戦後80年 「人類は愚かではない」 平和教育に心血注いだ被爆教師・森下弘さん【NEVER AGAIN・キノコ雲の上と下】
広島テレビの被爆80年に向けた取り組み『ネバーアゲイン』のひとつ「キノコ雲の上と下」。平和教育に心血を注いだ被爆教師の森下弘(もりした・ひろむ)さんは、その長年の功績が認められ、広島大学から表彰されました。
森下弘さん、94歳です。先日腰を痛め、晴れの舞台へは車いすでの登場となりました。広島大学から、優れた教育を実践している個人や団体に贈られる「ペスタロッチー教育賞」が、1月30日に授与されました。
■森下弘さん
「身に余る光栄だと思っております。本当にありがたかったです。」
80年前、森下さんは旧制・広島第一中学(現・国泰寺高校)の3年生でした。学徒動員先で整列したとき、上空で原子爆弾がさく裂しました。
■森下弘さん
「大きな巨大な溶鉱炉の中にすぽっと投げ込まれた、そういう感じです。耳殻がやけどで溶けたというか、なくなってしまった。」
大やけどを負いながらも、戦後、高校の教師になった森下さん。また、1964年には、ヒロシマを世界に訴える「平和巡礼団」の一員としてアメリカを訪れます。そこで、原爆投下を命じたトルーマン元大統領の会見に参加しました。
■森下弘さん
「ひょんなことで戦争が始まって、原爆投下に至ったと。(原爆投下で)戦争を早期終結できたと言いましたね。」
会見で、謝罪の言葉はありませんでした。
■森下弘さん
「非常に心に残念な思いが、悔しい思いがかなり続いていましたね。」
しかし、そのトルーマン元大統領も罪悪感に苛まれていたのです。原爆投下3日後に友人に宛てた手紙には、日本の女性や子どもまで皆殺しにしてしまったことへの、後悔の念を吐露していました。
森下さんは帰国後、あらためて平和教育について考えるようになります。教科書に原爆についての記述が少ないことに愕然とし、自ら資料を集め、高校生向けの副読本を作りました。
■森下弘さん
「戦争はなぜ起こるかといった平和教育を、強力に連帯して押し進めようと。」
自宅には、その時集めた資料が所狭しと並びます。自らがまとめた被爆者へのアンケート、原爆や戦争についての書籍や、新聞の切り抜きなどです。
■森下弘さん
「資料がこれからは大切になってくると思います。頑張って整理して、次の世代にバトンタッチして活用してもらえるように。」
こうした長年の功績が、「教育賞」の受賞へと結び付いたのです。記念講演では、学生や大学関係者らの前で、思いを語りました。
■森下弘さん
「世界大戦が終わったときに、私が思ったのは「人類は愚かではない」と。だから、同じ過ちは絶対繰り返さないように。ところが、今も非常に危機的な状況が存在しているわけです。それでもなおかつですね、「人類は愚かでない」という思いを、今も改めてもう一度思い起こしたり、信じたい。」
■広島大学教育学部 磯野夏綺さん
「どんな授業や資料よりも、当事者の方の声は重くて鋭くて、心に刺さりました。」
■人間社会科学研究科大学院生 高須明根さん
「実際に世界でも戦争が起きているので、議論したり、考えを深めたりするような授業もできたらなと思っています。」
同じ過ちを絶対に繰り返さないためには、どうすればいいのか。命ある限り資料を集め、次の世代とともに考え、伝えていく。被爆教師としての信念です。