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【なぜ】“秋の味覚”サンマ漁が解禁…異例“10日前倒し”理由は中国・台湾など海外船との“争奪戦” 今年も“小ぶり”“低水準”予測…歴史的不漁が続く背景とはー

2024年8月10日 9:00
【なぜ】“秋の味覚”サンマ漁が解禁…異例“10日前倒し”理由は中国・台湾など海外船との“争奪戦” 今年も“小ぶり”“低水準”予測…歴史的不漁が続く背景とはー

 歴史的な不漁が続く秋の味覚「サンマ」。大型船の漁の解禁日が例年の8月20日から10日“前倒し”されて、10日から始まりました。今年も大きさは“小ぶり”で、日本近海の近づくサンマの群れは“低水準”になると予想されています。不漁の原因の一つとなっているのが、中国や台湾・韓国などの海外船との壮絶なサンマの“奪い合い”です。漁場となっている日本のはるか沖合で、いったい何が起きているのでしょうか。(報告:三宅直)

■赤い照明の巨大な海外漁船団「100艘の中に突っ込んでいく」

 この画像は、去年9月、日本の排他的経済水域の外にある公海上の漁場で撮影されたものです。真っ暗なはずの広い海に、赤い灯りを照らす大型船が何艘もひしめき合っています。

 ほとんどの日本のサンマ漁船は白色の照明を使うのに対し、中国・台湾など海外の漁船は照明が赤いため、遠くからでもわかるといいます。

 「何倍もの大きさの漁船が約100艘いる中に、突っ込んでいかないといけない」

 サンマ漁船の乗組員は、ため息を漏らしながら話しました。

 日が昇る前の暗闇の中、魚群探知機に映る群れの影を凝視しながら、光に集まってくるサンマの特性を利用して漁は行われます。長時間、同じ場所にとどまっている漁船を見つけると、「群れがいる」と察知し、煌々と照明をつけて接近し、群れをおびき寄せて“奪い合う”こともあるといいます。

 中国や台湾の漁船は、魚の大小問わず捕獲。さらには、3000トンクラスの大型の母船もあり、捕獲したサンマは洋上で冷凍した上で、加工用として本国に運搬しているといいます。

 こうした“争奪戦”はサンマ全体の捕獲量にも影響を与え、一昔前までは近海で山ほど取れていたサンマの資源量が激減する一因になっているとみられています。

■漁場まで数時間→2日半に…80~100グラム「昔は加工用のサイズ」

 そもそも、サンマは夏場にかけて黒潮に乗って太平洋を北上し、水温が下がると北日本の沿岸に近づくように南下します。秋になれば北海道や東北地方の近海で、盛んに漁が行われていました。

 ところが、海水温の上昇や黒潮の蛇行などにより、冷たい水温を好むサンマの群れは、ここ数年、日本の近海には現れず、漁場ははるか沖合に移動し、日本の近海には近づかなくなってしまいました。

 取材した岩手・大船渡のサンマ漁船の乗組員は「以前は漁場まで数時間だったが、いまは2日半かかる」と漏らします。原油の価格高騰も重なり、燃料費は2倍になり、1回の漁で約500万円かかるようになったといいます。

 排他的経済水域(EEZ)を超えた公海上が主要な漁場となったことで、外国船も自由に漁を行うことができ、日本が設定している解禁日のよりも前からサンマ漁を始めています。日本のEEZに近い海域だからといっても、日本の解禁を待つよう規制をかけることはできません。

 水産研究・教育機構は、毎年6~7月ごろに調査を行い、サンマの漁獲量の予測を出していますが、日本近海には近づくサンマの群れは、2024年度も去年並みに「低水準になる」と発表しています。

 さらに、漁場が遠洋になればなるほどエサとなるプランクトンは少なく、大きさは80グラムから100グラム程度の小ぶりなサンマが主体になると分析しています。この大きさのサンマは「以前は市場に出回ることはなく加工用に使われていたサイズ」(市場関係者)だといいます。

■同じ漁場のサンマが「中国産」「台湾産」の“冷凍モノ”で市場に…

 中国や台湾などに青魚を焼いて食べる習慣はほとんどなく、海外の大型の漁船団が捕獲したサンマは、主に缶詰などの加工用に使われるとみられていますが、市場関係者によると、流通量が少ない時に、市場に中国産や台湾産の「冷凍サンマ」が、日本で水揚げされたものよりも安く出回ることがあるといいます。

 大阪の卸売市場の関係者は、「秋口になれば、昔は所狭しとサンマの箱が並んでいた。同じ漁場でとれたサンマなのに、日本で水揚げされた新鮮なものではなく、海外の冷凍ものが並ぶのは皮肉なものだ」と明かしました。

 危機に瀕するサンマの資源量を守るため、日本や中国、台湾など9つの国・地域が参加する「北太平洋漁業委員会」は、各国の漁獲枠を資源の状況に応じて自動的に計算する新たな管理規制を導入することを決め、2024年度の公海上を含む総漁獲枠は、前年から10%削減することで合意しています。ただ、この漁獲枠を超えたからといって、何らかの罰則規定があるわけではありません。

 こうした現状を受け、全国さんま棒受網漁業協同組合は、例年は8月20日を解禁としていた大型船のサンマ漁の解禁日を、公海上に限って、小型船と同じ8月10日に早める“異例の措置”がとられました。北海道や東北の漁港からは、10日の解禁日にあわせ、サンマ船が次々と遠洋へと出発しています。

 東北地方のサンマ漁の関係者は解禁日を前に、「やってみないと分からないが、外国船に取られてしまうくらいなら、少しでも早いほうがいい。量がとれれば、来年にもつながる」と期待を込めて語りました。

 歴史的な不漁予測と、海外勢との争奪戦という、厳しい環境の中で迎えたサンマ漁の解禁。“高嶺の花”となりつつある秋の味覚が、この先も食卓に並び続けるのか、その未来は誰にもわかりません。

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