なので、丁寧なサポートも必要で、病院の皆さんも本当に大変なことになりますよね」
菅原委員
「日本対がん協会が、がん患者の治療にあたる全国の病院に聞いたところ、認知症のあるがん患者への対応で困ったことがあると答えたのが97.7%。ほとんどの病院で難しさを感じています。具体的にどのような難しさがあるのでしょうか」
「『本人が(治療について)判断できない』(93.2%)、『在宅で(の治療を)支える家族がいない(76.7%)』、『食事管理ができない』(63.1%)、『痛みなどを伝えられない』(63.9%)、『入院中のリハビリを拒否する』(59.8%)などがあります」
「認知症の併発は治療全体に大きな影響を与えていることが分かります。しかし、がん患者が入院する時に認知症の検査を行っている病院はまだ2割にとどまっていて、見過ごされているケースが多いということです」
鈴江アナウンサー
「専門的な知識がある医療機関でも、併発に対する備えはまだまだという現状なのですね。家族からすると、認知症にもがんにもそれほど詳しくないとなれば、ダブルで併発となったらどう対応していいのか、どうサポートができるのか本当に大きな悩みとなりますね」
菅原委員
「併発となると、支える家族の負担も大きくなります。小川医師が実際に見た、ぼうこうがんの80代女性のケースでは、50代の息子さんと2人暮らしですが、認知症を併発し、身の回りのことも息子さんに支援を受けないと難しい状況でした」
「そんな中、ぼうこうがんが再発。ぼうこうを全摘出し、人工ぼうこうをつける方法もありましたが、息子さん1人で働きながら1日中支援するのはかなり難しく、治療の選択も難しくなってしまいました。こういうケースは人ごとではないなと感じます」
忽滑谷こころアナウンサー
「ご本人はもちろん、支える息子さんのことを考えると本当に大変だろうな、と心が痛みます。2人に1人ががんになる時代と言われ、人ごとでは決してない、自分たちにももちろん来る未来だと思いますが、こういう時は家族はどう対応したらいいのでしょう?」
菅原委員
「小川医師によると、がんと診断されたらまず、治療をどう進めていきたいか患者本人を中心に話し合っておくことが大事だということです。というのも、入院してから認知症になることもあるので、早い段階で話しておくのがいいということです」
「また、人工ぼうこうや人工肛門が必要になった場合、ケアの負担がかなり大きくなります。そのため、退院した時に誰がケアをするのか、頻度や手間などを家族も確認しておくことが大切だということです」
菅原委員
「そして、認知症の症状にいち早く気づくのも重要な点です。認知症は物忘れだけでなく、初期の症状として好きな趣味を急にしなくなる、全然外出しなくなるなど、急に活動が減るということも多いそうです」
「そのため『年相応の物忘れかな』と簡単に捉えて見過ごさず、異変があったらかかりつけ医や地域の相談窓口などに、『こういう症状があるんですけど、どうでしょうか?』と相談することが大事だそうです」
鈴江アナウンサー
「元気なうちに治療方針などを話しておくといい、ということですが、認知症もがんも、当事者になった時は本当にそれを受け止める、受け入れるというのは、とても心のハードルが高いものだと思います。まずはそのハードルを下げる(のが大切ですね)」
「誰がなっても、いつかはなってもおかしくないものだと、元気な時から日頃から親と会話をして、前段階の心のバリアを下げておく。(そういった)日常のコミュニケーションを大事にしたいなと思いました」
菅原委員
「どんな病院・施設でも、がんと認知症それぞれの専門家がうまく連携できるシステム作りや、併発した患者さんと家族に寄り添った支援も求められます」
(2月2日『news every.』より)