“道路陥没”発生前…異変に気づく? 独自検証“下水道管の深さ”に関係か【バンキシャ!】
埼玉県八潮市の県道で起こった陥没事故。発生から6日目、転落したトラック運転手の救助活動再開のメドは立っていない。全国で起こっている“道路陥没”の前兆に気づくことはできるのか?バンキシャ!の独自検証で見えてきたことは…。【バンキシャ!】
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2日朝、埼玉県八潮市の道路が陥没した現場へ。
バンキシャ
「陥没事故から6日目。雨の中の作業となりそうです」
雨による被害拡大も警戒されていた。1月28日に発生した、大規模な道路陥没事故。トラック運転手の男性が今も取り残されているが、救助活動は難航。穴の中に一定量の水があることが妨げとなり、1日夕方から救助活動は中断し、再開のメドは立っていない。
県によると、地下を通る下水道管が破損した影響で空洞ができ、陥没した可能性があるという。発生の“前兆”はなかったのか?バンキシャ!が取材を進めると、ある可能性が見えてきた。
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1日、バンキシャ!が訪れたのは、都内の会社。陥没が起こった現場の内部はどうなっているのか。上空から撮影した映像をデータにし、3D化してもらった。(提供:CalTa・TRANCITY)
直径約40m、深さ15mほどの巨大な穴。中には、広い空間が。崩落したコンクリートなどが確認できる。大きさを測ってみると、5mを超える大きながれきもあった。
大規模な陥没が起こる約50分前。現場の道路を通ったという人に話を聞くことができた。見せてくれたのは、ドライブレコーダーの映像。
バンキシャ
「あ、これだ」
ドライバー
「これがそば屋さん」
車が現場の交差点にさしかかる。陥没が起こったあたりで、“陥没発生”の約50分前の映像からは、異変を確認することはできない。
陥没発生の約50分前に通行 ドライバー
「周りの車も普通に走っていました。デコボコがあるとか亀裂があるとかそういうのはまったくわからない」
さらに、陥没の約30分前、現場を車で通ったという人も。
バンキシャ
「ヒビとかは?」
陥没発生の約30分前に通行 ドライバー
「気にしていないというのもあったと思うが、特に何もなかったと思う」
“陥没の前兆はなかった”と口をそろえた。なぜ、前兆は表れなかったのか?
それを探るため、バンキシャ!はまず、埼玉県が公開している「流域下水道管路マップ」に注目した。このマップには埼玉県が管理する下水道管の位置や深さなどのデータが示されている。陥没した現場の下水道管の「深さ」を見てみると…
バンキシャ
「管の深さは10.61mとなっています」
しかし実は、その深さは一定ではない。下水を処理場に向かって流すため、多くの下水道管は勾配をつけて設置されているのだ。つまり処理場に近づくにつれて次第に深くなっているという。現場は処理場に近い場所だったため、下水道管の位置が特に深かったとみられる。
地盤工学に詳しい、東京大学・桑野玲子教授は、前兆が表れなかったのはこの「深さ」が理由だと指摘する。
地盤工学に詳しい 東京大学 生産技術研究所・桑野 玲子教授
「深いところに管があると、上から予兆をとらえるのが難しいというのがあると思います」
どういうことなのか?
バンキシャ!は、桑野教授監修のもと検証した。用意したのは砂を入れた水槽。上が地表、下が下水道管と仮定した。“管が破損”したと想定し、水槽の底にある栓を抜く。さらに破損した部分から水が漏れ出した状況を再現した。
こちらは下水道管が「浅い場所」にある場合。
バンキシャ
「抜きます」
管が破損し、水が漏れ出し始める。すると、小さな空洞ができ始めた。次第に大きくなっていく。そして…
バンキシャ
「空洞ができたらあっという間に地面に影響が出ました」
陥没を前に、地表に異変が表れた。
東京大学 桑野教授
「(管から)比較的すぐのところに地表があるので、空洞ができても上(地表)に頑張る余地が残っていない。なので表面の変状は早い段階で起こる」
では、下水管が「深い場所」にある場合はどうか。桑野教授が実験した映像(提供:東京大学 桑野研究室)。管が破損すると、空洞が生まれどんどん大きくなっていく。
だが地表に大きな変化はない。そして、前兆がほとんどないまま、陥没。大きな穴ができた。(桑野教授によると)管と地表の距離が遠いことで、地表に前兆が表れないまま空洞化が進む。そして地表が耐えきれなくなった時、一気に落ちるのだという。
桑野教授
「同じような状況の所には空洞がある可能性があることが、今回(の事故で)わかったことですので、砂地盤で深い所に大口径の古い管が埋まっている所は気をつけた方がいい」
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“前兆”もなく起こった可能性がある、大規模な陥没。その影響は人々の生活にも…。
避難生活をする家族
「この状況を受け入れて一生懸命やっている。頭は切り替えている感じ」
“陥没発生”から6日目。現場近くの住民たちには、今も避難が呼びかけられている。1月31日、取材中に出会った風間さん夫妻。陥没地点から80mほどの場所に自宅と経営する犬のグッズ販売店がある。今は2人の子どもと、妻の実家に避難している。この日は荷物をとりに一時帰宅していた。家から持ち出した物を見せてもらった。
妻 有紀枝さん
「お兄ちゃんの洋服が足りなくなったので、防寒関係で厚手のセーター。受験で2日目が雪になるかもしれないという話だったので」
長男・大輝さん(18)は高校3年生。実はこの土日、大学入試を控えていた。
風間 健さん
「特には口に出しては言わないんですけど、この状況を受け入れて一生懸命やっている。頭は切り替えている感じ」
住み慣れた八潮市を離れ、避難先へ。環境の変化にも負けず、最後の追い込みで勉強していた。小学6年生の長女は両親の帰りを待ちわびていた。避難先からは学校に通えず、ここ数日は授業を休んでいるという。
小学6年生 長女 紫帆さん(12)
「勉強に戻ったらついていけるかとか、仲の良い友達と何日間か離れてしまったのでさみしい。道路が元に戻ってみんなと楽しく学校に通えたらいいなと思います」
穴の中の安全が確保できないとして、中断が続いている現場の救助活動。再開できるのは、いつになるだろうか。
*2月2日放送『真相報道バンキシャ!』より