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【100分の1ミリの世界】不妊治療のスペシャリスト“胚培養士”の仕事場にカメラが潜入

2023年10月30日 21:29
【100分の1ミリの世界】不妊治療のスペシャリスト“胚培養士”の仕事場にカメラが潜入
顕微授精で卵に精子を入れる
11人に1人の赤ちゃんが体外受精で生まれる今。不妊治療は去年から医療保険の対象となり、ますますニーズが高まっています。その不妊治療に欠かせないのが胚培養士と呼ばれる受精卵を扱うスペシャリスト。命に関わる仕事ですがその立場が確立されていないなど課題もあるようです。知られざる現場にカメラが入りました。

11人に1人が体外受精で生まれる今

「卵の時点でかわいい」

不妊治療を受ける女性はそう話します。

 鹿児島市のレディスクリニックあいいく。年間200人以上の患者が体外受精により妊娠しています。許可を得てその現場にカメラが入りました。

 女性の卵子を体外に取り出す「採卵」。医師が卵巣に管を入れて吸い取ります。その卵を託されたのは胚培養士。受精させて子宮に戻すまで育てる。治療の中核を担います。

(胚培養士・大谷直人さん)
「卵の周りに卵丘細胞というのがついてるんですけど、これがたくさんついてるほうが良くて」

もやのような細胞に包まれた丸い粒。これが卵子です。その大きさは僅か0.1ミリ。
扱うガラス管は溶かしてさらに細く引き伸ばして使います。操作は、なんと自分の息で。

(胚培養士・大谷直人さん)
「息でした方が微調整がきく。慣れているので」

採卵は女性にとって肉体的にも精神的にも大きな負担がかかります。1つも無駄には出来ません。とれた卵は患者の希望で全て「顕微授精」することに。卵子に直接精子を注入する、高い技術が求められる作業です。

形や動きを見極め良い精子を選びます。

(胚培養士・大谷直人さん)
「ここが培養士にとって悩む1つなんですけど。この精子を選んで果たしていいのだろうか?すごい葛藤があるんです。これですべてが決まる」

特殊なコントローラーを使って肉眼ではわからないほどの微細な調整を繰り返します。

“取り違え”は絶対許されない 受精卵は凍結保存

 受精卵は数日培養し、正常に育ったものだけを移植まで凍結保存します。個人差はあるものの採卵してここまでたどり着くのは6割ほど。培養室に並ぶ容器には1つあたり約250人分の受精卵が保管されています。取り違えは許されません。

医療保険の対象になった…積み残された“課題”とは

 生命に関わる重要な役割を担う胚培養士ですが、実は医師や看護師のような国家資格ではありません。民間の資格制度はあるものの資格がなくとも働くことは可能です。施設によって妊娠率を左右する技術の差が生まれることが懸念されます。

(胚培養士・大谷直人さん)
「教育機関が十分ではないので教育が各施設に任されている。それによって格差が生じてしまうのは大きな問題。国家資格化によってしっかりとした仕組みが出来ればある一定の技術水準が確保できるでのはないかと思う」

 体外受精など大半の不妊治療は去年4月から保険の適用対象となりニーズは高まっています。胚培養士の地位を確立し技術水準を担保することは積み残された課題です。

さらに治療を受ける側にとっては保険適用となる年齢や回数の制限が足かせになっている現状も。

(樋渡小百合院長)
「1年半たって保険適用の回数制限があるので回数オーバーして妊娠に至らない方というのが出始めている。そうなるとかなり高額の自己負担が発生するので治療の継続に悩む方が出だしていて、そこが今の悩み」

 費用面だけでなく職場や社会の理解を拡げ通院しやすい環境を作ることも大切だと訴えます。

“小さな命”と向き合う胚培養士

この日、胚培養士の大谷さんは来院した患者の元へ。

(胚培養士・大谷直人さん)
「回復も非常に良好で凍結前の状態に戻ってます。これを移植させていただきますね」

手渡したのは、これから移植する受精卵の写真。

(患者) 
「卵の時点ですごくかわいい。愛着が湧く。楽しみもあるけど、ちゃんと育ってくれるかなという不安もあります」

 体外受精によって生まれた子供はおととし、過去最多の7万人近くに上りました。全体の出生数から計算すると約11人に1人です。

移植した女性は無事、卵が着床したそうです。

(胚培養士・大谷直人さん)
「一番嬉しいのは妊娠されたとき。患者さんから『卵大事に育ててくださってありがとうございます』と言われた時。嬉しそうにされている姿を見るのが最大の喜びですね」

「赤ちゃんが欲しい」。切なる願いを叶えるため、胚培養士はきょうも小さな命と向き合います。(KYT news every.かごしま 2023年10月12日放送)

鹿児島読売テレビのニュース