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“地方移住のリアル” 若手記者の仕事と家庭生活の両立は…

2024年1月8日 8:00
“地方移住のリアル” 若手記者の仕事と家庭生活の両立は…

筆者は岐阜の里山で育ち、汐留の日テレで報道局記者として働いている。2023年、同じく地方育ちの妻と結婚。仕事は頑張りたい。でも自然に囲まれた暮らしもしたい。こんなことを言うのはわがままなのか。この冬、思い切って東京湾を渡り木更津に引っ越してみた。
(社会部 赤坂啓人)

私は高校まで自然豊かな岐阜の里山で育った。就職してからは、東京・新橋の日テレまでドアtoドアで1時間の板橋区のアパートで暮らした。仕事は不規則なことがあり、会社から近いのは安心できた。

そんな中、2023年、同じく地方で育った妻と結婚。2人でマイホームや子どもなど将来を語り合う中で、互いに自然豊かな場所で暮らしたいとの思いが強まっていった。しかし今の仕事を続けながら、それは可能なのか。

私たちは半年にわたり移住先をリサーチ。そして2023年12月、思い切って東京湾をアクアラインで渡った対岸、千葉県木更津のアパートに引っ越した。自然は豊かで家賃は安い。一方で毎日海を越えての通勤だ。都心で精いっぱい働きながら、将来ここにマイホームをもつことは可能か。実験的な新生活が始まった。今回、この間の体験をレポートしようと思う。

■東京一極集中は続く

他県から東京に転入する人が転出を上回る「転入超過」。

東京都の統計によると、コロナ禍の2年だけ、リモートワークの普及などで、転入超過の拡大は収まるように見えたが、その後再びコロナ前の傾向に戻っていて、日本人は今も東京に集中し続けている。(データ引用:東京都の統計)

首都圏では不動産価格が高騰しているが、東京23区の賃貸の家賃も上がり続けている。全国の家賃動向を調べている「アットホーム」によると、ファミリー層向けの賃貸マンションの家賃は2015年1月を基準とすると約35%上昇している。

私と妻が地方移住を本格的に考え始めたのは2023年6月。東京・有楽町に「ふるさと回帰支援センター」があるのをネットで知り、2人で相談に行ってからだ。千葉・神奈川・埼玉それぞれの移住情報を担当する専門の相談員がいた。こちらから、勤務地や通勤時間の許容上限、希望する町のイメージなどを伝えると、いくつかの候補地を紹介してくれた。その中に千葉・木更津市があった。木更津だと東京湾アクアラインを通ってのバス通勤となる。意外な提案だったが、その自然の豊かさに惹かれ、私と妻は木更津を調べ始めた。

東京駅から首都高を西に走り東京湾アクアラインを渡りきると、そこが千葉県木更津市だ。アウトレットやコストコなどの商業施設が増えたことで、近年は観光地としても人気だ。木更津市役所産業振興課によると、東京・神奈川からの転入者は、このところ毎年1000人を超えているという。

木更津金田バスターミナルから東京湾アクアラインを通って東京駅八重洲口まで、高速バスが出ている。その便数は予想以上に潤沢で、平日なら1日107便。朝7時台であれば3~4分ごとに1便出ていて、渋滞がなければ所要時間は40分程度とされている。逆の東京駅から木更津に向かう便数も同様で、東京駅発の最終便は平日なら午後11時と意外と遅くまであった。

とはいえ、東京湾アクアラインは渋滞や強風で通行止めとなることがある。通勤への不安は尽きない。

半年悩んで2023年12月、私たちは思い切って木更津に引っ越した。

賃貸アパートは木更津金田バスターミナルとJR内房線巌根駅の中間、いずれへも自転車で10分程の場所に選んだ。万が一、東京湾アクアライン渋滞との情報があれば、ただちにJR内房線に切り替えて出勤するためだ。

新たなアパートの間取りは、板橋時代と同じく2LDK。床面積もほぼ同じだが、家賃は7万5000円ほど安くなり、半分以下になった。一方で高速バスの定期代が会社から支給される通勤費を超えたため、月1万円程度、新たな自己負担が生じた。しかしそれを差し引いても、家計の負担は月々6万円以上軽くなる計算だ。

引っ越してまだ1か月弱。その間、通勤に高速バスを12日利用した。年の瀬も迫った2023年12月下旬の日曜日。その日は午後からの仕事だったのだが、事前にWEBでアクアラインの渋滞を察知したため、初めて内房線へ出勤ルートを切り替えた。高速バスより30分程度、会社まで余計に時間がかかった。

この日以外はすべて通勤に高速バスを利用した。このうち平日午後3時台の便で出勤した際は、東京駅まで1時間10分程度と、通常より30分余計にかかったことが2回あった。

こんなことがあるため、木更津からの通勤は、出社時間の2時間前には、道路状況の確認など準備が必要なことも分かってきた。

■理想の暮らしへ…闘いは続く

始まったばかりの木更津生活。

引っ越しの片付けはようやく終わりつつある。まだ妻と2人で遠出はできていないが、房総の海岸や山、キャンプ場など、これから行ってみたいところをあれこれ語り合っている。そのときの妻の楽しそうな表情が嬉しい。

アパートの窓からは田んぼや畑、その周りには建設中の家や新築の一軒家がいくつも見える。シーズンになれば潮干狩りができる海岸までは歩いて30分。海が近いせいか、風が吹き抜ける日も多く、洗濯物は要注意である。コンビニなど少ないが、15分歩いてスーパーに行けば房総近海の地魚が並び、見て歩くだけで楽しい。

ゴールデンウイークや盆休み中の渋滞は桁違いになると予想されるため、そのときは電車通勤しかないだろう。不安は今もある。しかし日々、生活の豊かさも感じていて、この新生活をなんとか成功させようと闘志もわいている。様々な課題を攻略した先に、本当の理想の生活を送ることができると思っている。