【特集】猛暑と闘うコメづくりの救世主となるか!? “暑さに強いコシヒカリ”の開発と「新之助」 《新潟》
「1等米でなくてもおいしい」
県内各地でそうPRされる県産米。しかし今後、規格外となってしまったら・・・。
危機感を持つ生産者の中には、暑さに強いコメの誕生を待ち望む声もあります。
米どころ・新潟は、いま新たな局面に立たされています。
それは生産者の努力の結晶・・・。
倉庫は今、ことしの新米が山積みとなっています。最も多いのがコシヒカリです。
【ながおか西営農センター遠藤 浩司 課長】
「3等ですね~、やっぱり心白とか背白という症状が多いですし」
県産のコシヒカリは、平年75%が見た目の品質が良いとされる1等米です。
しかし、県によるとことしは10月15日現在でわずか4%。過去に例がない数字だといいます。
◆猛暑に悲鳴をあげる生産者
その原因は県内を襲った記録的な暑さ。
10月18日に開かれた県稲作経営者会議では、集まった生産者から会議で悲鳴が・・・。
【ナーセリー上野 上野 喜代一 社長】
「大変なんてもんじゃなくて、暑いからもう少し追肥してと言っているけど、あんな暑い時に道具を担いで田んぼの所に出て やるというのは、また至難の業だし」
【ファームフレッシュ ヤマザキ山崎 哲志 取締役】
「水を田んぼに入れようとしても 入れる水がないので、そのケアが正直何もできない状態なので、こうなってしまうとどうしようもないのかなと」
暑さに弱いコシヒカリの未来を懸念する声も・・・
【北陸農政局 河合 亮子 次長】
「この先、地球が温暖化していったときにどうなるのかっていう、もう少し暑さに強い品種に変えていく必要があるのではないか一番大きく考えられることです」
異常な天候に揺れるコメ王国・新潟・・・。
これから一体、どうすればいいのでしょうか。
訪ねたのは9月の南魚沼市。
塩沢地区でコシヒカリ一筋40年。コメ農家の小林利栄さんです。
この土地のコシヒカリが美味しい理由・・・それは、山々から流れ出す冷たく清らかな水。
そして、昼夜の寒暖差です。
しかし、ことしは・・・。
【コメ農家 小林利栄さん】
「ことしはだめかな。3等にもなればいいかな」
頭を悩ませたのは猛暑と水不足でした。
一緒にコメ作りをしている二男の昌史さんと長女の奈津子さんです。
【昌史さん・奈津子さん】
「ずっと降らんかったもんね雨。20~30分ぱらぱらっと降ったかなくらいがたまにあったかなくらいで…」
これまで1等米が当たり前でしたがことしは1等米はなく2等か3等に・・・。
おいしさに変わりはありませんが見た目の品質が落ちたことでその分収入が減る見込みです。
◆暑さに強いコシヒカリの開発
利栄さんを訪ねてきた人がいました。
新潟大学の三ツ井敏明教授です。
利栄さんが育てている“あるコメ”を受け取りに来ました。
それは・・・ことし9月に名前が発表されたばかりの「新大コシヒカリ」です。
暑さに強いコシヒカリとして開発が進められてきました。
もともとコシヒカリは暑さに弱い品種。
「新大コシヒカリ」はそこに突然変異をさせることで暑さに強い性質を持たせています。
三ツ井教授はいまことしの稲を分析している最中だといいます。
【新潟大学 三ツ井敏明教授】
「まあ厳しいことも厳しいですし、先日言いましたように1等という言い方はちょっとあれなんで、いいやつも出ている…まあ信じられない暑さだった」
想定外の暑さに厳しさもにじませていました。
それでも利栄さんは暑さに強いとされる新しいコシヒカリに期待を寄せています。
暑さに強いコシヒカリは県も独自の開発を進めています。
中で行われていたのは「交配」の実験・・・。
コシヒカリと暑さに強い品種を掛け合わせて新しいコシヒカリを作ろうというのです。
今年始まったばかりの研究です。
モミの中にある雄しべの部分を切り取った上で別の品種の花粉を一粒ずつくっつけたり、一気に振りかけたりと様々な交配の方法を試していました。
そうしてできたイネの遺伝子を解析して暑さに強い性質があるかを調べます。
【県農業総合研究所 岩津 雅和 育種科長】
「やはり新潟県のトップブランド米がコシヒカリです。我々がもうひと踏ん張りすることで、この先もコシヒカリを皆さんから大事にしていただければと思っています」
県は暑さに強いコシヒカリとなり得る候補を2027年までにそろえたいと話しています。
◆猛暑でも健闘したコメ「新之助」
一方、ことし、一等米比率が下がらなかったコメがあります。
2017年に一般販売が始まった「新之助」です。
4分の1はコシヒカリの遺伝子を受け継ぐものの収穫の時期が遅い晩生の品種として開発されました。
10月19日の品質検査では暑さに強いとされる「新之助」の特性が結果に表れていました。
【JAえちご中越ながおか西営農センター 遠藤 浩司 課長】
「コシヒカリに比べるとだいぶ透明感もありますし、整粒が多いので、おおむね1等かなというところで見ています。新之助だからこのぐらいで済んだのかなという被害度合いもありますし、例年だともうちょっとすっきりしてるんですけど、ここまで持つということは大したもんだなと感じています」
袋に押された「1等米」の印。
県によると10月15日現在で、「新之助」の一等米比率は95%と平年並みの高い割合となっています。
これから暑さとどう戦っていくのか・・・。
10月30日、県が開いた研究会の初会合。
なぜ、コシヒカリの1等米比率は下がったのか・・・専門家や農業団体などが集まり分析しました。
【新潟大学理学部 本田 明治 教授】
「新潟は気温が全国最高。降水量は全国最少。日照時間も全国で一番多かった。あまり嬉しくないかもしれませんが“気象の三冠王”をとってしまった」
県内は、ことし8月の平均気温が30.6度で、富山県と並び全国一位でした。(平年は26.5度)
また、降水量は全国最少、日照時間は全国最多で、さらに、海水温も全国で一番高かったといいます。
【新潟県農林水産部 神部 淳 技監】
「私、子どもの頃から覚えていたんですが照り年(ひでり)に不作なしと言われていたのがあれ?この結果かと昔の格言は現代には通用しないのかという思いもある」
そうした中、健闘した新之助に活路を見出す意見も・・・。
【新潟大学農学部山崎 将紀 教授】
「新之助の現在(1等米比率が)95%はある意味高すぎるのではと、びっくりするぐらい強くてすごいなと思っている」
【農研機構中日本農業研究センター 石丸 努 上級研究員】
「新之助は90%を超えている。今後の新潟の高品質米を考える時に大きなヒントを与えてくれるのではないか」
南魚沼市の小林利栄さんです。
おいしいコシヒカリを全国に届けたい。
そんな思いでこの一年、コメ作りに心血を注いできました。
それでも、この夏の暑さと水不足は手の施しようがありませんでした。
【コメ農家 小林利栄さん】
「高温に強いのを作れ作れってやってるみたいだよね。毎年これなら本当に大変だよね。 コメも参る。人間も参っちゃうよ」
安心してコメ作りができる時代は再びやってくるのか・・・。
新たなコメの誕生に期待が集まっています。