「元寇」関連遺物は4000点以上 地域の歴史を解き明かす “公務員ダイバー” 43年続く海底調査《長崎》
鷹島沖で潜水する松浦市の職員。地域の歴史を解き明かします。
「元寇」の海底遺跡調査に奮闘する公務員ダイバーに密着しました。
▼水中考古学の聖地「鷹島海底」
伊万里湾に面した松浦市鷹島。その沖合は「元寇」終焉の地です。
去年12月。港にはダイビングスーツに身を包んだ男性たちの姿が。
(松浦市文化財課 早田晴樹 副主任)
「改めておはようございます。本日12月4日月曜日、令和5 年度第2回のモニタリングとなっています」
船に乗り込み、海底遺跡の調査に向かいます。
▼1980年から始めた海底遺跡の調査
松浦市文化財課の早田晴樹 副主任と内野義 課長は、海中で調査を行う「公務員ダイバー」。
重さ20キロ以上の潜水機材を入念にチェックします。
(松浦市文化財課 内野義 課長)
「命かかってますからね。上がってこられなくなると大変なので」
約740年前の鎌倉時代に、モンゴル帝国が襲来した元寇。
2度目の「弘安の役」では、約4400隻の船が暴風雨に遭い壊滅したと言われています。
鷹島沖の海底では、2011年に元寇船の一部が見つかりました。
翌年には、島の南岸から沖合200メートルまでの海域が「鷹島神崎遺跡」として国の史跡に。
2014年には、遺跡の東側で2隻目を発見。
保存のため砂の中に埋め戻され、海の底に眠っています。
(ダイバー)
「40分経過、40分経過」
そして、今年10月。新たに「元寇船」の一部とみられる木製の構造物が。
3隻目の可能性が指摘されています。
今回、行う調査は・・・。
(松浦市文化財課 早田晴樹 副主任)
「1号沈没船と2号沈没船に、“デー タロガー”という海底の状況、デ ータをとる機材を入れている。 これが半年でメモリーとバッテリーが切れるので、今日の作業としては、それの回収と入れ替え作業。いわゆるモニタリング作業」
▼潜ることで歴史のロマンを体感 当初は恐怖も
早田さんは市職員になった後、遺跡調査のため、潜水士の資格を取得しました。
(松浦市文化財課 早田晴樹 副主任)
「最初はやはり怖かったが、これも仕事でやっているし、鷹島海底遺跡という非常におもしろい題材の遺跡なので。でも、最初はやはり怖かった。水深が結構 深い所は深いので」
過去の調査でも海底に。
地元の歴史のロマンを体感してきました。
(松浦市文化財課 早田晴樹 副主任)
「1号船も2号船も、埋め戻す前を見ているが、本当にすごかった。『あっ、船だ』って、感動した」
船には、水中考古学の第一人者、國學院大学の池田 榮史教授の姿も。
1992年から、鷹島海底遺跡の調査研究に携わっています。
(國學院大学 池田 榮史教授)
「内野さん、結構重めに持っている」
(松浦市文化財課 内野義 課長)
「これで14キロ。ウエットスーツを着たときは、軽くして4キロぐらい」
沖合、約200メートル地点に到着。早田さんと内野課長も準備は万端です。
水深20メートルほどの海底遺跡へ。
▼日本で松浦市だけの取り組み
水中の遺物の保存状態は、塩分濃度や水温、海底の砂や泥の状況などで変わるといいます。
酸素が遮断されていれば、腐敗は陸上より進みにくく、原形に近い形で保たれるそうです。
そのためにも “定点観測” は重要。
潜水時間なども管理しながら、慎重に設置した計測器を回収しました。
(松浦市文化財課 早田晴樹 副主任)
「3つが半年間海底で設置していた “デー タロガー”。溶存酸素計と水位計と電気伝導計の3つ。半年も海底に寝ていたので、牡蠣殻がいっぱい付いている。(元寇船を)埋め戻した後の環境を、モニタリングする機材ですね」
1980年から始めた海底遺跡の調査は43年に。
こうした取り組みは日本でも松浦市だけだと言います。
調査で出土した元寇関連の遺物は、4000点以上を数えます。
▼遺跡出土だけでなく、保存処理も重要
貴重な遺物が多く、その保存処理や展示環境の整備を担うのが、松浦市文化財課の安木由美さんです。
(松浦市文化財課 安木由美主事)
「木の中にたくさん水分が含まれている状態で見つかるので、そのまま取り上げて自然乾燥させると、中の水分が全て抜けてしまって、木製品が縮んで形状が失われることがあるので、その形状を維持するために保存処理が必要」
従来の保存処理には “ポリエチレングリコール” という石油化学系の液剤が使われていました。
(松浦市文化財課 安木由美主事)
「木に釘が刺さっているような、それをポリエチレングリコ ー ルで処理した時に鉄製品のところが錆びてくる。鷹島でも問題になっていた」
そこで専門家の助言を基に着目したのが、天然由来の糖質「トレハロース」です。
(國學院大学 池田 榮史教授)
「それを使うと、期間も安全性も格段に高まることが分かってきている。保存処理の方法をうまく作り上げることで、従来の時間よりもすごく短くて、安全に保存処理できる状況を作っていく。そういった実験をしている」
トレハロースを溶かした水槽の中には、去年引き上げられた元寇船の大型いかりが。
10年以上かかるとされた保存処理は、トレハロースの活用で、2~3年に短縮され、劣化も防ぐことができるそうです。
(松浦市文化財課 安木由美主事)
「残していくことで、後世の人たちにも “元寇” を体感してもらうことができるので、仕事としてとてもやりがいがあると思っている」
(國學院大学 池田 榮史教授)
「このことがうまくいけば、将来的には船を引き上げて保存処理をして、展示をするというところまでの道筋が見えてくる。
“探す” という段階から、これを “保存し活用する” というレベルの作業を、継続的にやっているところというのはここしかない」
▼さらなる活躍が期待される「公務員ダイバー」
水中考古学の聖地と言われるようになった松浦市。
海底遺跡を舞台に、公務員ダイバーの活躍は続きます。
(松浦市文化財課 早田晴樹 副主任)
「潜る公務員というと面白い肩書きだと思うが、遺跡は陸上だけではなくて水中にもいろんな遺跡がある。目を向けてほしい」