【物議】「“人殺しの制度改悪”だと思います」高額療養費の“負担額”引き上げでがん患者からは悲痛の声 がんや脳卒中などは他人事ではない「重要な制度」 物価高で貧しくなる日本で『高額療養費制度』はどうなっていくのか?

物価高騰が止まらない中、物議を醸しているのが『高額療養費制度』の見直しです。がん患者の団体が政府に直接、制度見直しの凍結を求めるなど、波紋が広がっています。一方、政策金利が16年ぶりに高水準に。物議を醸す『高額療養費制度』は一体どうなるのか?経済評論家・加谷珪一氏の解説です。
■平均給与は上がっているのに物価上昇で日本はどんどん貧しくなる…?「とにかく賃金を上げていく以外方法はない」
厚労省によると、2024年の平均給与は34万8182円で、前年比2.9%アップ、33年ぶりの高い伸び率となっています。しかし実質賃金を見ると、前年比0.2%の3年連続マイナスで、そこから国民年金や厚生年金も上がり、物価の上昇に給料が追いついていないという状況です。
(経済評論家・加谷珪一氏)
「確かに、お給料の額は上がってはいますが、それ以上に物価が上がっているという状況なので、ますます生活は苦しくなる。これを脱却するには、とにかく賃金を上げていく以外方法はないという認識を共有すべきではないかと思います」
Q.日本のエンゲル係数が、ほかの先進国に比べて格段に高く、日本は今、果たして先進国なのかというところまできているということですか?
(加谷氏)
「そうですね。あまり言いにくいですが、ここまでエンゲル係数が高くなると、ちょっとこれは先進国から脱落しているのではという見方が出てきてもおかしくない水準です」
そんな中、高額療養費の上限額の引き上げにつて政府が検討しているということです。まず国民医療費は、2024年度は過去最高の47兆円を超えました。そして今回注目するのが、この『高額療養費制度』で、“高い医療費を払っている方は、一部払い戻しを受けられる”というものです。
例えば年収500万円で70歳未満の場合、医療費がひと月100万円という方は、本来ならば3割なので、窓口負担は30万円です。しかしそのうち21万3000円を高額療養費として払い戻しされるというものです。その高額療養費の支給額ですが、2021年は2兆8500億円となっていて、年間1000万人以上が推定で受給しているということです。
そして2025年8月から自己負担額の上限を引き上げるといいます。2026年8月からは年収区分をさらに細分化し、2027年の夏からは、さらに引き上げるということです。
(加谷氏)
「私の母は、がんで亡くなっていて、医療費の総額を計算したら1500万円ぐらいかかっていました。がんの治療をすると、このぐらい普通にかかります。3割負担だと、450万円ですが、うちの母は450万円も出していなくて、この『高額療養費制度』で、月数万円の自己負担だけで済んでいたんです。がんや脳卒中や循環器系の疾患って、日本人の死因トップ3ですから、全然他人事ではなくて、多くの方がこの対象になる病気にいずれかかります。これは本当に重要な制度だということは、国民の皆さんが、よく理解しておいたほうがいいんじゃないでしょうか」
引き上げの背景は、高齢化と高額な薬の普及、そして働く世代の保険料の負担軽減が目的だとされています。
Q.アメリカは医療費が高くても、大概の薬が薬局で買えるといいますが、日本も同じようにできるだけ薬局で対応できるようにならないんでしょうか?
(加谷氏)
「それをするためには大変調整が難しいんです。ですがある程度、重篤な病気以外のところで、予算を減らす努力というのはしていかないと、間違いなくパンクしてしまうと思います」
■「“人殺しの制度改悪”」「治療を断念する」 子どもを持つがん患者からは悲痛の声
全国保険医団体連合会による、子どもを持つがん患者へのアンケートの中間発表で、上限引き上げの影響について『治療の回数を減らす』と答えた方は61%、『治療を中断する』と答えた方が46%でした。また育児などへの影響について聞くと、『塾や習い事を減らす』と答えた方が63%で、『進路変更』と答えた方は49%でした。
子どもを持つ親からは―。
(子どもが2人いる30代がん患者)
「上限が引き上げられれば、私は治療を断念すると思います。子どもたちのこれからのお金を、私が食い潰すわけにはいきません」
(子どもが1人いる40代がん患者)
「子どもの将来を考えると、自分の医療費にそこまでかけるのは難しくなってくる。“人殺しの制度改悪”だと思います」
(加谷氏)
「年を取ると疾患が増えるのは当たり前で、保険というのは若い時に払っておいて、それで自分が年を取って、疾患になったときにお世話になるというシステムですから、これを言うと相当批判されるんですけど、これから団塊世代の方が後期高齢者になって、医療費は確実に増えるんです。私はこの『高額療養費制度』を維持するためであれば、多少保険料の増額はやむを得ないかなと、私個人的には思っています」
Q.公的保険の負担でカバーできるところと、それ以上先のリスクに関しては、民間の保険でしっかりカバーしてもらうという議論も必要ですよね?
(加谷氏)
「負担能力のある人が、民間である程度やってもらうというのは、確かに全体の財政を最適化する方法の一つであることは間違いないです。ただ、民間の医療保険って相当高額になりますから、良い医療を受けられる代わりに、高所得の方は多く負担するというところを、皆さん納得していただいて、混合診療のようなものを検討するというのは、議論しないといけない」
そして一部報道によると、厚労省が一部修正案を出しました。現在は『1年以内に3回以上、自己負担額が上限に達した場合は、4回目以降の自己負担額の引き下げ』としています。これは継続的に治療を行っている方にとっては手厚い制度となっていますが、修正案では『6回以上上限に達した場合、7回目以降の自己負担額をさらに引き下げる』としています。
しかし、これについて、全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は「患者によっては2倍程度の負担増になるので、ほとんど意味がない改定」だと話しています。
(加谷氏)
「患者さんからしてみると、そもそも病気になっている段階で、収入源が断たれているという状況になるので、多少調整があったとしても、本質的な解決にはならないという立場だとは思う。また政府としても、中々難しい判断を迫られているのではないでしょうか」
(「情報ライブ ミヤネ屋」2025年2月13日放送)