【独自】逮捕前に記者も受けた『創造主』を名乗る占い師女性の“洗脳”の手口 「あなたはかわいそう」「私は味方」大量の非通知着信&長時間の電話 取材からみえた男性2人“自殺教唆”事件の全貌

知人の男性2人をそそのかし自殺させたとして、占い師の女らが逮捕された事件。女は自らを「創造主」と名乗り、男性らを精神的に支配していた可能性がある。
『あなたは会社の駒で、取材を命じられた被害者』『私は味方』
逮捕前の占い師の女はそう記者を諭した。計7時間におよぶ取材から見えてきた事件の全容とはー。(取材・報告:木村智子)
■マイクコードを手首につないで男性2人が入水自殺 当初は「事件性なし」と判断も…
記者
「犯罪にかかるようなことは身に覚えない?」
浜田容疑者
「身に覚えないです。全くもって。事実無根の“冤罪”事件なんでね」
今年1月、記者の問いかけに、事件への関与を否定したのは、逮捕された“占い師”の浜田淑恵容疑者(62)と無職の寺崎佐和子容疑者(47)だ。
浜田容疑者を“信奉”する寺崎容疑者は、スマートフォンを手にライトを向けながらカメラを警戒し、浜田容疑者をかばうように立つ中、浜田容疑者は事件への関与を真っ向から否定していた。
事件の発端は5年前の夏に遡る。
2020年8月1日、午前5時半ごろ和歌山県広川町の海岸で、通行人が浜辺に打ち上げられた男性2人の遺体を発見した。2人の手首はお互いをつなぐようマイクコードで結ばれていて、その後、身元は神戸市内に住む元社長の60代男性とアルバイトの50代男性と判明。死因は「溺死」だった。
当時、和歌山県警は、単なる自殺として処理し、「事件性なし」と判断したという。
■『創造主』と信じ込ませ「躊躇したら沈め合うこと」 死亡後に土地・建物は名義変更
2024年5月、事態は急展開を迎える。
「浜田容疑者らが2人の死に関わっているかもしれない」と、別の恐喝事件の被害男性が警察に相談したことで、浜田容疑者の身辺について、改めて捜査が始まり、死亡した男性2人は“占い師”である浜田容疑者の熱心な“信者”であることが判明した。
2人は2008年ごろ、当時、浜田容疑者が行っていたスピリチュアル・カウンセリングを受けてから浜田容疑者を信奉するようになり、自身の給料や知人から借りた金などを“献金”するようになったという。
浜田容疑者は今年1月、前述の恐喝事件で2回逮捕される。起訴状によると、浜田容疑者は被害男性に対し、男性2人を死に追いやったという趣旨の話をした上で「逃げたらどうなるか分かってるな。(死亡した男性2人は)ぷかぷか浮いておったぞ」などと脅していたという。
その後の捜査で、浜田容疑者が「創造主」であると男性2人に信じ込ませ、「命を捨てて、私の交際相手からプログラム(悪いもの)を取り除く」「躊躇し始めたり気が変わったりしたら沈め合うこと」などとそそのかして入水自殺させ、遺書を偽造した疑いが強まったとして、大阪府警は11日、浜田容疑者らの逮捕に踏み切った。
浜田容疑者は取り調べの中で、ともに逮捕された“信者”の滝谷奈織容疑者を含めた「4人で死ぬ計画を立てて海に入った。(男性2人は)自分の命も絶ち、交際相手を救うことを話すと賛同してくれた」と話していたという。
さらに新事実も判明した。
登記簿によると、死亡した元社長は大阪府河内長野市に土地と建物を所有していたが、死亡後に、浜田容疑者の親族の名義に変更されていた。元社長は亡くなる3年前の2017年、死亡した場合は、浜田容疑者の親族に土地と建物を贈与する契約を結んだとされている。
ほかにも、元社長が立ち上げた会社は、2年後に今回逮捕された寺崎容疑者が社長に変わっていた。
■直撃取材で「一切やましいことはない」 垣間見える“マインド・コントロール”
いったい、容疑者と死亡した男性らの間に何があったのか。筆者は、逮捕前、事件の真相を探るべく浜田容疑者を訪ねた。
恐喝事件で逮捕される前の今年1月上旬。大阪府河内長野市にある一軒家のチャイムを押すと、扉の隙間から顔を出したのは長い髪にピンク色のスウェット、ストールを羽織った40代後半ほどにも見える身綺麗な女性だった。後に逮捕される浜田容疑者だ。
筆者が、亡くなった元社長について尋ねると、扉を開けて、家の中に招き入れた。淡い色の小物やレースをあしらったインテリアが並び、可愛らしい雰囲気が漂う玄関先で浜田容疑者が取材に応じた。
(Q:亡くなった60代男性とはどのような関係?)
「10年来の知人で堂々とした方でした。男性にはカウンセリングはしたことないですよ」
(Q:なぜ亡くなったのか?)
「コロナ禍で会社の経営が厳しいのは知っていました。思い悩んでいらっしゃたのかな…」
(Q:事件性はない?)
「事件にしようがないんですよ。私がスピリチュアルカウンセラーだったこととこじつけて、すべて妄想の話。一切やましいことはないので、すべて正直に話しますよ」
■15回の非通知着信&「納得するまで説明」2時間の電話も…「私はあなたの味方」
浜田容疑者は筆者には連絡先を教えず、「用事があれば自分から電話をする」とし、その日以降、筆者の元には計15回の非通知着信が入ことになる。その多くは午後9時以降の時間帯だった。
筆者「が別の用事で後ほど電話したい」旨を伝えると、浜田容疑者は「今、話したい」と引き下がらなかった。筆者が電話に応じなかった際には、会社に電話をかけてくることもあった。さらに、筆者がある程度話したところで電話を切ろうとすると、浜田容疑者は「事件ではないと納得するまで説明する」と言って電話を切らせようとせず、通話が2時間にも及ぶこともあった。
非常識ともとれる行動のなか、筆者に対しては、「あなたの人生こんなのでいいのか」など否定的な言葉をかける一方で、「私はあなたの味方」「会社に言われるまま取材に来て本当にかわいそう」などと寄り添う姿勢も見せる。
人格の否定と肯定が繰り返されるうちに、判断力が徐々に削がれていきそうになるのを筆者自身も感じた。
1月下旬、筆者の上司を交えて、浜田容疑者と再び直接会うことになる。指定された場所で待つと、浜田容疑者は一人の女性とともに現れた。スーツを着て髪を束ねた秘書風のこの女性が、今回、死亡した男性の遺書を偽造したとして逮捕された寺崎佐和子容疑者だ。
2人は、亡くなった男性たちと一緒に映った写真や動画を見せながら、親しい関係だったことを強調し、亡くなった元社長の会社の商品開発の資料を見せて、その内容についても詳しく説明する一方、事件の核心に迫るほど、機嫌が悪くなり声を荒らげる場面もあった。
筆者に対しては終始味方の姿勢を崩さず、上司に対しては「(筆者に)負担を強いて取材させていて、ひどい人間だ、頭がおかしい」と非難し、言葉巧みに“敵対構造”を創り出そうとしているのが透けて見えた。
■初対面で「1000万円貸してほしい」死亡した元社長「会社を乗っ取られるかもしれない」
仕事のつながりで死亡した元社長を知る男性は、読売テレビの取材に対し、「(元社長は)常にお金に困っている様子だった」と振り返った。
初対面の際には「1000万円貸してほしい」と言われ、その後も、事あるごとに借金をお願いされるなど、「会社の商品は売れているのに、なぜ金に困っているのか不思議だった」という。
さらに、元社長が「社長をクビになった」と話し、誰がクビにしたのか尋ねると「寺崎容疑者からクビを宣告された、会社を乗っ取られるかもしれない」と漏らし、寺崎容疑者から罵声を浴びせられる姿も目撃したことがあったという。
“占い”などと称したトラブルは多発している。国民生活センターによると、年間の相談件数は約2000件で、このうち約8割は女性だという。
無料相談から始まったものが、高額請求を受けるようになったりするケースもある。また、「今まで占った中で一番の強運の持ち主」「あなたの生年月日は特殊で、すごい守護霊がついている」などと言葉巧みに特別感をにおわせ、弱っている心に入り込もうとするケースもあるという。
消費者庁や国民生活センターは、トラブルに遭ったり、悩みを抱えていたりする場合は、消費者ホットライン「188」などに相談するよう呼びかけている。