スズムシの鳴き声が人を癒やす!? 国環研などの研究チームが効果を確認
日本で古くから親しまれてきた「虫の鳴き声」が人の心身にリラックス効果をもたらすことを、国立環境研究所などでつくる研究チームが確認し、オランダの国際学術誌に掲載された。「虫の鳴き声」をいかして、環境や生物多様性の保全を織り込んで公園や緑地を造成するなど、成果の活用が期待される。
■日本古来の「虫の鳴き声」の文化
「影草の生ひたる屋外の夕陰に 鳴く蟋蟀(こおろぎ)は聞けど飽かぬかも」(作者未詳)
これは「万葉集」の中の一首。夕日が当たらない庭先の茂みから流れ出すコオロギの声。いくら聞いても飽きないと感じた作者が、その思いを詠んだ和歌だ。
日本では古来、虫の鳴き声を楽しむ文化があり、虫の声を詠んだ和歌は数多く存在している。
「虫の鳴き声が人にいい影響を与えるのではないか」
このことを科学的に確認しようと、建設コンサルタントの日本工営(東京都千代田区)、東邦大学、千葉工業大学、国立環境研究所の4者でつくる研究チームが実験を行った。
■スズムシ、エンマコオロギなどの鳴き声で実験
使用した虫は、エンマコオロギ、カンタン、キンヒバリ、スズムシ。
実験では、1種類の虫だけの鳴き声や、2種類の虫を組み合わせたものなど、15パターンの音源を用意。それを、東邦大などの学生、男女65人に対してランダムに聞かせた上で、それそれの印象をアンケート形式で回答させた。
■“合唱”がよりリラックス効果に
まず、鳴き声を聞かせる虫の種類。1種類の虫だけが鳴くのが好まれるのか、それとも複数種の虫による“混声”が好まれるのか。
結果は、虫の種類が増えるにつれて、その音が「好き」と回答した人がつけた得点も高くなったという。
さらに印象について、「穏やかさ」「派手さ(華やかさ)」「音楽性」「深み」の4つで聞いたところ、やはりいずれも、虫の種類が増えるにつれて、得点が高くなる傾向があったという。
この結果から研究チームでは、虫の鳴き声が“混成”となることで音の調和を生み、さらにリズムが多様化することも手伝って、より好ましい印象を与えたと分析している。
研究チームによると、鳥のさえずりなどの自然由来の音が、注意力やストレスの回復に寄与するとの先行研究があり、今回、虫の鳴き声についてもポジティブな評価が得られたことから、同様に心理的な回復効果(リラックス効果)があると推測できるという。
「虫の鳴き声」のリラックス効果の研究成果は、都市緑化に関するオランダの国際学術誌「Urban Forestry & Urban Greenig」に、今月13日に掲載された。
■「自然」に耳を傾けて
研究チームの日本工営・中央研究所技術開発センターの徳江義宏課長は「身の回りにある虫の声が、人の生活を少し豊かにしていることに皆が気づくことで、世の中の身近な自然の大切さへの理解が深まればうれしい」と話す。また、環境保全や自然環境を生かした空間整備などにおいて、研究結果を活用してもらえればと期待を寄せる。
今後は、被験者の対象年齢なども幅広くして、分析をさらに深めたい考えだ。
これから迎える暑い夏、そして例年以上の節電が呼びかけられている今年。公園に出かけて、または部屋の窓を少し開けて、虫たちの合唱に耳を傾けて涼を感じてみてはいかがだろうか―。