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バスや列車に"ほとんど乗らない"熊本市民 全国一の渋滞の背景に「マイカー文化」

2024年4月3日 20:18
バスや列車に"ほとんど乗らない"熊本市民 全国一の渋滞の背景に「マイカー文化」
全国的に見ても深刻だと言われる熊本の交通渋滞について、KKTが徹底取材するシリーズ企画「抜け出せ渋滞都市」。まずは現在の熊本市内の交通状況を見てみましょう。

国土交通省の調査で、熊本市は「主要渋滞か所」の数と中心部の車の平均速度について、20の政令指定都市の中でワースト1位となっています。つまり熊本市は政令市の中で渋滞する地点が一番多く、渋滞しない場所も含めた中心部がもっともノロノロ運転だということですね。

熊本の渋滞について、特徴と背景事情を取材しました。
まず私たちが向かったのは、熊本県警察本部です。

道路標識や信号機によって交通の流れを調整する交通規制課。いわば「道路の番人」を務める上原貴智課長補佐に話を聞きました。

■熊本県警本部 交通規制課・上原貴智課長補佐
「熊本県は車社会ですので、自家用車の利用割合が高いことが要因として挙げられる」

様々な要因によって引き起こされている熊本の渋滞。その中で上原さんが指摘したのが「車の利用率の高さ」です。外出する際にどんな交通手段を使うのか。国土交通省が車のほか、鉄道やバスといった公共交通、バイクや自転車に分けて調査した結果がこちらです。

車を選ぶ人の割合は熊本市で平日は61.2%、休日は73.4%と
いずれも調査した16の政令指定都市の中で最も高い結果となりました。

「車社会」をいかに管理するのか。県警の交通管制センターでは渋滞をリアルタイムで計測・集計し、状況に応じて信号の変わる時間を自動で調整するよう制御しています。しかしこの対策だけでは限界があるというのです。

■上原貴智課長補佐
「道路の限られた中で交通が集中してそこをなんとか信号機で制御しようといろいろアイディアを出しながらやってはいるが、時間帯等にもよるが効果が目に見える形で出せていない私たちも困っている歯がゆい思いをしている」

県警だけでは手に負えない「渋滞都市」熊本の現状。どうしてこのような車社会となったのか。
そのヒントを探しに、熊本河川国道事務所を訪ねました。

話を聞いたのは、計画課の横山朋弘課長。交通量などを調査し国道作りを提案する「道路戦略のスペシャリスト」です。

■九州地方整備局河川国道事務所 計画課・横山朋弘課長
「車で(買い物などに)行くという便利さをこれまで享受してきたというところがある。車でお客さんが来てくれるからお店も駐車場を整備するなど需要と供給が成り立った結果、今の熊本のまちづくりになったと思う」

マイカー移動を前提としたまちづくりが進められた結果、車に依存し公共交通を不便なものだと考える社会になったのだといいます。

■九州地方整備局・横山朋弘課長
「実際は公共交通を使うから不便ではなく車で混雑していくところに突っ込んでいくよりも公共交通を使うことによって渋滞に巻き込まれずに済むと。そういった考えにシフトしていければいいのかなと思います」

去年3月の県内の車の登録台数は104万台あまり。県民の車の保有率は2人あたり1.2台で、熊本の保有率は47都道府県のうち25位前後を推移しています。

注目したいのはこちら。過去10年間で県の人口が8万6000人あまり減っているにもかかわらず、車の登録台数は5万2000台以上増えているんです。車依存の傾向はいまも強まっている。「車の利用が多い」ということは、裏返して考えると「公共交通の利用が少ない」ということです。

外出時にどんな交通手段を使うか、国交省が調べた16の政令指定都市のうち、バスや鉄道など「公共交通」の利用率が最も高かったのが神奈川県川崎市で平日は38.6%、これに対して熊本市は4.9%と、16の政令市の中で最低です。

休日はさらに衝撃的です。熊本市の公共交通の利用者はわずか2.6%なんです。車を使う人が4分の3…熊本がいかに車社会なのかが改めてよくわかりました。これが熊本の交通の特徴です。車社会の熊本にどのような未来が待っているのか。熊本河川国道事務所の横山さんは次のように指摘しています。

■九州地方整備局・横山朋弘課長
「これだけ成熟した熊本県熊本市という環境だがさらに企業進出が盛んに行われていて、今後も発展して人が集まってくるという状況は全国でも珍しい」

横山さんが念頭に置くのが、菊陽町でことし2月に工場の開所式を行った台湾の大手半導体メーカーTSMCです。関連企業の誘致にも熱い視線が注がれる裏側で、通勤時間帯を中心に周辺で渋滞が深刻化しています。

■九州地方整備局・横山朋弘課長
「半導体関係の企業がセミコンテクノパーク周辺に集積してきている状況もあり、そこだけに企業がくるだけではなくて経済効果を熊本県全域、九州全域に波及させようという取り組みが考えられているのでTSMCの周辺だけではなくて他の地域との連携とコースが増えてくる」

熊本の渋滞をさらに広げてしまうことのないように、県や周辺自治体がバス通勤の実証実験を開始。
さらに熊本空港とJR肥後大津駅を結ぶ空港アクセス鉄道の整備にも期待の声が上がっています。

長い時間をかけて車社会となった交通のあり方を一度に変えるのは難しい。一方で、新たな都市開発が始まる菊陽町周辺地域で、車に偏り過ぎたバランスをどのように公共交通に移していくのか、熊本の渋滞解消に向けたひとつの試金石になりそうです。

KKTでは今後、公共交通の課題や可能性についても徹底取材します。