自然の力を使って四万十川の再生を目指す 『NBS』プロジェクトとは【高知】
ウナギやアオサノリなどが以前のように獲れなくなった高知県の四万十川で今、自然の力を使いながら川の再生を目指すプロジェクトが始まっています。3月上旬に国内外の研究者がシンポジウムを開いて紹介した「NBS」と呼ばれる取り組みを取材しました。
3月4日、四万十市のしまんとぴあで開かれた「四万十川NBS国際シンポジウム」。
一般社団法人生態系総合研究所の小松正之代表が中心となって企画したもので、国内外の科学者など12人が登壇し、県内外の土木関係者や漁業者など約120人が耳を傾けました。
このシンポジウムで紹介されたのが、アメリカなどで広く取り入れられている「NBS(ネイチャー・ベースド・ソリューション)」という自然の力を活用しながら生態系と人の生活のいずれにも利益をもたら取り組みです。シンポジウムを通して小松さんたちは、このNBSを四万十川流域で広く展開することを提言しました。その背景にあるのは四万十川の水質汚染です。
2022年、小松さんは地元の漁業者から四万十川で魚が獲れなくなった理由が知りたいと依頼を受け調査を開始。小松さんの聞き取り調査によりますと、四万十川下流域のアオサノリ養殖量は2000年は15トンでしたが2020年には4トンまで減り、2022年と2023年はゼロでした。また、四万十川のアユやウナギ・エビなども減少していて、小松さんたちは四万十川の水質の状態を調べるため濁り具合について測定しました。
すると、きれいな水の濁度の上限2・0に対し、アオサノリを養殖している四万十川下流域の表層の濁度は26・5、川底の濁度は295・7と非常に濁っていることが分かりました。この水質を改善するために有効なのがNBSだと小松さんたちは強調しています。
小松さんとともに研究を続けてきたのは、河川流域を専門とするアメリカの科学者キース・ビンステッドさんです。
キースさんが所属する会社では1990年代からアメリカ国内でNBSの設計や施工を行ってきていて、四万十川の汚染を防ぐ手段として次のように述べました。
■キース・ビンステッドさん
「四万十川への水の汚染を最小限にするためには、農地で農薬や肥料の使用を削減することも一つの対策だが、それに加え農地から流出する水を処理するために湿地帯を造成すること、NBSを適応することも考えられる」
これを実現しようと取り組みを進めているのが、四万十町のショウガ農家「佐竹ファーム」です。佐竹ファームでは3.5ヘクタールの畑でショウガを生産していて、去年8月に小松さんたちの研究チームがNBSの導入を佐竹孝太専務に提言。佐竹さんは環境に配慮しようとNBSの導入を決めました。
■佐竹孝太専務
「ショウガの圃場の中で、今は降った雨が直接川に流れている現状なので、約20アールぐらいの面積のうち15アールぐらいでショウガを従来通り栽培して、あと5アールぐらいを湿地帯を含めた段階的に水がきれいになるような構造物を作ってチャレンジしていく」
畑から出る農業排水をまず湿地帯に流し、湿地帯では植物やバクテリアの力を使って排水内の汚染物質を分解し、きれいになった水を川に流すというものです。
この取り組みが四万十川の汚染のひとつとされる農業排水の問題の解決に繋がるとみられています。
■佐竹孝太専務
「10年後、20年後に向けて取り組む価値というか取り組むべき課題かなと思っている。次の世代にとって川をきれいにしていくことが必要なので、その点でもNBSの取り組みを取り入れて、少しでも地域の人でも還元できれば」
シンポジウムにあわせて、環境に配慮するNBSの取り組みを若い世代にも知ってもらおうと、2日には四万十市の四万十川学遊館あきついおでアメリカの科学者たちと市内の小学生から高校生までの12人が交流する場が設けられました。
この会ではアメリカのスミソニアン環境研究所の科学者デニス・ウィグハムさんが実際にNBSを導入し環境が改善された、アメリカ・チェサピーク湾での取り組みの事例を紹介しました。子どもたちは興味津々で耳を傾け、アメリカと日本の環境の違いなど積極的に質問していました。
■参加した中高校生
「面白かった、貴重な外国の方々と話し合えてとても楽しかった」
「環境を守るために修復の事業があることも初めて知った」
「ぜひもっとどんどん進めていって、きれいで長い間続いて環境が良くなればいいなと思った」
■デニス・ウィグハムさん
「こういった経験ができたのでそれを皆さんに覚えておいていただいて、将来何らかの形で自然を守ること、自然の保全に関わってもらえたら」
シンポジウムや交流会を企画した生態系総合研究所の小松正之代表は「四万十川のことを考えると何もしないという選択肢はない」と四万十川流域でNBSを広げていく必要性を強調します。
■小松正之代表
「このまま放っておいたら四万十川は死ぬだけだから、一つひとつを直していくということからして持続性のある産業に持っていく。そういういいきっかけにすることだと思う」
川が汚れる要因は農業排水だけではなく、堤防の構造や堰による土砂沈殿などさまざまあります。
小松さんたちは今後、四万十川流域でNBSの取り組みを拡大し、豊かな生態系を取り戻すことを目指し、活動を続けるということです。
3月4日、四万十市のしまんとぴあで開かれた「四万十川NBS国際シンポジウム」。
一般社団法人生態系総合研究所の小松正之代表が中心となって企画したもので、国内外の科学者など12人が登壇し、県内外の土木関係者や漁業者など約120人が耳を傾けました。
このシンポジウムで紹介されたのが、アメリカなどで広く取り入れられている「NBS(ネイチャー・ベースド・ソリューション)」という自然の力を活用しながら生態系と人の生活のいずれにも利益をもたら取り組みです。シンポジウムを通して小松さんたちは、このNBSを四万十川流域で広く展開することを提言しました。その背景にあるのは四万十川の水質汚染です。
2022年、小松さんは地元の漁業者から四万十川で魚が獲れなくなった理由が知りたいと依頼を受け調査を開始。小松さんの聞き取り調査によりますと、四万十川下流域のアオサノリ養殖量は2000年は15トンでしたが2020年には4トンまで減り、2022年と2023年はゼロでした。また、四万十川のアユやウナギ・エビなども減少していて、小松さんたちは四万十川の水質の状態を調べるため濁り具合について測定しました。
すると、きれいな水の濁度の上限2・0に対し、アオサノリを養殖している四万十川下流域の表層の濁度は26・5、川底の濁度は295・7と非常に濁っていることが分かりました。この水質を改善するために有効なのがNBSだと小松さんたちは強調しています。
小松さんとともに研究を続けてきたのは、河川流域を専門とするアメリカの科学者キース・ビンステッドさんです。
キースさんが所属する会社では1990年代からアメリカ国内でNBSの設計や施工を行ってきていて、四万十川の汚染を防ぐ手段として次のように述べました。
■キース・ビンステッドさん
「四万十川への水の汚染を最小限にするためには、農地で農薬や肥料の使用を削減することも一つの対策だが、それに加え農地から流出する水を処理するために湿地帯を造成すること、NBSを適応することも考えられる」
これを実現しようと取り組みを進めているのが、四万十町のショウガ農家「佐竹ファーム」です。佐竹ファームでは3.5ヘクタールの畑でショウガを生産していて、去年8月に小松さんたちの研究チームがNBSの導入を佐竹孝太専務に提言。佐竹さんは環境に配慮しようとNBSの導入を決めました。
■佐竹孝太専務
「ショウガの圃場の中で、今は降った雨が直接川に流れている現状なので、約20アールぐらいの面積のうち15アールぐらいでショウガを従来通り栽培して、あと5アールぐらいを湿地帯を含めた段階的に水がきれいになるような構造物を作ってチャレンジしていく」
畑から出る農業排水をまず湿地帯に流し、湿地帯では植物やバクテリアの力を使って排水内の汚染物質を分解し、きれいになった水を川に流すというものです。
この取り組みが四万十川の汚染のひとつとされる農業排水の問題の解決に繋がるとみられています。
■佐竹孝太専務
「10年後、20年後に向けて取り組む価値というか取り組むべき課題かなと思っている。次の世代にとって川をきれいにしていくことが必要なので、その点でもNBSの取り組みを取り入れて、少しでも地域の人でも還元できれば」
シンポジウムにあわせて、環境に配慮するNBSの取り組みを若い世代にも知ってもらおうと、2日には四万十市の四万十川学遊館あきついおでアメリカの科学者たちと市内の小学生から高校生までの12人が交流する場が設けられました。
この会ではアメリカのスミソニアン環境研究所の科学者デニス・ウィグハムさんが実際にNBSを導入し環境が改善された、アメリカ・チェサピーク湾での取り組みの事例を紹介しました。子どもたちは興味津々で耳を傾け、アメリカと日本の環境の違いなど積極的に質問していました。
■参加した中高校生
「面白かった、貴重な外国の方々と話し合えてとても楽しかった」
「環境を守るために修復の事業があることも初めて知った」
「ぜひもっとどんどん進めていって、きれいで長い間続いて環境が良くなればいいなと思った」
■デニス・ウィグハムさん
「こういった経験ができたのでそれを皆さんに覚えておいていただいて、将来何らかの形で自然を守ること、自然の保全に関わってもらえたら」
シンポジウムや交流会を企画した生態系総合研究所の小松正之代表は「四万十川のことを考えると何もしないという選択肢はない」と四万十川流域でNBSを広げていく必要性を強調します。
■小松正之代表
「このまま放っておいたら四万十川は死ぬだけだから、一つひとつを直していくということからして持続性のある産業に持っていく。そういういいきっかけにすることだと思う」
川が汚れる要因は農業排水だけではなく、堤防の構造や堰による土砂沈殿などさまざまあります。
小松さんたちは今後、四万十川流域でNBSの取り組みを拡大し、豊かな生態系を取り戻すことを目指し、活動を続けるということです。
最終更新日:2025年3月12日 18:59