【高校サッカー展望・徳島】徳島市立と徳島商業 2年連続で“伝統の決勝戦”
2大会ぶりの全国出場を決めた徳島市立高校
第101回全国高校サッカー選手権大会。徳島県代表の徳島市立は29日の1回戦で尚志(福島県代表)と対戦します。
11月12日に行われた徳島県大会決勝の顔合わせは2年連続となる徳島市立と徳島商業です。両校による頂上決戦は今回で20回目。前回は創部100周年の節目を迎えた徳島商業が4-1と快勝しています。今回、県内3冠を目指した徳島市立が王者ではなく“最強の挑戦者”として徳島商業に挑んだ県大会決勝を振り返り、全国の戦いを展望します。
■大敗から立ち上がった高校世代屈指のGK
1年前の2021年11月13日、徳島市球技場のゴール裏にある芝生スタンド。188cmの長身を小さく折り曲げ、一人膝を抱えて誰もいなくなったピッチを見つめる選手の姿がありました。徳島市立のGK藤澤芭琉選手(当時2年生)です。
「悔しさと現実を受け止めるために自然と長時間座りこんでいた。1-4のスコアが表示された掲示板は今でも頭に焼き付いている」と話す藤澤選手は、1年生の時に16歳以下日本代表候補にも選ばれた高校世代屈指の守護神です。しかし4連覇を目指した前回大会、9大会ぶりに決勝の舞台に戻ってきた古豪・徳島商業に1-4でまさかの大敗を喫しました。
創部100周年の節目に100回大会を制したオレンジ軍団の伝統の力の前に、藤澤選手はまさかの大量失点を許してしまったのです。
「1点目は完全に自分のミス、2点目は手に当てたのに半歩ポジションがずれただけで決められるような強烈なシュート。3点目4点目はあっという間。セルフジャッジもあった。細かいことの積み重ねだった」と、1年たった今でも去年の決勝について尋ねられた藤澤選手の口からは反省の言葉が止まりません。
その屈辱が藤澤選手に火をつけました。細部にこだわり、入部当時から15kg増量させた体重もこの1年でさらに5キロ増やし、その体躯でも走り込みでは必ず先頭集団に入る。「死ぬ気で練習しなきゃなと思った」という本人の言葉通りの1年間を過ごしてきました。
その努力が形になったのが今年3月。福島県で行われた J-VILLAGE CUPにU-17日本高校選抜のGKとして招集されたのです。大会中、GKでは最も長い時間プレーし、3回戦ではU-17日本代表を零封、決勝でも履正社高校相手に無失点で優勝に貢献しました。
去年以上に注目を集める存在となって迎えた2022年11月12日、選手権徳島県大会の決勝。 「去年は“0”にこだわりすぎたことが緊張と油断につながった。今年はまず勝つことだけを考える。その中で失点が0に近ければ近いほどいい」と冷静に徳島市立のゴールマウスに立った藤澤選手。最強の挑戦者に油断はありませんでした。
■打倒!徳島市立!今年も立ちはだかる徳商魂!
徳島市立の相手は2年連続、積年のライバル徳島商業です。今年の対戦を振り返ると、インターハイ県予選の2回戦では徳島市立が3-0と快勝しています。徳島商業は春の新人戦は校内クラスターで無念の辞退、5月にも部がコロナの猛威にさらされ、満足に練習ができない状況で予選を迎えた中での結果でした。
「厳しいことばかりだった。ついていない所もあった。徳島市立に負けて、地元開催のインターハイの運営スタッフをしながら悔しさをかみしめた。もう一度全国の舞台に立ちたい。徳島市立に勝っていかなければ意味がない」と前回の県大会優勝を経験した大坪永遠選手(3年)は闘志を燃やします。
なかなか結果が残らなかった徳島商業ですが、キャプテン森輝記選手(3年)を中心に去年全国のピッチに立ったメンバーが仲間を鼓舞しながら、徳島市内の山や海岸の砂浜で徹底的な走り込みを行い走力と精神を鍛え上げてきました。
パッションあふれるコンパクトな守備と、バリエーション豊富な破壊力のあるカウンターを武器に、夏までの結果が嘘かのような快進撃を見せ、ノーシードから決勝まで勝ち上がってきた強敵です。
■手に汗握る前半スコアレス、多彩な攻撃と魂の守備の応酬
試合は開始直後から両者の特徴を生かした主導権の握り合いになります。最終ラインからボールをつなぐ徳島市立がエースの林秀太選手(3年)を中心に多彩な攻撃パターンを見せるのに対し、徳島商業も陣形をコンパクトに保つ堅い守備で得点を許しません。
徳島商業はボールを保持される中でもストライカーの冨士村優選手(2年)をターゲットに鋭いカウンターを仕掛けますが、徳島市立の激しいプレスが自由を与えません。「絶対に勝ちたい」という両校の気持ちが前面に出た激しい攻防で前半は0-0で終えます。
■後半・徳島市立の大逆襲が始まる!
後半開始早々試合が動きます。徳島市立のサイドバック・野々村泰成選手(3年)が、守りを固める徳島商業の僅かな隙間をついてペナルティエリアの外からミドルシュートを放ち、先制ゴールを奪います。勢いに乗る徳島市立はその5分後、縦パスに鋭く抜け出した吉田壮汰選手(3年)がゴール前にクロスを送ると、走り込んでいた河村壮真選手(3年)が落ち着いて決め、リードを2点に広げます。
徳島商業もフリーキックからのこぼれ球にセンターバックの朝日奈楓汰選手(2年)のシュートが枠をとらえますが、U-17日本高校選抜にも選出された徳島市立の GK 藤澤芭琉選手(3年)のビッグセーブで反撃を許しません。
攻撃の手を緩めない徳島市立は、鈴木悠哉選手(1年)がディフェンダーを強引にかわし、試合を決定づける3点目のゴール。「決して引かずに鍛えてきた」と話す河野博幸監督(48)の言葉通り、攻撃的なスタイルを貫いた徳島市立がその後も追加点を重ね、前回の悔しさを晴らす大量6得点で勝利。2大会ぶり19回目の選手権大会への出場を決めました。
敗れた徳島商業も点差をつけられながらも最後まで走りぬき、サッカーの伝統校にふさわしい試合を見せました。
■ライバルの思いを背負い、徳島市立が全国の舞台に立つ!
試合がほぼ決した時間帯でも、一瞬の隙も見せない完璧な守りを見せた徳島市立。前回の決勝戦でもゴールマウスを守ったGK藤澤選手は「前回負けた経験があったから今の自分がある。もっと成功してあの負けに意味をもたせられたら」と更なる飛躍を誓います。チームの目標は「全国ベスト4」。伝統校対決を制した徳島市立が2大会ぶりの全国の舞台を駆け上がります。
(取材・文:高校サッカー選手権民放43社/四国放送)
11月12日に行われた徳島県大会決勝の顔合わせは2年連続となる徳島市立と徳島商業です。両校による頂上決戦は今回で20回目。前回は創部100周年の節目を迎えた徳島商業が4-1と快勝しています。今回、県内3冠を目指した徳島市立が王者ではなく“最強の挑戦者”として徳島商業に挑んだ県大会決勝を振り返り、全国の戦いを展望します。
■大敗から立ち上がった高校世代屈指のGK
1年前の2021年11月13日、徳島市球技場のゴール裏にある芝生スタンド。188cmの長身を小さく折り曲げ、一人膝を抱えて誰もいなくなったピッチを見つめる選手の姿がありました。徳島市立のGK藤澤芭琉選手(当時2年生)です。
「悔しさと現実を受け止めるために自然と長時間座りこんでいた。1-4のスコアが表示された掲示板は今でも頭に焼き付いている」と話す藤澤選手は、1年生の時に16歳以下日本代表候補にも選ばれた高校世代屈指の守護神です。しかし4連覇を目指した前回大会、9大会ぶりに決勝の舞台に戻ってきた古豪・徳島商業に1-4でまさかの大敗を喫しました。
創部100周年の節目に100回大会を制したオレンジ軍団の伝統の力の前に、藤澤選手はまさかの大量失点を許してしまったのです。
「1点目は完全に自分のミス、2点目は手に当てたのに半歩ポジションがずれただけで決められるような強烈なシュート。3点目4点目はあっという間。セルフジャッジもあった。細かいことの積み重ねだった」と、1年たった今でも去年の決勝について尋ねられた藤澤選手の口からは反省の言葉が止まりません。
その屈辱が藤澤選手に火をつけました。細部にこだわり、入部当時から15kg増量させた体重もこの1年でさらに5キロ増やし、その体躯でも走り込みでは必ず先頭集団に入る。「死ぬ気で練習しなきゃなと思った」という本人の言葉通りの1年間を過ごしてきました。
その努力が形になったのが今年3月。福島県で行われた J-VILLAGE CUPにU-17日本高校選抜のGKとして招集されたのです。大会中、GKでは最も長い時間プレーし、3回戦ではU-17日本代表を零封、決勝でも履正社高校相手に無失点で優勝に貢献しました。
去年以上に注目を集める存在となって迎えた2022年11月12日、選手権徳島県大会の決勝。 「去年は“0”にこだわりすぎたことが緊張と油断につながった。今年はまず勝つことだけを考える。その中で失点が0に近ければ近いほどいい」と冷静に徳島市立のゴールマウスに立った藤澤選手。最強の挑戦者に油断はありませんでした。
■打倒!徳島市立!今年も立ちはだかる徳商魂!
徳島市立の相手は2年連続、積年のライバル徳島商業です。今年の対戦を振り返ると、インターハイ県予選の2回戦では徳島市立が3-0と快勝しています。徳島商業は春の新人戦は校内クラスターで無念の辞退、5月にも部がコロナの猛威にさらされ、満足に練習ができない状況で予選を迎えた中での結果でした。
「厳しいことばかりだった。ついていない所もあった。徳島市立に負けて、地元開催のインターハイの運営スタッフをしながら悔しさをかみしめた。もう一度全国の舞台に立ちたい。徳島市立に勝っていかなければ意味がない」と前回の県大会優勝を経験した大坪永遠選手(3年)は闘志を燃やします。
なかなか結果が残らなかった徳島商業ですが、キャプテン森輝記選手(3年)を中心に去年全国のピッチに立ったメンバーが仲間を鼓舞しながら、徳島市内の山や海岸の砂浜で徹底的な走り込みを行い走力と精神を鍛え上げてきました。
パッションあふれるコンパクトな守備と、バリエーション豊富な破壊力のあるカウンターを武器に、夏までの結果が嘘かのような快進撃を見せ、ノーシードから決勝まで勝ち上がってきた強敵です。
■手に汗握る前半スコアレス、多彩な攻撃と魂の守備の応酬
試合は開始直後から両者の特徴を生かした主導権の握り合いになります。最終ラインからボールをつなぐ徳島市立がエースの林秀太選手(3年)を中心に多彩な攻撃パターンを見せるのに対し、徳島商業も陣形をコンパクトに保つ堅い守備で得点を許しません。
徳島商業はボールを保持される中でもストライカーの冨士村優選手(2年)をターゲットに鋭いカウンターを仕掛けますが、徳島市立の激しいプレスが自由を与えません。「絶対に勝ちたい」という両校の気持ちが前面に出た激しい攻防で前半は0-0で終えます。
■後半・徳島市立の大逆襲が始まる!
後半開始早々試合が動きます。徳島市立のサイドバック・野々村泰成選手(3年)が、守りを固める徳島商業の僅かな隙間をついてペナルティエリアの外からミドルシュートを放ち、先制ゴールを奪います。勢いに乗る徳島市立はその5分後、縦パスに鋭く抜け出した吉田壮汰選手(3年)がゴール前にクロスを送ると、走り込んでいた河村壮真選手(3年)が落ち着いて決め、リードを2点に広げます。
徳島商業もフリーキックからのこぼれ球にセンターバックの朝日奈楓汰選手(2年)のシュートが枠をとらえますが、U-17日本高校選抜にも選出された徳島市立の GK 藤澤芭琉選手(3年)のビッグセーブで反撃を許しません。
攻撃の手を緩めない徳島市立は、鈴木悠哉選手(1年)がディフェンダーを強引にかわし、試合を決定づける3点目のゴール。「決して引かずに鍛えてきた」と話す河野博幸監督(48)の言葉通り、攻撃的なスタイルを貫いた徳島市立がその後も追加点を重ね、前回の悔しさを晴らす大量6得点で勝利。2大会ぶり19回目の選手権大会への出場を決めました。
敗れた徳島商業も点差をつけられながらも最後まで走りぬき、サッカーの伝統校にふさわしい試合を見せました。
■ライバルの思いを背負い、徳島市立が全国の舞台に立つ!
試合がほぼ決した時間帯でも、一瞬の隙も見せない完璧な守りを見せた徳島市立。前回の決勝戦でもゴールマウスを守ったGK藤澤選手は「前回負けた経験があったから今の自分がある。もっと成功してあの負けに意味をもたせられたら」と更なる飛躍を誓います。チームの目標は「全国ベスト4」。伝統校対決を制した徳島市立が2大会ぶりの全国の舞台を駆け上がります。
(取材・文:高校サッカー選手権民放43社/四国放送)