【独自解説】「より完全な安全性を保とうというモチベーションがない」なぜ4年半も気づかれなかったのかー?三菱UFJ銀行の貸金庫で起きた“十数億円窃取”―巧妙な手口と、旧態依然の「貸金庫ビジネス」のウラ側
三菱UFJ銀行の元行員が、4年半にわたり、顧客の貸金庫から十数億円相当の金品を盗んでいた問題。メガバンクで起きた前代未聞の盗難事案ですが、ここまで被害が大きくなる前になぜ誰も気付かけなったのか…。貸金庫を巡るさまざまな疑問について、メガバンク元支店長の菅井敏之氏の解説です。
■メガバンクの元行員が貸金庫から顧客の財産を窃取か 被害は時価十数億円相当にも…気になる“貸金庫”の仕組みとは?
三菱UFJ銀行の元行員の女性が、貸金庫の顧客の財産を窃取したとされる前代未聞の不祥事。4年半にわたり、練馬支店と玉川支店の2つの支店で、顧客約60人の貸金庫を無断で開け、現金や貴金属など、合わせて時価十数億円相当の資産を盗んでいました。女性行員は銀行の聞き取りに対し、事実を認め懲戒解雇されたといいます。
(三菱UFJ銀行・半沢淳一頭取)
「行為者(女性行員)は貸金庫の管理責任を担う立場にあり、支店で保管している予備鍵を不正に利用して、お客様の貸金庫を無断で開け、現金等のお客様の資産を窃取しました」
2024年11月22日、三菱UFJ銀行はホームページで公表し、同年12月16日に初めて会見を行いました。そして20件弱の顧客に、すでに約3億円の補償を実施していて、2つの支店以外の全店を緊急点検しましたが、同様の被害は確認できていないということです。
懲戒解雇になった元行員ですが、2020年4月から2024年10月にかけて、旧江古田支店・練馬支店・玉川支店で勤務していました。それまで、他の支店や本部でも、勤務経験があったということで、この元行員が貸金庫の予備鍵の管理責任者だったということです。
元行員は、一人でやったと説明していて
「大変申し訳ないことをした」と調査に協力的な姿勢で、
「投資を含めて私的な資金に流用した」と話しているといいます。
半沢頭取は、「このようなことをするような評価は現時点で確認できていない」と話しています。
では、貸金庫とはどういうものなのでしょうか。三菱UFJ銀行によると、小・中・大の大きさがあり、小だと年間で1万6170円で借りられます。大だと3万円弱となっています。
預けられるものとしては、債券・株券・預金通帳・権利書・貴金属・宝石などです。また、これらに準じると認められるものも預けられるとしていて、現金についての具体的な明記はありません。
預けられないものは、危険物や腐敗のおそれのあるものなどとしています。そして銀行側は、貸金庫の中身を把握していないということです。
Q.今回、被害者60人と言っていますが、解雇になった銀行員と、被害を届け出た方の証言なので、その被害がどこまで広がっているかは分からないということですか?
(メガバンク元支店長・菅井敏之氏)
「はい。60人というのは元行員が言っている人数で、それに対して、被害者はもっといたというのが会見で明らかになりましたが、それを数えると100人ぐらいの人がいて、今、それぞれ、このぐらいの被害を受けたというすり合わせをしている最中だという説明でした」
■「『これはチェックしてないな』ということが、情報として分かっている」元行員の巧妙な手口と銀行のずさんなチェック体制とは?
貸金庫はどのように開けたのでしょうか。貸金庫の開錠には2種類の鍵が必要とのことです。『顧客が保管している鍵』と、『銀行が保管している鍵』です。ただ、『顧客保管の鍵』については、紛失した時のために、銀行が予備で合鍵を持っているとのことです。
この予備の鍵については、契約の際に専用の封筒に入れて、『顧客の印鑑』と『銀行側の印鑑』で封筒に割り印を押します。そして、封筒に入った予備の鍵は専用の収納庫で管理されますが、元行員の40代女性が、この鍵の管理者でした。
そして、ずさんなチェック体制も会見で明らかになりました。まず、予備の鍵のチェックについては、銀行の子会社が半年に1度、予備の鍵の数や、保管状況などを確認するものの、割り印の照合や届出印の確認は行っていなかったといいます。
また貸金庫の部屋の入退室や、開錠については記録が残るとのことですが、防犯カメラ映像を含め、定期的なチェック体制はありませんでした。こうした仕組みを熟知し、元行員はすり抜けたと見られています。
再発防止策として、貸金庫の予備の鍵を支店で管理せず、2025年1月中に本部での一括保管にするとのことです。
Q.当初の割り印と同じものであったのか、恐らくチェックされていないですよね?
(菅井氏)
「通常は銀行に届出印というのがある。それと照合してお客様の正しいハンコだと認識できるわけですが、この元行員は検査の実務を見ていますから、『これはチェックしてないな、照合してないな』ということが、情報として分かっている。甘々だということを認識して、盗みを行ったと思います」
(野村修也弁護士)
「この女性行員は当時、支店の営業課長などのポストだったということで、業務を全部仕切れちゃうんですよ。貸金庫に入る仕事を、全部自分で回すことが出来るようになるので、こうした盗みも出来てしまう。封筒も、今は剥がすと跡が残る物もあります。開けたらすぐ印が出るとか、そういうものに仕組みを変えていかないといけないのに、こうしたことが起こらないことを前提にしているから、チェックも体制も非常に甘くなっている」
Q.元々、お客様サービスのようなものだから、お金はかけないということでしょうか?
(菅井氏)
「結局、銀行側も貸金庫で儲けようと思ってないので、あんまり大きな設備投資や、技術革新が出たからアップデート・投資などの、より完全な安全性を保とうというモチベーションがないんです。ですから旧態依然のままというところが、背景の大きな一つだと思います」
そして発覚を遅らせた手段ですが、2024年、顧客から「なくなったものがあるのではないか、貸金庫の中を確認したい」と、数件の相談があったといいます。これに対応したのが、元行員の40代の女性で、その際になくなったものを渡し、その場をしのぐなどしていました。
(菅井氏)
「盗んだものをすぐに換金せず、3か月から半年ぐらい自分で持っておいて、顧客から申し出があった場合、『私のほうで預かっていました』という形で言い逃れしていた」
捜査の可能性についてですが、三菱UFJ銀行は「警察に相談している」としています。元検事・亀井正貴弁護士によると「刑事告訴するためには『いつ・誰のものを・いくら盗んだのか』という事実関係について関係から事情聴取し、物的証拠も押さえる必要がある。罪としては窃盗の併合罪で15年以下の懲役に問われる可能性」と話しています。
Q.今回の件で金融機関への信用がなくなってしまいますよね?
(菅井氏)
「一金融機関の問題ではなくて、銀行業界全体の信用毀損につながっているんです。なので、この会見を3週間置かないで早くやってほしかったです。そういう視点が、経営陣の中に欠けているんじゃないか」
(野村弁護士)
「金融庁自体は、もう相当怒っていて、今、『報告徴求命令』をやっているわけです。このあと『業務改善命令』を打ってきますけれども、これは銀行業界全体の信用に関わってくるので、非常に大きな問題として取り上げてくると思います」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2024年12月17日放送)