【特集】廃業・休業相次ぐ「町の銭湯」 “火”を絶やさないために 新たな形「事業承継」 ≪新潟≫
利用客の減少や後継者不足により、街の公衆浴場、いわゆる銭湯の廃業や休業が相次いでいます。
「その火を絶やしてはいけない」
親族ではない、第三者が受け継ぎ再開した銭湯が新潟市にあります。
再オープンまでの道のりに密着しました。
ある人は1日の疲れをとるために……。
またある人は1日の活力を得るために湯船につかります。
ここは新潟市江南区で唯一の銭湯、「小松湯亀田」です。
今は多くのお客さんで賑わっていますが、ことし5月まで休業が続いていました。
ほこりがたまった浴槽にところどころはがれ落ちた天井。
〈『小松湯亀田』オーナー 森山 章さん〉
「当時のまま、まだ手を付けてないので」
小松湯のオーナー、森山章さんです。
前のオーナーが亡くなった後、2022年8月から休業……
森山さんはこの銭湯を購入し、再開することを決めました。
〈『小松湯亀田』オーナー 森山 章さん〉
「これでいいのか悪いのか正解がすべて分からないのでこれから学んでみなさんに教えていただいて」
会社や事業を後継者に引き継ぐ「事業承継」。
利用客の減少や後継者不足により廃業や休業が相次ぐ銭湯などについて国は2023年12月、法を改正。
それまで親族以外が継ぐことが難しかった銭湯も第三者が譲り受けやすくなりました。
〈『小松湯亀田』オーナー 森山 章さん〉
「今後継ぐ方がいないお店がたくさんあると聞いたのでそれで自分がなにか出来ないかなと思って」
勤めていた飲食店を辞め、小松湯を継ぐことを決めた森山さん。
再開に向けて準備が始まりました。
ことし4月。
着々と準備が進められていたこの日、訪ねてきたのは森山さんの幼なじみで新潟市東区で銭湯を営む神田泰三さん。
初めて銭湯の経営に挑戦する森山さんを支えています。
〈新潟市東区で銭湯を経営 神田 泰三さん〉
「長い間、日本の歴史の中にあった銭湯というのはやはりなくしちゃいけないという思いもありますね。だからこういうふうに手をあげて俺がやると言ってくれるとうれしいですよね」
いまでは珍しくなった薪でお湯を沸かすのが特徴の小松湯。
この日、久しぶりに釜に火を入れることになりました。
小松湯の命でもある釜に再び火が入りました。
配管設備の修理など想定外の出費も重なったといいます。
それでも……
再開まで1か月。
眠っていた浴槽に再びお湯が張られました。
〈『小松湯亀田』オーナー 森山 章さん〉
「一番どうなるかが動かしてみないと分からないという状況だったので、それがいま動き始めましたんで。あと掃除してきれいにしてみなさんを迎えられるようにしたいと思います」
事業承継によって再開した銭湯がもうひとつあります。
新潟市西区、内野地区にある「旭湯」。
オーナーの稲森光太郎さんです。
〈『旭湯』 稲森 光太郎さん〉
「ぼくが好きでやっていることでもあるんですけど、みなさんに『ありがとう』って言ってもらえるんでそれは嬉しいですね」
もともと銭湯を巡るのが好きだった稲森さん。
銭湯の文化を絶やしてはいけないと事業承継を決めました。
老朽化が進んでいた浴室は木のぬくもりを感じる空間にリニューアル。
若い世代の客も増えたといいます。
一方で、靴箱はかつてのものをそのまま使うなど、これまでの常連客にも親しまれる作りにしました。
ルールはたったひとつ……入浴の前に体を洗うこと。
稲森さんが大切にしてきた銭湯の文化です。
先日、ひとりの女性が訪れました。
朝妻キヨさん、92歳。
「キヨばあ」の愛称で常連客から親しまれた先代の看板娘です。
いまでも月に1度は姿を見せる「キヨばあ」。
その日にあわせてなじみの常連客など多くの人が訪れるといいます。
〈『キヨばあ』 朝妻キヨさん〉
「番台もそのまま使った古いまま使ってくれて。私も会いたいんだ。だいたいしゃべっちょなんだがね」
銭湯をきっかけに広がってきた笑顔の輪……。
この日も「キヨばあ」の周りから人が絶えることはありませんでした。
煙突から立ち上る煙がこの日を知らせます。
新潟市江南区の「小松湯」。5月15日、約2年ぶりに再開しました。
〈『小松湯亀田』オーナー 森山 章さん〉
「一応お電話は何件かいただいていたので、来られる方はいるかと思いますけど」
浴槽など以前のまま使える部分はそのままに、脱衣所などは新しくしました。
番台も昔ながらの形に。
新しい看板娘となる番頭さん……。森山さんの娘、百香さんです。
〈百香さん〉
「もともと介護の仕事をしていたんですけどそこを辞めてしまって仕事をどうしようか考えているときに父から声がかかって。私は銭湯なんてあまり行ったことないので新しい挑戦だなと思って」
午前10時のオープンに合わせてこの日を待ちわびた人たちが続々とやってきました。
〈『小松湯亀田』オーナー 森山 章さん〉
「みなさん来ていただいてうれしいです」
薪で沸かすお湯は少し熱め。
それをお客さんが水で薄めることで小松湯のお湯は完成します。
〈銭湯ファン〉
「これをきっかけにまた銭湯が復活してくれることを祈って応援を続けていきたいと思っています」
かつて住居だった部分は広い休憩スペースにリニューアルしました。
飲食店で働いていた経験を生かし、森山さんが始めたことがあります。
それが、焼き鳥の販売です。
〈『小松湯亀田』オーナー 森山 章さん〉
「銭湯のお客さんの数だけですとまだまだ売り上げが足りないのでこういったイートインスペースでみなさんにお風呂に入った後に楽しんでいただこうかなと思って」
再開から1か月もすると徐々にかつての常連客も戻ってきました。
<30年来の常連>
「寂しかったね。2年間ね」
「待ってました。最高ですよ。バンザイした」
かつての姿を残しつつ多くの人に愛される銭湯に……模索しながらのスタートです。
〈『小松湯亀田』オーナー 森山 章さん〉
「ここからがスタートなんでひとつひとつみなさんと作り上げたいと思います」
その「火」を絶やさないように。
日本の銭湯文化は新たな形で受け継がれていきます。