鳥取県を和牛王国に押し上げたスーパー種牛「白鵬85の3」の死を乗り越えて… 未来につながる期待種牛の造成へ
和牛王国鳥取の人気を押し上げた県のスーパー種牛「白鵬85の3」が去年12月に病死しました。県はこのほど、白鵬の追悼イベントを開催。その功績を労うとともに、新たな種牛の造成に向けて取り組みを進めています。
1月23日、鳥取県中央家畜市場で行われた初セリ。エサ代の高騰などで子牛価格の低迷が続く中、会場を沸かせたのが、鳥取県が誇るスーパー種牛「白鵬85の3」の子牛です。去年の平均価格が50万円前後のところ、1頭の子牛が約220万円と平均価格を大きく上回りました。
2017年、白鵬85の3は和牛のオリンピックともいわれる全国和牛共進会で肉質部門・日本一に。その後、白鵬85の3の人気は急上昇。県外からも多くの購買者が訪れ、子牛が一頭891万円という当時の日本最高価格で競り落とされたほか、2年連続で子牛の平均価格が日本一に。和牛王国の魅力を全国にアピールしました。
しかし、去年12月22日、白鵬85の3は14歳11か月で病死したのです。地元の関係者たちはー。
生産者
「ショックです。うちの母牛がみんな白鵬の子なので、お父さんが死んだみたいな感じですよね」
JA全農とっとり 小里 司 副本部長
「残念ですし、県外の購買者からも『本当に良い牛が亡くなったね』とお悔やみの言葉をいただいたりしています」
1月の初セリでも、287頭の出品牛のうち、100頭が白鵬の血統。亡くなってもなお、鳥取和牛の人気を支え続けています。
白鵬85の3の死に特別な思いを抱くのは、農家の生田智之さん。
和牛繁殖農家 生田智之さん
「悲しい気持ちもありますけど、これまで長い間白鵬のおかげで鳥取県の平均価格もすごく高くなって、本当に感謝しかないです」
実は白鵬85の3は、生田さんの祖父と父が15年前に生産した牛でした。しかし、2人はその翌年に、他界したため、鳥取県が白鵬を購入。それ以降、和牛王国を引っ張ってきた白鵬の存在は生田さんの誇りでした。
1月28日、鳥取県は、白鵬85の3のお別れ会を開催。会場の入り口には、白鵬が実際に着けていた鼻環や、識別のため耳に着けるタグなどの遺品が並びました。そして式典には、約100人が出席し平井知事も駆け付け、その功績を労いました。祭壇には次々と玉ぐしが捧げられたほか、生田さんが慰霊の言葉を述べました。
~慰霊の言葉~
和牛繁殖農家 生田智之さん
「父と祖父がやっとの思いで作り上げた白鵬85の3の功績を見て改めて喜んでいると思います」
和牛繁殖農家 生田智之さん
「白鵬85の3の後継種雄牛を皆でつくりあげて、もう一度日本一をとりたいなと思っています」
白鵬が引き上げた鳥取和牛のブランド。これを未来につなげていくための取り組みが進められています。鳥取県畜産試験場にいたのは、期待の種雄牛たち。なかでもエースとされているのがー。
鳥取県畜産試験場 小西博敏 場長
「『智頭白鵬』になります。白鵬の直接の子どもになります」
白鵬85の3を父に持つ「智頭白鵬」。その子牛は、サシの入り具合やロース部分の大きさなどの成績が白鵬85の3を上回り、歴代最高だといいます。
鳥取県畜産試験場 小西博敏 場長
「お父さんを超えた牛、非常に高能力な牛です」
智頭白鵬は、再来年に北海道で開かれる全国和牛能力共進会で白鵬が高く評価された肉質などを競う部門への出場が有力視されています。そのほかにも「久福也」は、くちどけの良さの指標となるオレイン酸の含有量が歴代ナンバーワン。さらに「菊花久」にも期待がかかり、再来年の全国大会出場の有力候補となっています。
鳥取県畜産試験場 小西博敏 場長
「(これまでは)白鵬がいてくれるという心の支えを失い、ちょっと白鵬ロス。(新しい種牛たちで)まずは全国和牛能力共進会で良い成績をとり、そこを起爆剤として展開していきたい」
また県は、地元の農家が県外で落札したメス牛の中から優秀なものを買い取り、鳥取県の種牛と掛け合わせる事業を来年度から始めます。白鵬は亡くなりましたが、現在も1万本分の精液が凍結保存され、さらにすぐれた牛の造成に取り組むということです。