【広島・原爆の日】ヒロシマの声はいつ届くのか… 核の脅威の現状を池上彰さんが解説
世界を包む恐怖、核兵器は再び使われるのでしょうか。ウクライナへの侵攻から2年半。ロシアは「戦術核兵器」の使用を想定した演習で、欧米などへのけん制を強めています。アメリカが核兵器を含む戦力で日本を守る「拡大抑止」。初めての閣僚会合が開かれました。注目される次のリーダー選び…遠のく核なき世界…ヒロシマの声はいつ届くのでしょうか。世界で核兵器がどんな状況になっているのか、これからどうなっていくのかを、池上彰さんが解説します。
■池上彰さん
世界に今、核兵器がどれくらいあるかということですね。79年経った現在、スウェーデンの研究機関の調査によりますと、今年の1月時点で9カ国が合わせて1万2121発の核兵器を持っている。これだけを見ると、去年に比べて 391発減ってはいるんですね。これは、全体のおよそ9割を保有するアメリカとロシアが、古くなった核弾頭を解体したためだということなんですね。そして注目は、3番目に多い中国。中国は逆に90発増やしているんですね。合わせて500発ということになってます。中国に関しては、今後10年間にわって、さらに増え続けると予想されているということなんですね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
ロシアも309減ってはいるんですが、使えなくなったものを解体した?
■池上彰さん
まだ必ずしも使えなくなったわけではないんですが、要するに、ミサイルのところから核弾頭を外したということですよね。とりあえずは、いわゆる実践配備といいますか、すぐに使えるようなものを減らしてはいるということなんですけど。そして、アメリカとロシアに関しては、過去に東西冷戦時代から核兵器を減らしていくという様々な条約がありましたよね。それによって、少しずつ減ってきてはいるんですが、中国はそこに参加していないということなんですよね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
なので、中国は増えていると。
■池上彰さん
はい。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
ロシアの核兵器、「配備済み」という言葉が出てきました。
■池上彰さん
そうなんですね。つまり、持っているものとすぐに使えるようにする、つまり例えば、普段はミサイルと核弾頭を別々に保管している、それをミサイルに搭載することによって、いつでも発射できるような状態にする、これがいわゆる配備済みということですよね。プーチン大統領がウクライナへの進行をしながら、核の牽制をして、かなりちらつかせますよね。その結果がつまり、配備してるものが増えてきているんだということだろうと思いますね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
ミサイルに搭載して、作戦基地に配備。これはもう、いつでも使える状態にあるぞというような、これが威嚇になるわけですね。
■池上彰さん
はい。威嚇になりますよね。あるいは、特に「戦術核兵器」という言い方が先ほど出てきました。実際に、本当に相手の国を破滅させるような巨大な爆発ではなく、 あくまで戦場で使える爆発力を小さくしたもの、これを配備するという形で、いつでも使えるんだぞという脅しに使ってるということですよね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
また、こうしたロシアに加えて、中国・北朝鮮となってきますと、やはり日本を含めた東アジア、この緊張感が非常に高まってくるかと思います。
■池上彰さん
その通りですよね。
■池上彰さん
であるからこそ、じゃあ、日本は「核の傘」にという言い方に出てくるわけですけど、ここで改めてアメリカとの間で、核の傘に入ることを確認するような取り組みが行われたということですね。それが「拡大抑止」という言葉なんですね。ちょっと耳なれない言葉だと思うんですが、そもそも日本は、アメリカの「核の傘」に入ってると言われていました。その状態は変わらないんですが、あくまで核兵器を含む戦力で「同盟国全体を守るんだ。アメリカは日本だけでなく、例えば韓国とか、そういうところも含めて守るんだ。」ということを、改めて確認したということなんですね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
初会合というのがありますが、日本からは上川外務大臣、そして木原防衛大臣、そしてアメリカからはブリンケン国務長官と、オースティン国防長官、この4人が並んでいる映像というのは、かなり世界のメッセージにも繋がりそうな気がするんです。
■池上彰さん
これは明らかに、中国あるいは北朝鮮を意識した会合であり、映像だろうと思いますね。
■広島テレビ 井上沙恵アナウンサー
これまでも日本は、アメリカの核に頼ってきたという認識を持ってるんですけども、さらに高めなくてはならないということで、これまでとはまた変わってくるんでしょうか。
■池上彰さん
そうなんですね。「核の傘」に入ってることにおいては、変わりはないわけですよね。でも、あえてこういう言い方をしたということは、核抑止を確認し合ったんだということですね。そして、アメリカ全体が東アジアの同盟国を守るんだということをアピールした。それはやはり、中国なり、北朝鮮に対する牽制の意味があるんだろうと思いますね。
■広島テレビ 井上沙恵アナウンサー
ただこれは、核兵器の廃絶に逆行することになるので、当然、被爆者の方などからは反対の声が上がりますよね。
■池上彰さん
はい、そうですよね。今日の平和宣言で松井市長がおっしゃっていたように、核抑止力という考え方自体を払拭しなければいけないんだという、そういう松井市長の願いに対する、逆行するということですね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
このタイミングでこの会合が開かれたというのは、理由があるんですか。
■池上彰さん
やはりこれは、例えば台湾有事でありますとか、そういう東アジアの情勢が非常に緊迫化しているということに対して、アメリカが日本をちゃんと守りますよという、そういう保証してくれるという、だから日本の国内でも、これで安心だと考える人たちも中にはいる、ということだと思いますよね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
ただ、アメリカと言いますと、大統領戦を11月に控えています。
■池上彰さん
そうなんですね。今、本当に民主党が、ハリス副大統領が出るということになって、非常に支持率が拮抗していて。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
かなり追い上げているという。
■池上彰さん
ほぼ拮抗状態ですから、本当に11月まで全くわからないというところですね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
拮抗している中で、もしトランプ前大統領が、また帰り咲くということになりますと…
■池上彰さん
そうなんですね。実は、今回の「2+2」という形で、両者が対談したのも、例えアメリカの大統領が変わっても、アメリカは日本を守りますよというアピールでもあったということなんですが、実は、トランプ前大統領は「なんで日本を守ってやらなければいけないんだ。日本も核武装すればいいじゃないか。アメリカは日本を守らないから、自分で守れ。」と、こういう言い方を過去にしていることがあるので、そういう意味では、大統領が変わることによって、核を巡る情勢が大きく変化するかもしれないということですね。
■広島テレビ 森拓磨アナウンサー
その辺りの日本への影響というのも、注視しなければならないという、11月の大統領選になります。ここまで、池上彰さんの世界の核の現状に関する解説でした。
【2024年8月6日放送】