主人は死ぬ必要ありましたかー 有罪判決後も被害者遺族が抱える“苦悩”の実態とは 10年来の知人に夫を刺し殺され残された幼い娘と妻 名古屋地裁
「主人は死ぬ必要ありましたか」「人生180度変わりましたよ」
声をつまらせながら話したのは夫を殺害された、妻。
夫である人材派遣会社経営者の榊原修(さかきばら・おさむ)さん(当時41)は、去年11月、刃渡り19センチの包丁で右わき腹を刺され死亡しました。
榊原さんを刺して殺害したなどとして10年来の知人であった小林元(こばやし・はじめ)受刑者(36)が逮捕・起訴されました。
◆事件が発生して人生は180度変わったー
亡くなった榊原さんの妻:
「主人は家族思いで本当に優しい、いい人でした。仕事でどれだけ疲れていても娘と遊んでおちゃらけて。毎日、 笑いの絶えない家族でしたね」
事件当時、幼稚園に通っていた娘をお風呂にいれるのは榊原さんの毎日の日課だったと話します。
どこにでもある普通の家族の日常。
しかし、榊原さんを亡くしたことで残された妻と娘の生活は一変しました。
亡くなった榊原さんの妻:
「私はもう、抗うつ剤を飲まないと、 普通には暮らせないです」
事件のショックからパニック発作を頻繁に起こすようになり、長時間の外出も難しいといいます。
娘との生活は遺族年金頼りです。
亡くなった榊原さんの妻:
「働かなきゃと思うけど、外に出られず、まだ今は働くことが考えられない。娘のケアも大事ですし。贅沢はしないし、切り詰めないと暮らしていけない」
◆『とりあえず、罪を償います』
事件から約1年。
11月11日に名古屋地裁岡崎支部で開かれた初公判で起訴内容を認めた小林被告。
検察側は「小林被告は、ギャンブルなどで被害者に借金をするようになり、金銭トラブルで被害者に恨みを募らせていた」「肋骨を切断するほど強い力で包丁で脇腹を一気に突き刺した」などと指摘。
一方で、弁護側は事実については争わないとした上で「小林被告が代表を務める会社の実権が被害者にあり、社員に支払う給料を満額渡さないなどして自分に借金をするよう仕向けた」「常軌を逸したいじめで人間の尊厳を踏みにじった」などと主張。
榊原さんの妻は「裁判で話される夫は自分の知る夫と違う」ともどかしい思いを感じていました。
亡くなった榊原さんの妻:
「どこまでいってもやっぱり死人に口なしで、それが100%当たっているとは思えない。私が見てきた主人はすごい優しくて、いつもみんなとニコニコしていた。小林被告とは、本当、友達っていうか仲いい感じにしかみえな かった」
11月14日。
榊原さんの妻は「亡くなった夫の代わりに証言をしたい」と裁判に出廷し、うつむく小林元被告に語りかけました。
『はじめ、私ははじめが好きだったよ。おもしろいし、修もはじめが好きだったの知ってるし、だから困っていたら私も助けてあげたくて、お金も貸したし、施設で育ったことも知っていたから、やっと幸せな家族をもててよかったなーって思っていました。でもね、あなたが自分の家族が大事なように、修もすごく大事にしてくれていた。私たち家族も幸せだったんだよ。全部奪ったのはあなたです。私は絶対許さない』
検察は、懲役15年を求刑し、弁護側は懲役8年が妥当と主張。
小林被告:
「自分も一緒でくそ野郎で、本当に被害者家族には大変な迷惑をかけてしまって、自分の家族にも迷惑をかけてしまって、すみませんしかない。とりあえず、罪を償います」
ただ、榊原さんへの400万円ほどの借金の返済と「被害弁済」についてに話が及ぶと、弁護側は「払える金はなく、その原因は被害者にもある」と訴えました。
亡くなった榊原さんの妻:
「主人と最後に話したのは、殺される約30分前にかかってきた電話で『まだ帰るまでもうちょっとかかるから先に寝てていいよ』という一言。連絡もらった時にはもう死んじゃってたんで、もう、主人に触れることも話すこともできないし、それが本当につらいです」
そして、11月21日。
名古屋地裁岡崎支部の水野将徳裁判長は「被告人が長年置かれてきた状況には同情できる部分があるのも確かである」などとして、懲役15年の求刑に対し、懲役10年の判決を言い渡しました。その後、小林被告は、控訴せず、刑が確定しました。
判決に納得はできない、と話す妻。
亡くなった榊原さんの妻:
「なんで人を殺して10年で出てこれるのか…」
さらに。
亡くなった榊原さんの妻:
「『損害賠償』は請求しません。民事裁判で訴えても、今の小林 被告の状態では『損害賠償』を受け取れるどころか、逆に裁判費用がかさんでしまうので…」
◆被害者遺族への賠償金の支払いの実態は“泣き寝入り”
『犯罪被害者へ加害者から支払われる賠償金の支払い』
日本弁護士連合会が行ったアンケートよると、被害者側が受け取った賠償金は、殺人事件では裁判などで認められた額の『13.3%』。
強盗殺人事件では、わずか『1.2%』と、実は、ほとんど支払われていないのが現状なのです。
日本弁護士連合会犯罪被害者支援委員会・高橋みどり 委員長:
「犯罪被害者が苦労して加害者へ損害賠償を命じる判決などを得たとしても、被害が重大な犯罪であるほど損害賠償金の支払いを受けることができず泣き寝入りせざるを得ないことが多い。任意での支払いは期待できず、 差し押さえるべき財産を見つけることも困難であり、実際にはほとんど支払われていないのが現状」
また、損害賠償を命じる判決が確定したとしても、その時効は10年。支払いを受ける可能性が低くても、10年が経過する前に再提訴しなければならず、被害者にとっては大きな負担となるのだといいます。
日本弁護士連合会犯罪被害者支援委員会・高橋みどり 委員長:
「犯罪被害者への補償が十分にできておらず、救済が不十分。犯罪被害者への国による損害賠償金の立替制度を柱とした、新たな犯罪被害者等補償法を制定するべき」
事件によって人生が大きく狂わされる、残された家族。
犯罪被害者への支援の拡充が求められています。