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26年の歴史に幕…トロッコ列車「奥出雲おろち号」と深いつながりをもつ人たちが語る思い 島根県

2023年11月24日 19:58
26年の歴史に幕…トロッコ列車「奥出雲おろち号」と深いつながりをもつ人たちが語る思い 島根県

島根県雲南市と広島県庄原市を結ぶJR木次線のトロッコ列車「奥出雲おろち号」は11月23日にラストランを終えました。

26年間、多くの人に愛されてきたおろち号。その最後の姿を特別な思いで見送った人たちを取材しました。

今年の春、満開の桜と共に始まったJR木次線の奥出雲おろち号、ラストシーズン。連日満席状態。沿道ではカメラを構える人も増えていきました。

列車のアナウンス
「ラストランまで残り少なくなりましたが、最後まで安全に走り抜きます」

寂しさが募る一方、慌ただしさが増したのが…

沿線に店舗を構える島根県奥出雲町のそば屋さん「扇屋そば」です。

扇屋そば 杠 哲也 さん
「運行終了日に近づくにつれてやはりお客さん、乗客もまわりもにぎやかになっていますね」

名物は、そば粉を甘皮ごと挽いた香り高い奥出雲そば。実はこの店、店舗そのものがJR亀嵩駅の駅舎となっていて、列車が到着すると、店長の杠さんは、「そば屋さん」から「駅長」に。わずかな停車時間に、予約のあった乗客へそばを届けているのです。

扇屋そば 杠 哲也 さん
「停車時間は1分。迅速に目当てのお客様を見つけるというのが(大変)」

奥出雲おろち号の乗客にとっては美しい景色とともに楽しめる観光列車の魅力の一つでした。


「おいしい!」

「扇屋そば」は、まだ国鉄時代の1970年代に誕生。駅の業務委託を請け負った杠さんの父が、収入の足しにと、兼業でそばを始めました。50年も続くサービスでした。

扇屋そば 杠哲也さん
「旅の思い出の一つとして一つでもたくさんの思い出を作っていただけたら」

静かな山間のまちに活気を呼び込んでくれた奥出雲おろち号。そんな中、少しずつ迫るおろち号との別れ…。

扇屋そば 杠 哲也 さん
「長年見続けてきた光景がここで途切れてしまうのは本当に残念です。最後まで手をふってお見送りができれば良いかなと思っています」

そして、その日がやってきました。11月23日午前8時すぎ、奥出雲おろち号、ラストランに向けて出発です。ラストランともなると、沿線にはゆかりのあるさまざまな人の姿がみられました。

「奥出雲おろち号」の名付け親 舩木 利枝さん
「(トロッコ列車の)名前を募集されたときに応募して、たまたまそれが採用されて。(名前の)理由?大蛇のごとく斐伊川が流れていたりして良いだろうなって。(運行終了に)未練があります。残念です」

一方、列車を動画で撮影している島根県奥出雲町出身の片平千佳さん。

片平千佳さん
「(ラストランは)追っかけれるだけ追っかけて"人とおろち号のセット"を撮りたい」

片平さんはおろち号と深い縁があるようです。

片平千佳さん
「まず図面をいただいてここからちょっとイメージして最初の案的なものを出して…」

実は片平さん、おろち号の車両をデザインをした人物。おろち号が運行を開始する前の年の1997年、地元のデザイン専門学校で講師をしていた片平さん。あるとき、デザインの担当者を探していた町から、オファーが舞い込んできたのです。

片平千佳さん
「依頼の大きさがそのときわかっていなくて軽い気持ちで『わかりました』と喜んでいたんですけど、そのあとでJRのお仕事という仕事の大きさに気付いて私で良いのかなという思いもありました」

こちらは貴重なデザインの原案。今と少し違いますがこのときから青と白のカラー、そして星のマークがデザインされています。

片平千佳さん
「星の形の意味は『希望』。乗った方が幸せになるように願いが叶うようにという意味を込めています」

大好きだった地元の夜空を表現したいと、「銀河鉄道」をテーマに。

そして1998年4月、華々しくデビューしました。片平さんは、運行初日の1日駅長を担当。14年前に結婚して県外に暮らし、しばらく疎遠になりましたが、常に思いを馳せていた片平さん。しかしおととし、おろち号の引退を耳にしました。

片平千佳さん
「いつかは来るだろうと思ってたんですけど新聞で知りまして、とうとうその日が来たんだなと。自分自身も島根に通うようになって(スマートフォンで)撮影をするようになりました。撮り鉄になったんです。(おろち号は)我が子みたいな存在です」

昨年度、木次線の1日の平均利用客数は全路線で2番目に少ない171人。一方で、昨年度の奥出雲おろち号の年間利用客数は1万5000人。路線の存続自体が懸念される中での人気列車の引退。

ラストランの午後2時すぎ…。

扇屋そば 杠 哲也さん
「ドキドキしますね」

列車はそば屋と駅舎が一体となったJR亀嵩駅に到着。扇屋そばの杠さんが奥出雲おろち号の乗客へそばを届けるのはこれが最後です。杠さんはこれからも変わらず、普通列車の乗客にそばを届け続けると言います。

扇屋そば 杠 哲也 店長
「本当にお疲れさま、ありがとう。奥出雲おろち号が残してくれたにぎわいをまち全体で生かしていく。おろち号が走っていた頃に負けないくらいのにぎわいが出てくればいいなと思う」

午後3時57分。おろち号が終点のJR木次駅に到着しました。たくさんのファンたちが奥出雲おろち号の最後の姿を思い出に焼き付けます。

片平千佳さん
「沿線にたくさんの人がいて旗をふったり手をふったりされて地域の方に本当に愛されているんだな。これからは関わった皆さんの心のなかや思い出のなかで走り続けていくんだろうなと思います」

26年の歴史に幕を下ろした奥出雲おろち号。これからも、一人一人の心のなかで走り続けていきます。