【特集】博多発祥『筑前琵琶』山を登る子ガエルのように 不思議な光景を曲に
福岡市で10月29日、博多発祥の楽器『筑前琵琶』の演奏会が開かれました。披露されたのは、福岡の“ある山”で見られる不思議な光景をテーマにした合奏曲です。子どもたちが演奏に挑戦しました。
柔らかく深みのある音色で奏でられるのは、明治時代に博多で誕生した『筑前琵琶』です。
時代の変化とともに演奏できる人の数は減っていますが、今も地元の伝統楽器に挑戦する子どもたちがいます。
本番1週間前の10月22日、福岡市の公民館で筑前琵琶の練習が行われていました。
ことしで発足59年となる『筑前琵琶保存会』には、小学4年生から80代までの約20人が所属しています。
福岡県太宰府市から通う吉山明咲さん(14)は、2年前、学校で配られた体験のチラシをきっかけに筑前琵琶を習い始めました。
■吉山明咲さん(14)
「(Q.どんなところが好き?)難しいけど、できたらなんか達成感を味わえたり。そこが面白いです。」
指導するのは保存会の代表、寺田蝶美さんです。受け継がれてきた古曲を大切にしながらも、新たな楽曲の創作にも力を入れています。
■寺田蝶美さん(53)
「ちょっとカエルさんのように。」
ことしの定期演奏会で初お披露目となるのが、『宝満山の蛙たち』という合奏曲です。
福岡県の太宰府市と筑紫野市にまたがる標高829メートルの宝満山では、ふもとの池で生まれたヒキガエルが、天敵のヘビや階段などの障害に負けず山を登ることで知られています。
カエルの登山は謎に満ち、けなげに登り続けるその姿は、見る人を元気づけます。
■寺田さん
「(Q.カエルの話を聞いてどう思った?)おもしろいと思いましたね。不思議だと思いました。」
寺田さんは、そのカエルたちの姿に、琵琶に取り組む子どもたちの姿を重ね、合奏曲を作曲しました。
琵琶の弦を抑えてビブラートをかけるなど、演奏方法でカエルらしさを表現しています。
宝満山のある太宰府市出身の吉山さんは、稽古にも熱が入ります。
■明咲さん
「宝満山のカエルは地元なので知っているから、知っている曲となるととてもうれしい。」
■母・美知代さん(53)
「すごく頑張っています。夏休みもずっと琵琶の音色が響いていて、全く宿題はしていなかったんですけど。」
本番2日前、学校から帰宅後、琵琶の稽古に励む吉山さんの姿がありました。
■明咲さん
「緊張すると早く終わろうとしちゃって、スピードがみんなより早くなったりとかがあるので、そこが今の課題です。」
習い事としては珍しい筑前琵琶を挑戦することにした理由について尋ねました。
■明咲さん
「伝統文化を広めたいっていうのもありました。演奏者でもあり先生でもある(寺田)師匠みたいにかっこいい人になりたいです。」
この日、吉山さんが奏でる琵琶の音色は、日が暮れるまで響いていました。
本番当日を迎えました。
■母・美知代さん
「練習していて(琵琶糸を)切ってしまった。それを張り直している状態です。」
本番直前の最終確認をしていたところ、糸が切れてしまったのです。
■明咲さん
「ちょっと不安ですけど、たぶん大丈夫です。」
会場は多くの観客で埋め尽くされました。
■会場アナウンス
「プログラム1番。合奏曲『宝満山のカエルたち』。」
約10分間の演奏が終わると、会場は温かい拍手に包まれました。
■観客
「想像していたより広がりのある(映像と)合奏曲だったので、びっくりしました。」
■明咲さん
「いろんな人から褒められてとてもうれしいです。師匠みたいに、いろんな演奏会を開いて、たくさんの人に来てもらえるような人になりたい。」
■寺田さん
「1年間、きょうを目指していっぱいお稽古をしてきたので、ほっとしております。無事に終わってよかったです。」
宝満山を登る子ガエルのように、子どもたちは一歩一歩、壁を乗り越えています。懸命に取り組む子どもたちの琵琶の音色は、観客の心に響いていました。