【特集】仙台市長が語る「宿泊税」 現場からは不安の声…年間10億円の使い道は?【2024年振り返り】
郡和子 仙台市長
「私自身は、逃げているということではまったくございません」
議決されてなお、“説明が足りない”という市民の声もある「宿泊税」。
市議会定例会(10月4日)
「(宿泊税導入を)決することに賛成の諸君の起立を求めます。」
仙台市議会が賛成多数で可決したのは2024年10月のことだ。
そもそも宿泊税とは観光振興を目的にしたもので、1泊6000円以上の宿泊に対して、1人300円を徴収する。
2002年の東京都を皮切りに、大阪府や京都市、北海道ニセコ町などすでに10の自治体で導入されている宿泊税。
東北地方を含めて、各地の自治体が導入に向けた動きを加速させている。
(※徴収額は各自治体によって異なる)
宿泊税の導入によって仙台市に入る税収は年間約10億円。
これを原資として観光客や宿泊者数を増やし、3年後にはこれまでの最高額と比べて114%。
約190億円という経済効果の上積みを狙っている。
しかし、これまでなかった税金を新たに徴収する立場となるホテル事業者からは不安の声も上がっている。
仙台ホテル旅館組合 梅原 敏 組合長
「この現場で(宿泊税を)現金でくださいというのはだんだん言いづらくなってしまうのが現状ではないか。お客様はたぶん『え?』って」
仙台市内のホテルなど56事業者が加盟する組合のトップを務める梅原さんは、現場の負担に対する仙台市の対応が十分ではないと感じている。
仙台ホテル旅館組合 梅原敏組合長
「我々の声がかき消されてしまうようなことが今まで多々あったので、そういうことがないように、きちんと声が届くようにしていただきたい」
“説明や話し合いが足りない”という声もあるなか、ミヤギテレビでは宿泊税導入の背景と狙いについて、直接、郡市長に聞いた。
郡和子 仙台市長
「これからの日本の人口減少社会、限られた財源の中でどういう事業にどのくらい必要なのか。義務的な経費もあるわけですから、そのほかで何が出来るのかの知恵を絞りながら仙台の街が世界から選ばれるようにしていきたい」
背景として、まず口にしたのは少子高齢化。
国内からの宿泊者数は減り、このままの状態で行けば2019年の年間約590万人から2045年には約490万人となる想定がある。
対策を打つにも仙台市の人口自体が減り、今より税収が厳しくなる中、宿泊税によって観光をターゲットとした財源の確保が目的だという。
そして、宿泊税を活用した具体的なプランについては…
郡和子 仙台市長
「(仙台の観光地を)多くの方々に知っていただき、それに関わるイベントやコンテンツを拡充していくことで、ここ仙台においでいただけるものとそう思っているんです」
狙うのは新たな観光資源を作り出すこと。
市民を前に市長自らビジョンを語った。
仙台ゆかりのアニメや漫画をいかしたコンテンツの拠点づくりのほか、宮崎県で人気を集める観光スポットを参考にした秋保大滝エリアの展望台なども想定するプランの1つだ。
一方、「場所」ではなく、「時間帯」という観点から、観光客を取り込めないか。
そう考えるのは仙台を拠点に活動する世界的なパフォーマンス集団「白A」の菱沼さん。
白A 菱沼 勇二さん
「牛タン・笹かま・伊達政宗公などあると思うが、やっぱり仙台の観光資源の代名詞的なモノは昼に消費して、 夜の“コト消費”がない。アクセスがいいので、夜は泊まらずにどこかに行ってしまうのは観光者の行動傾向」
これまでも市と連携した取り組みを進めるなか、夜に仕掛けるコンテンツがそのまま宿泊する観光客の増加に。
そして、メイドインジャパンの体験型コンテンツが、東北地方が苦戦するインバウンド対策としても新たな強みになると考えている。
郡和子 仙台市長
「仙台市が持続的に発展していくために何が必要か考えた時に、産業のすそ野が広い観光は大きな産業」
“税金を集める”という負担をかける宿泊事業者に対し仙台市は、一定の条件を満たせば納めた税金のうち最大3.5%を還元するほか、宿泊者対応を含めたコールセンターを設置するなど、支援策を打ち出した。
旅行や観光を専門分野として、自治体の宿泊税導入に助言なども行う「日本交通公社」の江﨑さんは、実際に導入した後の進め方が大切になってくると指摘する。
日本交通公社 江﨑 貴昭 副主任研究員
「観光の計画を作るにあたっては、行政だけでなく地域の関係者や宿泊事業者、外部の専門家も交えて作るモニタリング体制(の構築)がいま特に大事だと思う」
同じ時期に導入を決めた県とともに、宿泊税の徴収が始まるのは2025年11月頃からの見通しだ。
制度導入後も様々な関係者から意見を集める仕組みづくりを通して、時には立ち止まりながら、いかに官民が一体となって取り組む姿勢を作っていけるのかが大切だ。