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【独自解説】“声を挙げた人”を保護する『公益通報者保護法』、死亡した元幹部職員には適用されず…なぜ守れなかったのか?兵庫県・斎藤元彦知事が下した“不適切な判断”を専門家が指摘

2024年8月9日 8:00
【独自解説】“声を挙げた人”を保護する『公益通報者保護法』、死亡した元幹部職員には適用されず…なぜ守れなかったのか?兵庫県・斎藤元彦知事が下した“不適切な判断”を専門家が指摘
兵庫県・斎藤元彦知事の対応に問題は―

 兵庫県・斎藤元彦知事の“パワハラ”“おねだり”などの疑惑を告発した元幹部職員が死亡した問題。兵庫県が行った調査や処分は正しかったのか?百条委員会で言及された『公益通報者保護制度』とは?淑徳大学教授・日野勝吾氏と元鳥取県知事・片山善博氏のダブル解説です。

■「死をもって抗議する」定年取り消し・役職解任・停職3か月…斎藤知事を告発した元幹部職員に、一体何が起きていたのか?

 2024年3月12日、元幹部職員は『告発文』を報道機関などに送付。そして、元幹部職員に対して人事課を中心に内部調査を進めていると公表した同月27日、告発文について斎藤知事が「事実無根の内容が多々含まれている。嘘八百を含め、文書を作って流す行為は公務員失格」と強い言葉で叱責しました。さらに兵庫県は、同月末に迎える予定だった元幹部職員の定年退職を取り消し、役職を解任。

 同年4月4日、元幹部職員は『公益通報制度』を利用して県の窓口に相談し、担当部署が手続きを開始しました。しかし、同年5月7日、『公益通報制度』の結果を待たずに、兵庫県は内部調査の結果「核心的な部分が事実と異なる」として、元幹部職員を停職3か月の懲戒処分に。

 同年6月13日、一部の県議から「内部調査では信用できない」との声があがり、県議会が『百条委員会』の設置を決定。しかし、その翌月の7月7日、元幹部職員は「死をもって抗議する」という趣旨のメッセージを残し、死亡しました。元幹部職員は『百条委員会で発言する内容をまとめた陳述書』『“おねだり”疑惑に関する音声データ』を残していて、同月19日には『百条委員会』が開催されました。

 新たな情報として、元幹部職員が相談した兵庫県の『公益通報』担当部署によると、「通報を受けて調査に入った」「一部、強く叱責を受けた職員を確認した」としていて、『ハラスメント研修』や『贈答品の受領基準の明確化』など、是正措置を求める方向で検討しているということです(内容・時期など未定)。

■「『公益通報者保護法』は“声を挙げた方”を保護する制度」なぜ元幹部職員は保護されなかったのか?専門家が指摘する、斎藤知事が行った2つの“不適切な判断”とは?

 百条委員会で言及されたのが、『公益通報者保護法』です。無所属・丸尾牧県議からは「公益通報という観点から、県当局の対応が妥当かどうか、検証が必要」、公明党・越田浩矢県議からは「公益通報者保護の観点から、(元幹部職員への対応は)とんでもない状況。百条委員会でしっかり検討する必要があるのでは」という発言がありました。

 『公益通報者保護法』とは、「不正の目的でなく、事業者内部の法令違反行為を通報した労働者等は、事業者による解雇等の不利益な取り扱いから保護される」というものです。ただ、県の内部調査に協力した藤原正廣弁護士は2024年5月7日、「(元幹部職員の)文書で記載されているのは、公職選挙法や地方公務員法(に関わるもの)であって、国民の生命身体に関わるものではないので、『公益通報者保護法』がいう公益通報には当たらない」としていました。

Q.『公益通報者保護法』は、プライバシーも守られるものですか?
(『公益通報』に詳しい 淑徳大学・日野勝吾教授)
「『公益通報者保護法』は“声を挙げた人を保護する”という制度で、通報を理由とした不利益な取り扱いを禁止している法律です」

Q.藤原弁護士の「公益通報には当たらない」という発言は、どのように解釈したらいいですか?
(日野教授)
「日本の法律は約2000本ありますが、そのうちの約500本の法律を対象にしています。『地方公務員法』や『公職選挙法』といった法律については対象外としているので、藤原弁護士は『公益通報には当たらない』とおっしゃっています。ただ、音声データなどの裏付け証拠も出ていますので、『公益通報には当たらないが、告発内容が真実だと信ずるような相当な理由がある』と判断されるのであれば、内部告発自体が正当だという判断もあります。公益通報に当たらないからと言って一概に保護されない、とは言い難いと思います」

Q.今回の経緯を見ていると“声をあげにくい職場”に見えてしまいますが、いかがでしょうか?
(元鳥取県知事・片山善博氏)
「その通りだと思います。また、『公益通報制度』は消費者庁が所管していて、消費者保護の観点なので、例えば“地方公務員法を適用しない”などと少し狭まっているので、自治体向けには合わないところがあります。それで、県でいろんな独自の制度を作っていて、兵庫県も『県職員公益通報制度』という制度を設けています。これは、『公益通報者保護法』に準じたやり方として、『県職員が県政への信頼を失墜させるような行為・法令違反があった場合に通報してください』というものです。4月4日に元幹部職員はそこに通報していて、当然それは『県職員公益通報制度』になるわけで、そうなると地方公務員法違反や公職選挙法違反も、それに乗っかります。『公益通報者保護法』には乗らないかもしれないけど、県独自の職員保護制度に乗ることを藤原弁護士は知っているはずなのに、それを考慮していないので、私は不信感を持っています」

 また、兵庫県の対応は適切だったかについて、日野教授は「知事は2度にわたり不適切な判断か」と指摘します。

 まず、2024年3月27日、元幹部職員に対して人事課を中心に内部調査を進めていると発表した日に斎藤知事が強い言葉で叱責したことや、3月末に迎える予定だった元幹部職員の定年退職を取り消し、役職を解任したことです。日野教授は、「中立性の乏しい人事課が調査したこと」「告発者が特定されてしまったこと」「知事の“否定発言”と解任処分」が不適切だったと指摘。

 そして、元幹部職員は県の公益通報窓口に通報を行い、担当部署が手続きを開始したにもかかわらず、その結果が出る前に、県が内部調査結果によって元幹部職員を停職3か月の懲戒処分としたことです。日野教授は、「公益通報担当部署の調査を待つべきだった」と指摘しています。

Q.まだ事実がどうか不明な段階で元幹部職員が処分を受けたことで、風通しの悪い・声を挙げにくい職場だという印象は拭えません。これをどうしていくかというのも、大きな課題ですよね?
(日野教授)
「“声を挙げづらい”という制度にしてはいけないと思います。片山さんもおっしゃいましたが、『県の公益通報制度』では“県民の信頼を損なう恐れがあるもの”を通報対象としていて、“公益通報者保護法よりも幅広く受け付けます。だからこそ声を挙げてください”という制度にしているのですが、実際は調査もせずに処分したり、是正措置を待たずして処分したりというような、実務運用上の失態を指摘せざるを得ないと思います。そもそも、人事課の内部調査はあくまで人事案件であって、『公益通報』は是正をするかどうかの制度で、懲戒したり懲罰を与えたりという制度ではありませんので、そこをしっかり理解することから始める必要があると思います」

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