【特集】「4病院再編」なぜここまで難航するのか【2024年振り返り】
精神保健福祉士 川村有紀さん
「ここまでくるのにすごく長かったなっていう思い」
精神保健福祉士の川村有紀さん(40)。
川村さんは10代の頃に統合失調症を患い、約2年間、名取市の県立精神医療センターに入院していた経験がある。
患者としての立場、そして、それを支える立場の両面を知る川村さんは、県立精神医療センターの移転反対を訴える団体の共同代表を務め、県に対して繰り返し富谷市への移転に反対してきた。
精神保健福祉士 川村有紀さん
「現在入院している患者も数多くおりますし、そういった患者が今後どうなっていくんだろうということで私たちはすごく不安を感じていました。」
3年前、県が打ち出したのが「4病院再編構想」。
仙台市太白区の仙台赤十字病院と名取市の県立がんセンターを「名取市」に移転。
仙台市青葉区の東北労災病院と名取市の県立精神医療センターは「富谷市」に移転・合築する計画だった。
背景にあるのは「少子高齢化」。
人口減少が進むなか、高齢化によって医療を必要とする人が増える一方で、少子化の影響で医療の担い手不足は深刻だ。
そして、「急性期病院」と呼ばれる重い病気などに対応する入院設備の整った大きな病院は仙台市に集中している現状。
建物の老朽化や経営上の視点を踏まえたうえで、名取や富谷を含めた仙台医療圏として病院配置のバランスを取ろうというのが県の考えだ。
しかし、病院が動くということは、その地域の環境が大きく変わるということ。
対象となった4つの病院に関わる地域住民を中心に、移転反対と話し合いを求める声があがり続けた。
そして去年12月、反対の声を残しながらも仙台赤十字病院と県立がんセンターについては、 統合して名取市に移転する基本合意を締結。
しかし、県立精神医療センターと東北労災病院は、着地できない状態が続いた。
村井知事(2023年9月1日)
「県内で経営実績のある精神科病院の中で名取市で新病院を建設する病院があるかどうか公募してみたい」
合意を取り付けたい県は、
「富谷市に移転した上」で、
①名取市に新たな精神科病院を誘致する案
②名取市に分院を置く案を出したが、前に進むことはなかった。
11月13日、県が初めて富谷市ではなく「名取市内での建て替え案」を選択肢として示すと、審議会は全会一致で「名取市内」を選択した。
村井知事
「関係者との協議により解決が図られることを前提として、県立精神医療センターの名取市内で建て替える方向で検討を進めてまいります」
4病院再編を打ち出してから約3年。
村井知事は一転して、県立精神医療センターを名取市内で建て替える方針を示した。
村井知事
「二転三転したわけではなく紆余曲折はございましたけどここにやっと至ったと」
医療を巡る環境に詳しい東北福祉大学の佐藤英仁教授は通常の医療と精神医療の違いを指摘する。
東北福祉大学 佐藤英仁教授
「長期にわたって療養しなければならないっていう特殊性も精神病院の1つの大きな特徴。患者さんが精神的に疲弊する可能性はしっかりと考えていかなければならない」
内科や外科にまして、患者と医療スタッフの関係性が重要となってくる精神医療。
病院が移転すれば、本人だけでなく、サポートする家族にも影響がでてくる。
東北福祉大学 佐藤英仁教授
「全国的な傾向をみると精神病院に入院している患者さんの近くに住みたいっていう家族の想いがありますので引っ越すケースというのは少なくありません」
患者を支える立場とともに、自身も入院した経験がある川村さんは、「当事者の話を聞いてほしい」と訴える。
精神保健福祉士 川村有紀さん
「精神障害ってちょっと薬を飲んで何日か寝たら治るってそういう病気ばかりではないので、病院に長く通って先生とお話したりしてリハビリをしたり薬を飲んだりということをしながら徐々に安定した生活を送れる疾患あるので。そういった時にいつも通ってる病院があるのは大事なこと」
伊藤有里 記者
「医療体制の再構築は必要性を感じる一方で、県の二転三転する対応は結果として当事者に戸惑いを感じさせ続けました。県内どこで暮らしていても安心して医療を受けられるため納得のいく議論と丁寧な説明が求められています」