【特集】母娘でつなぐ 180年続く酒蔵 災害、家族との別れ、蔵に受け継がれる思い 《新潟》
災害、そして家族との別れ・・・多くの困難を乗り越えたその蔵に受け継がれる思いに迫りました。
■酒蔵への想い
歴史ある酒蔵に紡がれる思い。伝統を受け継ごうと懸命に生きた三女。
心を一つに、その意思をいま、つないで・・・。
長岡市摂田屋にある長谷川酒造です。
<長谷川祐子さん>
「ここが長谷川酒造の蔵の中でも一番大事な、仕込みも貯蔵もするというところですね」
長谷川祐子さん。蔵の営業を担当しています。
蔵を切り盛りする母・葉子さんから蔵の経営や酒造りの心構えを学んでいました。いまは横浜で暮らす祐子さん。母のあとを継ぐことを決意し、月に数回、長岡を訪れています。
<長谷川葉子さん>
「麹の香りが立つね。香り良いです。色もОKです。せっかく作ってくれた技術やお酒を最終的にお客様の口に入っていくときにここが一番大事なところなのね。ここでとにかくしっかりとしたものをつくってそしてお客様に渡すと」
祐子さんが蔵を継ごうと決心したのは母のため、そして今は亡き妹の遺志を残すためでもありました。
創業当初から大切にしてきたのは「手作業にこだわった酒造り」。精米したコメは傷つけないように手洗い。麹づくりをはじめ全ての工程で人の手をかけていきます。小さな蔵だからこそ目が届く、我が子を育てるような酒造りをしてきました。
母・葉子さんが蔵を継いだのは今から28年前。
別の業界で仕事をはじめた夫に代わり経営を担うことに。長女・祐子さん、次女・聡子さん、三女・幸子さん。3人の子育てをしながら懸命に仕事を覚えました。
<長谷川葉子さん>
「やり始めてからあまりの大変さとかそういったものに直面して、辛いかな、きついかなみたいな感じでやっておりました」
しかし、日本酒の需要が年々減り経営が厳しくなる中、災害が蔵を襲います。2004年の中越地震です。貯蔵蔵を含む3棟が倒壊。蔵の再建に取り組むものの、売り上げは思うように回復せず、3人の娘にメールを送りました。
『そろそろ(酒蔵を)やめようと思う・・』引退を決意した葉子さん。その時・・・。
「私が継ぐ」。手を挙げたのは当時アメリカにいた三女の幸子さんでした。
<長谷川葉子さん>
「時差があるのにすごい時間に『私がとにかく帰るから。一緒にやるからやめるの待って』そう言ってくれたので」
決意を固めた三女の幸子さん。その思いに応えるように、長女の祐子さん、次女の聡子さんも蔵の経営を手伝うようになりました。
三女・幸子さんは海外に一人で売り込みに行くことも。娘たちの協力で売り上げは次第に回復・・・。
◆突然の家族との別れ
三女・幸子さんが出産のあと、亡くなったのです。29歳の若さでした。
大きな喪失感の中、再び仕事に向き合う日々が続きました。
ある時、祐子さんはこの蔵や守りつないできた人たちの歴史を調べ、自らを見つめなおす機会がありました。
そこで改めて知った蔵の伝統の深さと多くの人たちの思い・・・。災害、そして妹の死、困難はあっても長女としてあとを継ぐ決意を固めていきました。
<長谷川祐子さん>
「つなげてきたことが今にあると思いますので、簡単にやめるとかやめないという問題じゃなく、一歩一歩続けていくことが大事だなと身に染みて感じています。本来、3姉妹の長女の私がやるべきところを、三女がやるぞという気力を私にくれたと思っています。二女がそれをサポートしてくれる、1人じゃできないところをやってくれる手助けをしてくれています。3人で継いでいくというか」
<長谷川聡子さん>
「少しでも姉をバックアップできるように、私はこの中でできることを精一杯やっていきたいなと思います」
長女として自らが蔵をつないでいこうと心を決めた祐子さん。さらにその先に思いは繋がろうとしています。
◆次世代へつなぐ未来
東京・世田谷区。彼女の名前は長谷川璃子さん。長女・祐子さんの娘です。
現在、東京農業大学に通う4年生。幼い頃から身近だった酒造りに自然と興味を抱くようになり「醸造科学科」を受験。いまは酵母の研究をし、甘酒の商品開発も行っています。
<長谷川璃子さん>
「いまは作った甘酒を研究室の人たちに評価してもらうために試飲として用意しています」
Q)今回の自信のほどはどうでしょう?
「今回は結構よかったんじゃないかなってすごい思っていて・・・おいしい・・・!」
<長谷川璃子さん>
「小さいころからずっと見てきたことでもあるし、親もやっているというので自然と興味は湧いてきて。実際に実験とかでやるにつれて楽しいってすごく思ったので、こういうことやりたいんだなって実感しました。強制的じゃなくて自ら、楽しいが一番強いです」
蔵に紡がれてきた心は璃子さんにも受け継がれていました。
ことし10月、長岡市摂田屋で発酵の文化をアピールしようと行われたイベント。
長谷川酒造も参加して日本酒や酒粕を使ったおつまみをふるまいました。
<来場者>
「そう、毎年この日を楽しみに」
「特にこっちの大吟醸おいしい。おいしかったです、おかわりしようかなって迷っている!」
<来場者>
「おかわりしなよ~」
県内外から多くの人が訪れにぎやかな雰囲気に包まれた蔵。そこにいたのは・・・祐子さんの娘・璃子さんです。祖母と母の手伝いをしに東京から長岡まで駆けつけました。
<長谷川璃子さん>
「多くの人に知られていると感じて、私も色々な人にお酒を紹介できたらと思いました」
歴史をつないで未来へ・・・。
<長谷川祐子さん>
「今ある姿をまず残していくこと、お酒についてはより一層進歩して皆さんにおいしいって言っていただけるように日々努力かなと。それを私は多くの人に発信していける立場になれたらと思います」
長岡市・摂田屋でつながれてきた伝統。
小さな蔵で紡がれてきた大きな思いは、これからも結ばれていきます。