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「消えた7万人を追って」中村知事&観光会社がシドニーへ!愛媛の新たな観光戦略

2024年9月24日 18:00
「消えた7万人を追って」中村知事&観光会社がシドニーへ!愛媛の新たな観光戦略

愛媛県と観光会社が乗り込んだのはオーストラリア・シドニー。彼らのミッションは「消えた観光客7万人」を追いかけること。インバウンドブームで終わらせるか、それとも持続可能なムーブメントにするか。観光戦略の最前線を密着取材です。

大洲市にある古民家カフェ。行われていたのは和菓子作り教室です。

台湾からの参加者:
「和菓子を食べるのではなく自分で作る体験が良い。そんなに難しくはないです」

参加者は、台湾からのツアー客。

通訳しているのは、このツアーを企画した謝璠(シャ・ハン)さんです。

謝さん:
「キタ・マネジメントで、街づくりの仕事で、観光を手段として街を元気にさせようとしています」

台北出身の謝さん。大学を卒業後、台湾でアート関係の仕事をしていましたが、憧れの観光業を追い求め来日。4年前から、「キタ・マネジメント」のツアー担当として働いています。

「通常の観光ツアーはきれいなところしか見せないと思いますけど、これは大洲の取り組みや物語を伝えるためにいろんな面から見せたい」

注目が集まる大洲 観光戦略は世界一の賞も受賞

観光地域づくり法人「キタ・マネジメント」。2018年、ホテル開発などを行うバリューマネジメントや伊予銀行などが立ち上げました。

築100年を超える古民家を改修したホテル。お城に泊まるキャッスルステイ。持続可能な観光戦略が評価され、世界一の賞も受賞しています。

キタ・マネジメントで働いて6年目のディエゴさん。東京の大学院で建築の研究をしていましたが、大洲に魅せられ移住しました。

ディエゴさん:
「さっきの川の名前を覚えている人がこの和傘を使えます」
参加者:
「ヒジカワリバー」
ディエゴさん:
「イエス!」

7か国語を操り、特にヨーロッパ・アメリカ・オーストラリア向けのツアーをこなすディエゴさん。しかしその中で、ある課題を感じています。

ディエゴさん:
「もしここまで来てくれたら満足度はたぶん結構高い。課題は(欧・米・豪から)ここまで来ること」

欧米、そしてオーストラリアからのインバウンド客をいかに大洲に呼び込むかということです。

課題は欧米・オーストラリアからの観光客誘致

現在、愛媛を訪れる外国人の多くはアジアから。一方、旅先でどれだけお金を使うかを見てみると、上位を占めるのは欧・米・豪で、アジアは下位です。

中村知事:
「オーストラリアは広島まで来ているのは明確ですから、そこからこちらに引っ張ってくる戦略を」

そこで県が新たなターゲットに定めたのがオーストラリアです。

去年、広島を訪れたオーストラリア人は7万5000人。一方、愛媛を訪れたのは、わずか3600人。隣の県にもかかわらず、7万人あまりが“消えている”のです。

謝さん:
「大洲とか周辺の観光地を中心に(県と)一緒にPRのメインイベントに参加」

今回、県の招待を受けてキタ・マネジメントの2人は、ある商談会への参加を決めました。

ディエゴさん:
「(立ち上げ直後の)5年前の戦略の中でも欧・米・豪がターゲットの第一にあったので、今回はいいきっかけ」

愛媛県がシドニーでの商談会を開催

その商談会が開催される場所は。

ディエゴさん:
「オーストラリアのシドニー」

人口は500万人を超え、平均年収は1000万円。この世界都市・シドニーに、商談会を主催する中村知事が到着しました。

中村知事:
「30年前と20年前に来た。1つは新婚旅行で、20年前は国会議員の時の委員会視察ですね。日本文化の体験とか古い町並みの景観にも関心が高まっているので、このあたりを組み合わせていくと南予は面白いかなと」

“消えた7万人”を追って。中村知事がまず向かったのは、世界最大級の旅行予約サイトを運営する「Airbnb」。オセアニア地域を統括するウィールドン支社長です。

中村知事:
「十分に期待に応えられるようなコンテンツを持っているので、ぜひアプローチをさせていただきたいと思っています」

サイクリングやグルメなど、愛媛を余すことなくPR。気になる支社長の反応は。

ウィールドン支社長:
「オーストラリア人はあまり知られていない場所を知りたがっています。東京や大阪はよく知られています。だからこそ愛媛は完璧な旅行先だと感じました」

特に、大洲の“静かな旅”に好感触。両者は早速、SNSによるキャンペーンなど、具体的な連携に向けて意見交換を行いました。

キタ・マネジメントの2人もシドニーに到着。手配していた送迎車を待ち合せますが…。

謝さん:
「『電話する』ボタンを押しても反応ないです」

運転手とつながらず、待つこと30分。出鼻をくじかれましたが、無事落ち合うことができました。

ディエゴさん:
「(商談会の)参加者はどこまで愛媛のことを知っているか。どこまで深い話をするか。そこがちょっと不安なところ」

謝さん:
「私一番の不安は英語しゃべることです。初めて英語の国に来て」

2人が商談会前に会ったのは、シドニーで観光業を営む斎藤学さん。大洲にも来たことがある斎藤さんに、現地のニーズをリサーチします。

謝さん:
「実際に来てもらったら私は100%満足いただける自信はありますけど、でも来ないと分からないじゃないですか。そこをどうすればいいか悩んでいる」

斎藤さん:
「何か大々的にアニメと結び付けてとかになってしまうと、たしかに(外国人は)多くはなると思います。けれども違う路線というか、例えばすでに良いポイントはお城に泊まれるとか(押さえてある)」

プレゼンをどう構成するか。この街を歩く中でディエゴさんには気づいたことがありました。

ディエゴさん:
「(オーストラリア人は)自分の歴史、ヨーロッパと比べたら短いかもしれないけど、大事にしてる。植民地になってから(先住民に)どんなことを行ったとか、(オーストラリア人は)悪い歴史でもそれをちゃんと見せないといけない(と考えている)」

良い面も悪い面も隠さずに伝える。

ディエゴさん:
「我々の取り組みもそういった(過去を隠さず伝える)スタンスが入っているので、それを伝えるようなプレゼンを」

公園で、最後の準備です。

「サイクリング」を共通言語に 交流の広がりに期待

一方の中村知事。現地のサイクリング協会マクリーンCEOとともに向かったのは、街のシンボル、ハーバーブリッジです。

“自転車の街づくり”という愛媛との共通点があるシドニー。サイクリング環境を視察しました。

知事:
「自転車が街のなかに当たり前のように溶け込んでいるんで、ただこういう走り方が好きなんだったら、しまなみに来たら驚くと思う」

「サイクリング」を、共通言語に。

中村知事:
「1つは健康です。1つは友情です。そして1つは生きがいです。これを称して『自転車新文化』と名付けました」

現地のサイクリング協会 マクリーンCEO:
「ハーバーブリッジは美しく、素晴らしい橋です。日本にも似ている素晴らしい橋があります。それが来島海峡大橋です」

今年10月に開催される「サイクリングしまなみ」にも協会のメンバーの参加が決定。交流を深める連携協定を結びました。

中村知事:
「何かのきっかけがあればそこからつながりが生まれて、そしてそれが広がっていくものだと思うんですけど。10何年前にサイクリング、サイクリングと言ったのは、広がりを想定していたから」

その頃、商談会の会場では。県職員らが急ピッチで設営に当たっていました。

ディエゴさん:
「おつかれ」
謝さん:
「お疲れ様です」

ディエゴさん:
「いよいよ本番。ようやく。ちょっと緊張までじゃないけどわくわく」

ディエゴさんと謝さんが到着。

県職員:
「こちらオーストラリアのメディアとか旅行会社さんが座られるので」

商談会ではおよそ50人の観光やメディアの関係者が出席します。

商談会の会場で 愛媛の知名度はほぼゼロ

続々と集まってくる参加者たち。しかし…

旅行関係:
「東京、京都、大阪だけ。他の街は知らない」

旅行関係:
「正直言って、愛媛は知らない」

愛媛の商談会にも関わらず、愛媛の知名度はほぼゼロという状況です。

謝さん:
「この後の商談会では古民家をリノベーションしたホテルの詳細をもっとお伝えできると思います」

ディエゴさん:
「すでに大洲に来てくれた人もいれば『愛媛?は?』みたいな人もいる」

一方中村知事は、プレゼンに向けた最終打ち合わせの真っ最中。

中村知事:
Q話す内容は?
「その場、その場」

何を話すか、直前まで修正を重ねました。

いよいよ商談会がスタート。

中村知事:
「多くの海外からのお客さんを迎えているんですが、オーストラリアのみなさんにはまだまだ知られていません」

プレゼンのトップバッターは中村知事。サイクリングに絞ってPRします。

「しまなみ海道」の紹介をきっかけに、参加者の関心が一気に高まります。

そして、いよいよディエゴさんが登場。持ち時間はわずか10分です。

ディエゴさん:
「古民家は放置されていました。こんな状況で、まさに大洲は“崩壊状態”でした」

良い面も悪い面も、大洲の歩みを率直に伝える。

「そこで、銀行や観光業など様々なメンバーでこのエリアをホテルにしようと立ち上がりました」

そして、いかにして再生したか。最後まで等身大の大洲の魅力を。

ディエゴさん:
「ありがとうございました」(拍手)

喝采に包まれ、プレゼンが終わりました。

つい先ほどまで「愛媛の事を知らない」と話していたこちらの女性。

旅行関係:
「とてもよかった。今すぐに行きたいくらい。もう愛媛の名前は忘れないわ」

旅行雑誌記者:
「とても感銘を受けました。プレゼンのコピーをいただきたいと思います」

旅行関係:
「あなたたちに会えて本当に良かった。次は愛媛、大洲でお会いしましょう」

商談で旅行雑誌による大洲取材が決定、また愛媛ツアーの開催検討など、未来への“種まき”ができました。

謝さん:
「愛媛に来るまでが時間かかりそうというのが今回感じたことですが、いい関係づくりのきっかけになったと思います」

ディエゴさん:
「ゼロから何もないところから始まっているから、ゆっくりと過程を理解した上で大洲まで来てくれる。我々のやってることを理解した上でお客さんを送ってもらう。その方が最終的にはインパクトがあると思う」

ゆっくりでも着実に。ただのブームで終わらせるか、それとも持続させるか。大洲に限らず、今が愛媛の観光の分水嶺なのかもしれません。