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【伝統を守る】旧南部藩ゆかりの能 盛岡出身の能楽師が東京で披露

2025年1月22日 18:50
【伝統を守る】旧南部藩ゆかりの能 盛岡出身の能楽師が東京で披露

 能の流派の一つ、宝生流が踊る演目に、岩手とゆかりがある「乱」という作品があります。旧南部藩の藩主が江戸城で舞うはずだったこの演目が12月、岩手県出身の能楽師によって東京で披露されました。伝統を守ろうと挑む能楽師を取材しました。

金野さん踊りの足音 「ダン、ダンダダン」

 盛岡市出身の能楽師、金野泰大さん41歳。岩手県と関係の深い、ある大曲に挑戦します。

謡い「イヨー」

 金野さんが所属する「宝生流」は、主役や、台詞に節をつけて話す「謡い」などを担当する「シテ方」が演じる流派で、観世流などと並び、能の5流派のひとつに数えられます。

 国立能楽堂によると、宝生流は「謡宝生」と呼ばれるほど、他の流派に比べて音域が広く、リズムの種類が多いのが特徴です。

 この宝生流、旧南部藩では盛んだったといわれています。旧南部藩の歴史に詳しい、東北学院大学の兼平賢治教授は、宝生流が岩手で盛んだった理由を、こう分析します。

兼平教授
「盛岡藩の殿様自身も、盛岡城の中で舞台を設けて能を舞ったり鑑賞したりしていた。綱吉が宝生流をひいきにしていたということもあって、盛岡藩でも宝生流が盛んになった」

 こちらは盛岡市で保存されている、旧南部藩5代藩主・南部行信が使った能面です。藩主の足跡を記録した古文書、「御系譜」によると、およそ350年前、この能面をつけた行信は5代将軍・徳川綱吉の前で舞を披露したとされます。

 舞をみた綱吉は行信に違う舞をアンコールしました。そこで指定された曲が「乱」でしたが、記録によると、その日は夕刻が迫り、中止になったと伝わります。行信が将軍の前で舞えなかったとみられるこの曲。家元からすすめられ、さらなる高みにつながると感じた金野さんは、今回挑戦することにしました。

金野さん
「わたしが舞えるというのは、ありがたいことだと思っております」「乱を舞うことによって、南部藩の能楽を知ってもらいたいかなと思います」

 2024年12月、東京・文京区にある宝生能楽堂。金野さんが公演に向けた稽古に取り組んでいました。

「乱」は、中国の高風という男と、猩々というお酒の妖精の物語です。お酒を売って富を得た高風は、猩々と酒を飲むと、猩々は喜びのあまり、酔っ払って踊り始めます。金野さんは今回、この猩々を演じます。

■金野さん
「この曲、特殊な曲でして、『乱れ足』という足をするんですよ。普通ならすって歩くところを、乱れ足はももをあげて歩くって形になるので。腰をおとしてバランスを取ったりだとか、非常に体力をつかうんですよね」「若手能楽師が試される曲でもある。若々しさというか、挑戦するという所をみていただければ」

 金野さんが「乱」を舞うもう一つの理由。それは、能楽を盛り上げたいという思いからです。かつて「南部宝生」と呼ばれるほど能が盛んだった岩手ですが、宝生流によると、近年は能を習う人や観客は全国的に減る傾向にあり、高齢化も課題となっています。

 これを受けて、金野さんは10年ほど前から、県内の子どもたちを対象に能の体験教室を開いています。

金野さん「よろしくお願いします」
子ども「よろしくお願いします」

 2024年12月、盛岡市の児童館で開かれた体験教室。地域の小学生など、およそ30人が集まりました。みんなで謡に挑戦したり、装束を着てみたりしました。

子供と謡「むーすーぶーとおーもーえーば、いーずーみはー、そーのまーま」

金野さん「どう?重い?」子ども「重い」金野「おー少し重いか」

女の子「見たことなかったから、こんなにおもしろいんだな」
女の子「歌をうたったりするのがとても楽しかったです」

 これまで教室に参加した子どもは3000人以上。少しずつですが、裾野を広げています。

金野さん
「能楽に関して楽しいとかやってみて良かったとか」「実際に扇や能面装束にふれてよかったなと思ってほしい」

 金野さんの長男・晄大くん4歳。2月の初舞台に向けて、お父さんと謡の特訓中です。

金野晄大くん謡い(「橋弁慶」)
「ははのおおせのおもければ、あけなばてらにのぼるべし」

金野さん
「毎週水曜になるとお稽古にいきたい、能楽堂にいきたいっていうんです。なのですごい真剣にやってるなと思います」

金野さん「何が楽しいの?」晄大くん「謡うのが楽しい」

 宝生流の伝統を守るため、次の世代へ能の楽しさを伝えるため。金野さんは歩みを進めます。

 12月8日、「乱」の本番当日。話題の演目を一目見ようと、会場に多くの観客がつめかけました。金野さん、猩々が酒を飲んで喜んだ舞、「乱れ足」を披露します。

「ヨー」「ダンダダン・・・」

 その後、猩々は酒のお礼に、いくら酌んでもなくならない酒がわくつぼを高風に贈ります。これらの出来事はすべて高風が寝ている間に見た夢でしたが、夢から覚めた高風の手元に酒のつぼは残り、高風の家は長く栄えたということです。

 時代を超えて披露された演目。金野さんは無事、公演を終えました。

家元 宝生和英宗家
「時代が下ってくるにつれて歴史的なところもはどうしても希薄になっているところもある。その中で金野くんがしっかりと地元の人に愛される能楽を普及、復活させようという活動はとても頼もしい」

終演後金野さん
「無事終わってほっとしているというのが一番の感想ではあります」
「今後は宝生流を習いたい人を岩手県で集めることをしていきたい」
「いつか岩手県で乱ができたらな」

 ふるさと盛岡の地で、能がかつてのにぎわいを取り戻す日を夢見て。金野さんの挑戦は続きます。

 金野さんの舞台は、2月15日、東京の宝生能楽堂で行われます。

最終更新日:2025年1月22日 18:50
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