取材の先に見えた“高校サッカーの美しさ”
現在、熱戦が続く全国高校サッカー選手権大会はいよいよ2日から3回戦が始まります。今回は、日本テレビの佐藤真知子アナウンサーがこれまでに取材を通じて感じた“高校サッカーの美しさ”を紹介します。
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サッカーに縁のなかった私が、この全国高校サッカー選手権大会に携わるようになって、今年で6年目です。
毎年選手をはじめ、監督やコーチ、ご家族の方々などたくさんの方に取材をさせて頂きます。
取材といっても、はじめのうちは「高校サッカー」という未知の世界についていくことに必死で、話を聞くというよりも、質問をすることばかり考えていました。
そんな中、担当3年目で迎えた第97回大会(2018年度)。私は、流通経済大学付属柏高校の当時3年生GK猪瀬康介選手に取材することになりました。
実は猪瀬選手、3年生にもかかわらず先発メンバーに入れず、代わりに1年生の松原選手がピッチに立っていました。
“高校最後だから”なんていう情けは通じません。勝負の世界は厳しいものです。それでも最後まで本気で練習する猪瀬選手の姿を見て、私も本気で向き合あおうと思い、あえてノートとペンを置いて、自分の心に全てを書き込む覚悟で話を聞きました。
すると猪瀬選手は、私の目を真っすぐ見ながら、こんな話をしてくれました。
「正直な話、一時期腐りかけて。本気でサッカーを辞めようと思い、監督にも担任の先生にも話しました。卒業後は就職しようと、何社かに履歴書を送ってみたけど、全部不採用。社会はそんなに甘くないなと改めて思いました。でも結局、自分はサッカーを嫌いになった訳ではなく、今の自分から逃げようとしただけだったと気付いたんです」
「戻ってから、サブとして松原をフォローしたんですけど、最初はやっぱり悔しくて、声も掛けられなかった。いいセーブを見せても素直に喜べなくて。でも、考えてみれば、実際これまでチームのピンチを何度も救ってくれたのは松原で、自分が後押ししないとダメだと。そこで“いいライバル”になると決めました。」
厳しい現実から目を背けず、ひたむきに自分と向き合い、ライバルの背中を押す。
猪瀬選手の素直で、美しすぎるその想いと覚悟を、私は心の底から伝えたい、そう思いました。
と同時に、相手が心を開いて、自然と思っていることを話してくれたことがとてもうれしく、これが取材をする喜びであり、楽しさなのだと、実感した瞬間でもありました。
結果、猪瀬選手は準決勝で途中出場し、チームは準優勝でその大会を終えました。
これからもリポーターとして、こうした選手の言葉や応援する方々の想いを、丁寧にお届けします。