特集「キャッチ」飲酒運転の車に奪われた娘「命を大切にして」父の思いがモニュメントになった 福岡
去年12月、福岡県糸島市の大庭茂彌さん(77)の自宅に、大庭さんの娘、三弥子(みやこ)さんが中学時代に入っていたバスケットボール部の同級生たちが集まりました。クリスマスの翌日は、三弥子さんの命日です。
■同級生
「黙々と、シューターね。助けられましたね、彼女のシュートに。」
「ずっと膝にサポーターしていましたね。」
「思い出しますね。クリスマスからの、あれで。」
今から25年前、大庭三弥子さんは21歳で、飲酒運転の車に命を絶たれました。
1999年12月。通っていた大学があった鳥取県で、三弥子さんが運転する軽乗用車に、対向車線からはみ出してきた飲酒運転の車が衝突しました。一緒に乗っていた友人2人も亡くなりました。
身勝手な飲酒運転によって失われた娘たちの未来。事故後、しばらくして大庭さんは飲酒運転の撲滅を訴える活動を始めました。
■大庭茂彌さん(77)
「娘たちのことを考えるなら、親として娘の死を無駄にしたくない。自分たちと同じような被害者の遺族をつくらない。それを常に頭の中にもっています。僕たちがやらないといけないことは、加害者をつくらない世の中をつくるということではないか。」
命を大切にできれば、飲酒運転なんか決してできない。全国で講演活動を続けてきました。
■大庭さん
「せっかく生まれ持った命です。自分のためだけではなくて、周りの人たちのことも考えていろいろな活動をやってください。みんなで飲酒運転をしないということを守っていかないといけない。」
中学生や高校生などを中心に、これからハンドルを握る若い世代に伝えます。
そして、大庭さんの思いを形にして飲酒運転撲滅の輪を広げようと、あるプロジェクトが本格的に始まっていました。
■片山博詞さん(61)
「温かい感じのモニュメントにして、裏に潜む悲しみが伝わればと感じました。」
亡くなった三弥子さんをモデルとしたモニュメントを、生まれ育った糸島市の交差点に設置しようという計画です。
制作を引き受けたのは、福岡市の片山博詞さん(61)です。JR直方駅の前にある大関・魁皇の銅像など、これまで200点以上の彫刻を手がけてきました。
■片山さん
「テーマが本当に深いので、常にこれでいいのか、いいのかと自問をしながらの制作です。」
父の思いがモニュメントになった
悲惨な事故で奪われた命を表現する。制作当初はイメージが湧かなかったという片山さんですが、大庭さんの話を聞く中で、着想が得られました。
■片山さん
「天から、お父さん頑張りよるねって声をかけられるような気がするという話をうかがって。雲というか、空に座っている三弥子さん、女性のイメージが浮かんで。三弥子さんの写真の、たんぽぽを吹く姿に命を吹き込むようなメッセージ性を感じた。」
父の心の中で生き続ける三弥子さんの姿。制作期間はおよそ2年6か月に及びました。
この日、片山さんが大庭さん夫婦たち関係者を自宅に招きました。モニュメントを見てもらうためです。
■片山さん
「こんな形ですが、どうでしょうか。」
■大庭さん
「すごいですね。
■三弥子さんの母・由美子さん
「三弥子がいるみたい。」
■片山さん
「三弥子さんの雰囲気、出ていますかね。」
■由美子さん
「なんとなく目の当たりとかね、似ています。」
■片山さん
「上の方は、お父さん頑張りよるねと言葉をかけている雰囲気が伝わるように。何を差しのべているのかなというのは、見られた方々がそれぞれ想像していただければと思います。命の尊さを本当に皆さんが大事に考えてもらえたら。」
そして、ことし6月。モニュメントの除幕式が行われました。真ん中には三弥子さんをモデルとした女性。2羽の鳩は、同じ事故で亡くなった2人の友人を表現しています。
そして、しば犬の像。2011年に福岡県粕屋町で、飲酒運転の車に命を奪われた高校生・山本寛大(かんた)さんが飼っていた「こゆき」がモデルです。
飲酒運転ゼロへ。そんな決意の輪が広がる一方、県内ではことし1月から7月までに飲酒運転で884人が検挙されていて、撲滅には程遠い現状です。それでも、自分たちのように悲しい思いをする人を作りたくないと、大庭さんはこれからも活動を続けるつもりです。
■大庭さん
「年も年と思うけど、やっぱり娘の分までは生きないといけない。世の中のために、どう自分ができるか。何ができるかを考えながら、飲酒運転撲滅と合わせて命の大切さを訴えていければいいと僕は思います。」
※FBS福岡放送めんたいワイド2024年8月28日午後5時すぎ放送