3万人の街の“快進撃” 東温市「ついに念願の」グローバル企業誘致&転入超過で人口減少に歯止め
人口3万3000人ほどの街の“快進撃”が止まりません。
「やりましたね!ついに念願の日がやってきましたね」
5月17日、愛媛県庁で満面の笑みで握手を交わしたのは東温市の加藤章市長と中村時広知事です。
松山市に隣接する東温市。
ここに、コイル巻線機の“グローバルニッチトップ”NITTOKU(埼玉県)が進出することが決まり、立地協定の締結式が行われたのです。
自動車や宇宙・航空などあらゆる分野の製品に使用されているコイル。東温市の新たな約2ヘクタールの面積を持つ新工場から、EV/HEV用バッテリーを製造する装置などを生産する予定です。
すでにレンゴー(大阪府)やヒカリ(東温市)など、市内外の企業が大規模展開を始めている東温市。
席上、「今年はちょうど合併から20年。この縁を大切にしたい」と控えめに話す加藤市長の挨拶とは裏腹に、東温市の街づくりは大きな転換期を迎えています。
12kmの“穴”を埋める救世主
今年3月、「東温スマートIC」が開通しました。
これまでは東温市から高速道路へアクセスするためには、松山ICまたは川内IC(東温市)を利用する必要がありました。松山IC-川内ICの距離は約12km。
東温スマートICはその中間に設置された単なるICではありません。
・工業団地への企業誘致を促進
・企業の高速道路へのアクセス向上
・愛大病院など医療施設へ搬送時間短縮
・松山駐屯地の機動力向上
・県警機動隊の出動時間短縮
・松山ICの利用分散で国道渋滞緩和
もともと医療・防災などの拠点や工業団地が集まる東温市。上記のように新たなICによる恩恵は大きく、地域の“救世主”ともいえる存在と言えます。
東温市はこのスマートICの完成を見越し、先手を打って動き始めていました。“快進撃”の背景には、徐々にこれらの水面下の動きが表面化してきたことが大きいと考えられます。
「全国でも珍しい」駐屯地に新道路
「駐屯地からではなく、自治体からそういった提案を受けるというのは全国的にも珍しいケースだろう」
この春、防衛省の関係者がそう話していたのは陸上自衛隊松山駐屯地をめぐる動きについてでした。
南海トラフ巨大地震をはじめとして、有事の際に出動するケースが想定されている松山駐屯地の部隊。現在、駐屯地から出動する道路は「旧国道11号」につながる北方向の道1本しかありません。
もし災害時にこの道が寸断されると部隊が立ち往生してしまうおそれがあります。
この課題を受けて東温市は、新たに駐屯地の南東方向に出入りできる長さ660mの市道の整備を決定したのです。
しかも、この新市道は大動脈・国道11号と接続し、東温スマートICを通って高速道路へのアクセスが良好に。大津波が予想される県南部や高知県へ出動する際に、より迅速な活動が可能となります。
関係者によるとこの新市道の整備は駐屯地から寄せられた話ではなく、東温市から駐屯地へ提案したということ。市は近く工事に着手し、来年度中に完成させたい考えです。
ベッドタウンを超えて
NITTOKUの笹澤社長は、今回の工場進出にあたって県や市に期待することは「人材」とのこと。
将来的に地元から新卒・キャリア採用あわせて200人の雇用を予定しているといいます。また、2026年の本格操業を開始した際は、東温から売り上げ40億円を見込むということです。
工場や企業を誘致することで雇用が生まれ、定住者・交流人口が増える。するとそれに伴って、暮らしに直結する商業施設などの新規出店や、工業団地のさらなる再開発が活発になることも予想できます。
転入・転出による人口の増減を示すのが「社会動態」です。
この10年間、愛媛県全域の社会動態を見ると「転出超過」の一途ですが、実は東温市の社会動態は10年間のうち実に8年が「転入超過」となっているのです。
見方によっては松山市のベッドタウンとして安定した人口を維持してきたと捉えることもできます。一方、その松山市では先日50万人の人口を割ったという衝撃的なニュースもありました。
締結式の最後に加藤市長は「市内にはものづくり企業も多く、NITTOKUさまには地域経済活性化の牽引役も担っていただきたい。さらなる工業団地の造成に力をいれていく」と述べました。
東温市の攻勢は今後も続きそうです。