特集は「気候変動と水産業」です。青森地方気象台のデータによりますと県内各地で気温の上昇傾向が見られ温暖化対策が進まない場合21世紀末の県の平均気温はおよそ4.7度上昇すると予測されています。気候変動に対する現状と取り組み、3回目は「陸奥湾ホタテ」です。

★青森放送　菅原厚
「暑い陽射しが照りつける中、陸奥湾の海水温も高く推移しています　その影響を受けるのが陸奥湾ホタテです」

陸奥湾ホタテは去年、記録的な猛暑の影響で湾内全体で稚貝の5割以上がへい死する被害を受けました。日射による海水温の上昇を受けにくい深い層に沈める対策が呼びかけられましたが、ほかの漁協管内に比べ水深が浅く深いところでも水深30メートルの青森市漁協管内では9割の稚貝が死にしました。

県水産総合研究所によるとことしも6月中旬から平年を上回る水温で推移。ホタテがへい死する可能性が高くなる25度を超える地点もみられるということです。
気象庁のデータをもとにした研究所の今世紀末までの予測では温暖化対策が進まない場合、へい死率は8割から全滅でした。一方で…

★県水産総合研究所　吉田達所長
「あと20～30年くらいの間であれば　ホタテの養殖管理を徹底してやっていけばまだまだホタテ養殖はできます　毎年去年のような水温が続く訳ではないと思います」

★菅原厚
「去年へい死率が高かった青森市漁協では今後のホタテ養殖についてどのように考えているのでしょうか」

★青森市漁業協同組合　澤田繁悦組合長
「いかにホタテを死なせないようなやり方をしています　いかに死なないホタテを作るかを考えなければいけない」

市長に窮状訴える一方危機感を募らせる漁師たちは…

★漁師は
「うちらの漁場では水深20メートル前後です　いまの状態ではホタテ養殖は不可能ではないか」
「おそらく（これから）暑くなるので違う水産物に切り替えていかなければ」

市の担当者は…

★青森市農林水産部　大久保文人部長
「どういったことができるのかという可能性についてはこれから漁業者のみなさんともお話しながら新しい魚種を導入できるのかどうか手法があるのかというのを研究していきたい」

浅虫にある東北大学大学院の研究センターで共同研究員として養殖研究をする三上拓也さんです。研究では陸奥湾の高水温に耐えられるほかの海産物の可能性を探っています。

★ＡＷＥＳＯＭＥＳＥＡ合同会社　三上拓也代表
「養殖の研究をしている中で水温が高くなったからこそ高温に耐えられる水生物の研究と開発が当然必要になってくると思います　その中でホタテに非常に養殖の生態が似ているカキであれば可能性としてはあるのではないかと思っています」

徳島県を拠点にカキの養殖や種苗生産取り組む「リブル」は生産管理をデジタルで行う「スマート養殖」を導入した水産養殖界のベンチャー企業です。一般的なカキは産卵した卵がほかの水生物にも付着し悪影響を与えてしまう恐れがありますが、生殖機能を抑制した産卵しないカキを用いることでほかの生態系への影響を少なくすることができるとしています。さらにカキはホタテに比べて高水温に強いのが特徴です。

★リブル　岩本健輔代表
「生息範囲が広いというのが（カキの）一番の強みだと思います　深くても浅くても養殖し得る生き物　陸奥湾でもいまある漁場ホタテの漁場であったりホタテで使えないような浅い漁場でもカキ養殖には使えるのかなと」

県は3年前から外ヶ浜町漁協蟹田支所と協力し県内初のカキの試験養殖を進めています。試験養殖は蟹田沖の水深13メートル、ホタテ養殖と同じ海域で行われています。県の担当者は一定の手ごたえを感じています。

★県東青地方水産事務所　山田嘉暢副所長
「手探り状態で始めたんですがここ3年やっていろんな課題ですとか出荷できるようなカキが作れるんだとわかった」

懸念されるのはエサとなるプランクトンの量です。

★山田嘉暢副所長
「エサとなる植物プランクトンは（カキとホタテは）同じものを食べるのでそこは試験なのでいまのところほぼ影響はないのですが」

県の「陸奥湾ホタテガイ総合戦略」に定める副業魚種にはカキも含まれています。

★県水産振興課　種市正之課長
「ホタテの養殖技術を活用応用できて　しかも高水温にも強いということであればマガキは非常に有望である　まだまだ課題は多いのですが　めどが出きればどんどん陸奥湾内にも普及できればただ麻痺性の貝毒とかを導入しないように十分留意しながら普及をしていきたい」

県の一大産業であるホタテを守りながら高水温にも強いカキの養殖を迎え入れるための課題を乗り越えた先には未来の陸奥湾が広がっています。