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北海道の絵本作家・庄司あいかさんが紡ぐ優しい世界「ねぇ。きいて」障害のある息子のために…

2024年9月7日 8:48
北海道の絵本作家・庄司あいかさんが紡ぐ優しい世界「ねぇ。きいて」障害のある息子のために…

難病を抱える息子のためにお母さんが手がけた絵本。

「笑ってほしい」との思いはいま、広がりを見せつつあります。

「絵本で笑顔になれる優しい世界に」。

絵本作家とその家族の思いに迫ります。

障害を抱える子どもたちのために…広ろがる絵本の世界観

軽快な言葉のリズムで表現された絵本。

北海道釧路市で開かれた絵本の読み聞かせです。

短期大学の学生が振り付けを交えながら、子どもたちに絵本の世界観を伝えます。

(来場者)「ゾウさんなんだっけ?」

(来場者)「鼻ー!」

(来場者)「ぺったんこってした」

(来場者)「子どもと親子近づくことができて、楽しかったね、絵本を通してね」

実はこの絵本。

障害を抱える子どものために描かれた作品です。

石狩市に住む絵本作家の庄司あいかさん。

2年前から描き始めた絵本はすでに10冊以上。

きっかけは難病を抱える息子の存在でした。

意思疎通の難しい難病の息子…通じ合えるのが「絵本」

長男の隼人くん12歳。

生後まもなく体に腫瘍ができる結節性硬化症を発症、さらにてんかん発作が起きる難病も患いました。

左の脳はほとんど機能しなくなり、右半身がまひ状態に、意思疎通も難しかったといいます。

(庄司あいかさん)「自分の子どもが病気になるっていうことをもう頭の隅にもなかったんですね。最初、病院にかかってから数日後に初めて、母に電話して死んじゃうかもしれないって言ったんですけど、そのときが1番苦しかったかもしれないですね」

どうしたら笑ってくれるんだろうー

あいかさんは、隼人くんが好きなものを集めた絵本を描きました。

(庄司あいかさん)「赤い風船ゆーらんゆーらん。お屋根をよけてゆーらんゆーらん」

絵本を読むと、声を上げて初めて笑ってくれました。

(庄司あいかさん)「絵本を読んでる時間は少しだけ通じ合えるみたいな感覚がありますね」

きょうだいの複雑な思い… 母の絵本が妹にも届く

隼人くんは、お父さんと妹の陽菜ちゃん、弟の晴くんの5人家族。

時には陽菜ちゃんが絵本の読み聞かせをすることも―

(陽菜ちゃん)「がたがたどんどんがたがたどんどん~♪」

とても仲が良いきょうだい。

でも、陽菜ちゃんにはかつて複雑な思いがありました。

「ママがいないとつまんない。保育園なんて行きたくない。ぼくはボソッと、にぃになんて死んじゃえって言った」

陽菜ちゃんが知り合いのお母さんに話したという言葉。

寂しさと周囲の偏見に思い悩んでいたといいます。

(陽菜ちゃん)「じろじろ見られたりとか、これうちのお兄ちゃんって見せたときに「あっうん」って感じの反応がちょっと他の人とは違うんだなっていう」

あいかさんは陽菜ちゃんの思いにこたえようと、障害児のことを知ってもらう「ぼくのにぃに」を描きました。

(陽菜ちゃん)「別にこれでもいいんだって思ったりとか、それでうちのお兄ちゃんのことも別にこれが普通だからいいよねっていう気持ちになれました」

絵本は家族の気持ちをつなげ、前に歩み出す力となりました。

(陽菜ちゃん)「もちろんいいよと列車くん。一緒に探しに行きました」

(庄司あいかさん)「うちの絵本は全部読み聞かせ動画を作っているんですけど、大半は娘が声を入れてくれていて、ちょっと小学生なのでやりたくないときもありつつ頑張っているもんね」

あいかさんは障害への理解を広げようと、ユーチューブに絵本の読み聞かせを配信しています。

さらに、絵本の販売サイト「絵本屋だっこ」を立ち上げ、1300冊以上を販売。

障害児支援のために寄付してきました。

「命ってあったかいんだなってことに気付ける」

隼人くんが通うデイサービス施設です。

あいかさんはイベントで、絵本の読み聞かせをすることになりました。

隼人くんの同級生・山岸太郎くん。

生まれつきダウン症を抱えています。

お母さんの明美さんは、同じ障害を抱える子の母親としてあいかさんの活動をサポートしています。

(NPO法人絵本屋だっこ 副理事 山岸明美さん)「みんなやりたくても1歩行動に移すことが出来ない人も多いからいいことだと思いますよ」

人前での読み聞かせは、およそ1年ぶり。

さっそく絵本に興味を持ってくれる人がいました。

(絵本を見ていた人)「当事者じゃないと分かんないことがいっぱい書いてあるなという感じで、見ているだけで涙出ちゃいそうになって」

「ねぇ、きいて。ねぇ、きいて。むねにてをあてて、みみをすませば」

「障害のあるなしに関わらずいろんな人に楽しんでもらいたい」。

あいかさんの絵本にはそんな優しい思いが込められています。

(庄司あいかさん)「(育児の中で)昔の苦しかったこと、未来の不安な事、いろんな事が頭の中をぐるぐるまわってしまって苦しいとき、あると思うんですけれども。そんなときにお子さんの命の音に耳を傾けていただけると、ああこの子って今をこんなに懸命に生きているんだな、命ってあったかいんだなってことに気付けると思うんですね」

「店で絵本を手に取ってもらいたい」

先週、あいかさんたちはある場所へと向かいました。

(庄司あいかさん)「絵本も置いていただけないかなってことでお願いして、きょうは置きに行かせてもらいます」

空知の長沼町にある書店です。

店主の相田良子さん。

先月から不定期で書店を開いています。

あいかさんとはSNSを通して知り合い、店に絵本を置くことになりました。

(本屋KIBAKO 相田良子さん)「絵もかわいらしいし、お話も障害があるからっていうところにすごくすごく何か暗さを感じさせないっていうか、別にそれは普通のことであって、それを楽しむようなストーリー展開になってるので一般の人が読みやすい」

あいかさんの絵本が店に置かれるのは初めてのこと。

みんなに見てもらえるようにレイアウトを一緒に考えます。

(庄司あいかさん)「別の方にこうやって絵本を知っていただく場所を作っていただく事で、私と直接つながりのない方、いろんな方に見ていただく機会というのが増えていくと思うのでありがたいこと」

「店で絵本を手に取ってもらいたい」。

あいかさん、そして家族の夢がまたひとつ叶いました。

(陽菜ちゃん)「私の願いなんですけど、絵本が色んなところに売られて、お兄ちゃんとか障害者に関することをみんな分かって、優しい世界になると思うので、こういう本がどんどん売られていってほしいです」

「絵本を通して笑顔になれる世界」へ。

隼人くんを支える家族の物語はまだまだ続きます。

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