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【特集】増えるクマ被害 新潟県内のクマ出没件数は2倍に 対策に追われる山間の集落は 《新潟》

2023年11月18日 10:21
【特集】増えるクマ被害 新潟県内のクマ出没件数は2倍に 対策に追われる山間の集落は 《新潟》

新潟県内で今年度のツキノワグマの目撃情報はすでに昨年度のおよそ2倍の件数になっています。
なぜクマが人里に現れるのか、対策に追われる阿賀町を取材しました。

11月1日、午前8時半の阿賀町鹿瀬支所。
始業時間を迎えるやいなや電話が入ります。車で走行中にクマと接触したという住民からの連絡でした。
有害鳥獣係には、いまクマに関連する情報が毎日のように寄せられます。

ここで鳥獣被害対策専門員として働く江花一実さん。ハンターとしても40年にわたり活動しているクマ対策のプロフェッショナルです。

阿賀町鳥獣被害対策専門員 江花一実さん
「(さっきの電話は)国道のこういうところを横断した。この辺で餌を探しているということは、山に餌がないので里の近くに寄ってきている」

ことし、県内ではクマの目撃情報が相次いでいます。
今年度の件数はすでに昨年度のおよそ2倍。各地でけが人も出ています。
県は「クマ出没特別警報」を出し、11月末にかけて警戒を呼び掛けています。

集落のあちこちにクマの形跡 そこから分かることとは?

阿賀町の目撃情報はことし10月末までに132件。昨年度の3倍にのぼります。
特に、山と集落が隣り合うエリアにクマが出没しています。
その場所に案内してもらいました。

阿賀町鳥獣被害対策専門員 江花一実さん
「クマです。これはかなり大きいですね。1週間以上前の足跡なんで広がっていますけど、14センチ、100キロは超えている。体長1.3メートル以上」

近くにはクルミや柿の木があり、それらを求めて集落の近くにやってきているとみられます。

江花さん
「クルミを食べておなか一杯になって、これは走ったのではなくて、ゆっくり歩いてこの林に入っていって、休んでまた食べに行ったりするという行動パターン」

さらに、柿の木にはこんな形跡もありました。

江花さん
「傷跡が開いているので数年前のものだけど、これは新しい、ことしのもの。何年も前の跡とことしの跡なので、何世代にもわたって利用している。餌場になっている」

親グマから子グマへと餌場となる柿の木が引き継がれているというのです。

近くの民家に住む人は・・・

近隣住民
「クルミ拾いだって危険手当もらわないとだめだ。うちも柿食べたいんで、全部切ったとして食べるのがなくなる」

クマが頻繁に現われるこの場所にはある特徴があるといいます。

江花さん
「人の手が入らなくなってやぶが近づいてきますと、クマが接近しやすくなり、よりクマも利用しやすくなる。ここは人が作ったレストランのような場所で、クマにとっては非常に良い」

なぜ、クマが人里に下りてくるようになっているのかー
長岡技術科学大学で野生動物の生態を研究する山本麻希准教授は次のように指摘します。

長岡技術科学大学 山本麻希准教授
「人間が山に入らなくなった、あるいは中山間地の農地が非常に荒廃していて、耕作放棄地が増えている。最近は人もいなくて手も入らなくてとなれば、動物が人に会うことなく山からおりてこられる。そういう社会的な環境もある」

さらに、クマの餌となるブナやナラの実は数年の周期で豊作と凶作を繰り返しています。
ブナの実が凶作になった2020年はクマの目撃件数が過去最多となりました。ことしはそれ以来の凶作となっています。

長岡技術科学大学 山本麻希准教授
「毎回、集落近くの柿とかを求めてしょっちゅう集落におりるという体験をしてしまった。そこで、クマと言うのは学習力が高い動物ですから、人里におりるとおいしいものがあると学習します」

人の手が入らなくなった里山や農地ーそんな環境がクマの生態に影響を及ぼしているというのです。

クマに襲われ10日間入院した男性はー

阿賀町新谷に住む安宅 一茂さんです。10月19日の夜クマに襲われました。
駐車場から自宅に向かって歩いていたときのことだったといいます。

安宅さん
「この辺でガサっと音がしたので見たら、あっという間に目の前に来ていたので、まさかクマだとは…サルかと思った。油断」

クマは柿の木に登っていたとみられ、安宅さんは10日間の入院が必要となるほどの大けがを負いました。

安宅さん
「顔を引っかかれて、背中からこの辺を引っかかれた。それ以上やられたら命がなかったかもしれない。クマが出たというニュースを聞いてもほぼ他人事のように見ていたので、まさかわが身にふりかかるとは夢にも思わなかった」

対策に追われる阿賀町の集落

安宅さんの被害を受けて、新谷地区はクマの餌となる果樹の伐採を始めました。
この日は、青年会のメンバーなどが作業にあたります。
高く伸びた木の伐採は大人10人がかりでも骨の折れる作業です。電線に影響しないように慎重に切っていきます。

木の持ち主は…

木の持ち主
「あれも柿の木。こないだここにクマ登った。ついでに切ってもらおうかな。ちょこちょこ出るのは最近だよね、10年前はそんなに出ていなかった」

新谷地区はこれまでに20本ほどの果樹を伐採してきましたが、空き家が増える中、持ち主の分からない木の対応に困っているといいます。

新谷地区の区長
「安心して出歩きたいから住めばいいところなんだけど」

長期的視点で対策必要

山本准教授は、クマが暮らしている森にも手を入れていく必要があると話します。

長岡技術科学大学 山本麻希准教授
「長期的な視点からいえば、人間が手を入れなくなったことで老木化し、ナラ枯れと言う病気が流行ったという背景がありますので、やはり里山にしっかり手を入れて、生物多様性がしっかり保たれた森を作っていくということ、クマが本来の生態系で山の中で暮らせるような状態に戻すということも重要」

「クマはどこにでもいるもの」意識変化が必要

阿賀町の鳥獣被害対策専門員・江花さんです。
この日、仕掛けたおりを確認します。民家近くの林にクマがすみついているといいます。

江花さん
「捕獲にばかり頼りたくないし、手間もかかる。捕獲よりも原因を除去するのがいいが、畑をなくすわけにいかない」

人手不足に空き家問題、耕作放棄地ークマの出没には人口減少という課題が密接に関わっています。

江花さん
「いままでは、一人ひとり、一軒一軒の個人の管理・営みでできていたのができなくなっている時代。“クマは山にいるもの”という意識だったところが、いまは、“クマはどこにでもいるもの”と意識を変えていかないとだめな時代」

人里近くにすむクマとどのように向きうべきかー過疎化が進む山あいの集落は頭を悩ませています。