道後最大の温泉旅館で“動く広告塔”として50年…型破りなホテルマン、引退の日
愛媛最大の観光地、道後温泉。その道後の地で半世紀にわたりホテルマンとして宿泊客を、道後を愛し続けた一人の男性がいます。型破りな企画を進めてきたホテルマンの最後の日も型破りでした!
1975年創業。124の客室を構える道後最大の温泉旅館、「道後プリンスホテル」。60人あまりの従業員が年間およそ9万人の宿泊客を出迎えています。
道後プリンスホテルの会長河内広志さん、72歳。河内会長と言えば…
時には自らハンドルを握り宿泊客の送迎…
「道後へドウゴ!」
自ら広告塔になり、道後を全国へと発信してきました。ホテルマンとして半世紀、その河内会長が9月末で引退することを決めたのです。
1975年、先代の父・一三さんがこの地にホテルを創業。当時大学生だった河内さんも、卒業と同時に営業担当として入社しました。
河内会長:
「(父から)ホテル名もつけて営業もして集客もして『とにかくお前がやれ』と、最初から代表取締役主任という気持ちで動いていました」
ホテルは、観光客が集まる道後温泉本館から徒歩でおよそ10分。本館周辺の宿泊施設に比べて、決して恵まれた立地とは言えませんでした。
道後プリンスを1人でも多くの人に知ってもらう。そのために河内さんがしたのは出張先でも…飛行機の中でも!ホテル名を書いた法被を着て“動く広告塔”になることでした。
ほかにもユニークな宿泊プランを企画。1993年には、こどもに楽しんでもらおうと…
河内さん:
「1泊2食付きカブトムシ付、宿泊プラン」
1999年に父親からバトンを受け継ぎ、二代目社長に就任。
道後オンセナートでは、アーティストがデザインした客室を複数展開。
中には、アーティストの作品が斬新すぎたのか…
道後プリンス 河内社長:
「泊まるには少し衝撃が強すぎて。着実に日本一稼動の悪い部屋を更新しております(笑)」
これも河内さんにとっては唯一無二のおもしろさ。“お客さんを楽しませたい”という思いで、枠を飛び越えた挑戦を続けてきました。
一方で、経営者としてホテルの売上にも日々向き合います。
取り出したのは、手書きの予約一覧表。週末を中心に、日別で空室の数を記入し、全従業員に配布しています。
河内会長:
「メールってメッセージが伝わりにくく思いません?油性マジックで、カラフルに」
“アナログ”だからこそ熱意が伝わる、河内さん流のやり方です。この手作りの予約表にバツばかりが付いた時期がありました。2020年、新型コロナの感染拡大です。
河内社長:
「私どもでGWは概ね、1日1300万円ぐらい売るんですよ。それがゼロですからね」
この時、館内では、老朽化していた大浴場の改修工事の真っ只中。進む改修工事…いつまで続くか分からないコロナの影響に…いつもだと強気な河内さんも…
河内社長:
「本当に恐怖心、将来の見通しが全く立ちません」
それでも多くの人に笑顔になってほしい、ホテルとして何ができるか向き合い続けました。
河内会長:
「この配置でいいですかね?子どもたちだから、もう少し近いほうがいいかもしれないね。“まくら投げ大会”でありますね。密にならないように会場を広くして子どもたちが温泉旅館の一夜を思い出作りに役立てようと」
Q.旅館公認の?
「そうです、そうです。だって校長先生が賛成くださいましたし」
今年、道後の宿泊客数もコロナ前の同じ水準にまで回復。インバウンド需要も大きく伸びています。
河内会長:
Qこの4年間振り返って
「本当に飛躍的に回復して反転攻勢頑張って、道後のブランド力が高まり、総合力が高まって『にっぽんの温泉100選』で第3位ですからね」
引退を4日後に控えたこの日、河内さんは市長時代から20年以上の付き合いという中村知事に退職の挨拶へ。
中村知事:「これちゃんと(スーツを)着たまま入っている?」
河内会長:「これ染みているでしょ」
国内外へ“道後ブランド”をともに発信してきたといいます。
中村知事:「50年お疲れ様でした」
河内会長:「ありがとうございました」
中村知事:
「自らが動いて自らが接客をし、道後に来てよかったなという空気をつくる経営者だった。先頭に立って(道後のイメージを)180度変えた貢献者じゃないかと」
河内会長:
「感無量です」
Q.その花束は?
「自分で用意しました(笑)映えるでしょ」
自分への花束を自分で準備、河内流さく裂です。
長年、河内さんを見てきた人たちは…
知人:
「やっぱり仕事熱心です。とにかく仕事熱心な人」
河内会長:
「趣味 借金返済。特技 セールス」
知人:
「お疲れ様とは言いたくないですね。まだまだお元気ですから」
そして、迎えたLAST DAY。退職式には、従業員のほか取引先の社長などおよそ180人が駆け付けました。
司会:
「後方入場口にご注目くださいませ」
河内さん、妻・昭子さんとともに登場です!
河内会長:
「本当は辞めたくはなかったんですけども10月1日に我が社は創業50周年を迎えます。50年前の社員から今の社員に至るまで、全ての社員に支えていただいたおかげだと感謝を申し上げます」
と、厳かに進む式典でしたが…これでは河内流じゃありません!
「3・2・1、発射!」
ここからが、企画・河内広志!出演・河内広志の最後のエンターテインメント!
ふたりの餅つきショー。参加者も一緒になって会場は大盛り上がりです。
そして、式もいよいよクライマックス。
河内会長:
「山口百恵さんはマイクを置きましたが、私は人生そのものであった法被を脱がせていただきます」
半世紀にわたるホテルマン人生が幕を閉じました。
河内会長:
Q会長にとってホテルとは?
「我が子です。我が子の成長を50年見てきて、50歳を迎えましたのでもう大丈夫です」
Q少しは休める?
「妻が一緒に幸せになろうよと言っておりますのでしばらくの間は休養をとって、その後第二の人生、私が次に挑戦したいことについて少しずつ進捗させます。退職してこの地を去りますがぜひ皆さま、道後へドウゴお越しくださいませ。お待ちしております」