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「自分が造りたい、うまいと思う酒を」 東日本大震災で被災した老舗酒造店 念願の地元で酒造り 岩手県北上市

2025年1月20日 0:00
「自分が造りたい、うまいと思う酒を」 東日本大震災で被災した老舗酒造店 念願の地元で酒造り 岩手県北上市

 岩手県北上市の老舗酒造会社喜久盛酒造は、東日本大震災で酒蔵が半壊したため、創業した場所を離れていましたが、去年、新しい蔵が完成し、地元での酒造りを再開しました。

 家業を守ることと、県産の米を使った酒造りにこだわり続ける蔵元の姿を北上支局・熊谷記者が取材しました。

 12月17日の午前7時前、麹づくりの作業が始まりました。

 1894年・明治24年に創業し、ことしで131年目を迎えた北上市更木の老舗酒造会社・喜久盛酒造。

個性的な名前とラベルの銘柄「タクシードライバー」などで、全国にその名を知られている酒蔵ですが、2011年以降、大きな困難に見舞われてきました。

 喜久盛酒造では東日本大震災で、当時使っていた蔵が半壊したため、花巻市にある廃業した酒蔵に製造拠点を移していたほか、その後も度重なる地震や大雪により、建物や設備が壊れるという苦境に立たされてきました。

 それから13年が経った去年、新しい蔵を建て、念願だった創業した場所での酒造りを再開しました。

 喜久盛酒造の5代目蔵元、藤村卓也さん52歳です。

 新しい蔵での酒造りは、まだ慣らし運転の段階で、つくる酒の量を抑えているため、供給が間に合っていないところがあるそうですが、喜久盛酒造の完全復活に向けて、SNSでの情報発信に努めています。

 喜久盛酒造 5代目蔵元 藤村卓也さん(52)
「とにかく1年でも早く北上に戻ってきたかったので…13年は経ったけれど、戻って来れて安心している。おかげさまで全国にうちの酒を待ってくれている人がいるので、1日でも早く届けたい」

 喜久盛酒造でつくるのは、県産の食用米を使った純米酒。

 アルコール度数を高めにして、じっくり溶かしたコメの旨味が強く感じられる、辛口の酒です。

 新しい蔵では、1年を通して醸造ができるように空調設備を導入するなど機械化を進めましたが、もろみの搾り工程では蔵元のこだわりで、手間のかかる「佐瀬式搾り機」を使っています。

 佐瀬式では、もろみを入れた袋を深さ130センチ程の「槽」の中に均等に圧がかかるよう、身を乗り出してひとつひとつ積み重ねる重労働が必要です。

 酒造り担当 佐々木淨秀さん
「キツイです!」
(Q、この搾り機は一般的?)
「いや、ちがいますね。(佐瀬式で搾ると)風味がよいというか、人手はかかるけれど社長が気に入ったので」

 この日搾るもろみは「タクシードライバー」用の1574リットル。

作業開始から搾り始めるまで、3時間半が経っていました。

 喜久盛酒造 5代目蔵元 藤村卓也さん(52)
「3代目が言い残した言葉で『鑑評会の先生に評価される酒よりも焼鳥屋のおやじに好まれる酒を造れ』と。私もその路線を踏襲して造っている」

 去年の大みそか、北上市更木の「松尾神社」に、藤村さんの姿がありました。

 こちらは喜久盛酒造の3代目が酒の神をまつる京都の「松尾大社」から分祀した神社で、毎年蔵元と杜氏がここで年を越し、参拝客や地元の神楽衆をもてなすという伝統がある場所ですが、ここ数年は藤村さんがひとりでその役目を続けています。

 藤村さんは先代である父親の急逝により、30歳のときに家業を継ぎました。
 

 子どもの頃にした決心と、試行錯誤を重ねてきた22年で、たどり着いた境地があります。

 喜久盛酒造 5代目蔵元 藤村卓也さん(52)
「子どものときに家業を継ぐと決めたし、決めたからには続けるし、自分の中で筋を通すというだけ。まず自分個人ありきでやっているので、そう意味では企業として最適解は求めていない。売れる商品をつくって売ることが目的ではなく、自分がつくりたいものをつくった結果、それが売れたらいいと」

 1月9日、喜久盛酒造に海外からの来客がありました。

 半年前から日本酒の輸入ルートの開拓に力を入れているアメリカの海鮮卸会社のバイヤーで北上市出身の藤井一輝さんです。

 今回の商談は、サンディエゴで開かれた販売会で知り合った県酒造組合の久慈浩介会長が「藤井さんが北上市出身ならぜひ喜久盛の酒を」と紹介したことで実現しました。

 一行は藤村さんから喜久盛酒造の歴史や酒造りのモットーなどについて説明を受けながら、蔵などをくまなく見学しました。

 海鮮卸会社(アメリカ)のバイヤー  藤井一輝さん
「歴史のある酒を継いでいきながら、新しい商品を開発しているのはプロだなと、本当にリスペクトできる」

 喜久盛酒造 5代目蔵元 藤村卓也さん(52)
「うちの酒造りはまず自分が飲んでおいしい、好きな酒を造るということで、そのためならいくらでも手間をかけられる。自分に対して嘘は付けないので、輸出も含めて人目に触れる機会があれば、それだけ自分の方向性がストレートに刺さる客もいると思うので、そういう人が見つかれば幸いかなと思う」

 喜久盛酒造の酒はすでに香港、スペイン、イタリアへ輸出されていますが、今回の商談も実現に向けて協議を重ねていくことになりました。

 自分がつくりたい、うまいと思うものを…

 こだわりの酒で、勝負を続けます。

最終更新日:2025年1月20日 19:54
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