てんかんのある入所者を単独で入浴 県立の福祉施設の死亡事故で検証報告書を公表 必要なサポートを怠ったことが事故の原因だったとして「県の過失を指摘」 鳥取県

鳥取県は3月19日、2018年に倉吉市にある県立の福祉施設で起こった死亡事案について、検証結果をまとめた報告書を公表しました。てんかんのある入所者を入浴させる際、職員が施設のマニュアルに従わず、必要なサポートを怠ったことが事故の原因だったとして、県の過失を指摘。遺族への対応や組織の管理体制にも問題があったとして改善を求めました。県は今後、報告書を基に再発防止策の立案などに取り組む方針です。
県は、2018年12月に倉吉市にある県立福祉施設「皆成学園」で発生した入所者が入浴中に死亡した事故について、2024年2月から児童福祉審議会で検証を行っていました。事故後、県側の過失はなかったとする判断などを根拠に、調査は打ち切られていましたが、2023年8月に亡くなった入所者(当時18歳)の遺族から説明を求められたことで、検証を再開。このほど、報告書がまとまりました。
報告書などによりますと、皆成学園ではてんかんのある入所者が入浴する際、職員が浴室内で安全を監視するようマニュアルで定められていましたが、これに反し入所者が単独で入浴することを認めていました。
死亡した入所者には、てんかんのほか知的障害と適応障害がありましたが、施設からの自立を目指し支援を受けていました。2018年6月に別の施設から皆成学園に移り、同年11月中旬には「直近の2か月程度てんかん発作がなかった」ことなどを理由に、単独入浴を行っていました。
事故が起こった同年12月8日も一人で入浴していましたが、同じ建物で勤務中だった職員3人は、いずれも事務室にいて、安全を確認していませんでした。入浴開始から20分ほどたった時点で、職員が確認すると、入所者は浴槽内でうつ伏せになっていて心肺停止の状態だったということです。すぐに救急搬送されましたがその後、病院で死亡が確認されました。
医師は死因を「てんかん発作による溺死」と判断し、「病死および自然死」としました。これを受け、県は職員に過失はなかったと判断したということです。ただ、死因の分類と過失の有無に直接の関係はなく、今回の報告書も、本来従うべきマニュアルが遵守されておらず「過失があった」と指摘、これを受け、県も当初の判断が誤っていたとして、過失を認めました。
一方、マニュアルに反した対応が取られるようになった経緯は、いまも分かっていません。施設内では亡くなった入所者が単独で入浴することについて、統一的な対応を行っていたとみられますが、施設長への報告や職場での情報共有など、変更の具体的なプロセスは不明のままです。
報告書では「記録の不存在、または時間の経過による担当者の記憶の不確実さ等があるため、一部事実確認が困難であった点もある」とされ、事件後の遺族対応や施設内での会議などでも同様に資料が見つかっていません。そもそも資料が作成されていないかったのか、あるいは保管の不備だったのか、ある時点で破棄されたのかー。施設のずさんな管理実体が明らかになったものの、検証としては不十分な箇所もあり、課題を残した格好です。
報告書の公表を受け、日本てんかん協会鳥取県支部の渡部恵子さんは「皆成学園は重い症状のある方の受け皿となる施設で、職員は研修などにも熱心に取り組んでいた。一生懸命やっていた中で、少しの隙間が児童の死につながってしまい、非常に残念。命は戻ってこないが、2度と同じ事故が起こらないよう頑張ってほしい」と話しました。
県は、2月に被害者遺族へ報告書の内容を伝えるとともに、補償に向けた交渉を始めました。事故発生後、遺族としっかりした信頼関係を構築できておらず、補償に関する話し合いも進んでいませんでした。今後、慰謝料など和解条件がまとまり次第、議会に和解案を諮る方針です。
鳥取県の平井伸治知事は今回の報告書の公表に対し「入所者のご冥福を心よりお祈り申し上げます。尊い命が失われたことを重く受け止め、二度とこのような悲劇を繰り返すことがないよう再発防止に万全を期します」とコメントしています。