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【特集】湧水のまち大槌町の今 自然再生の拠点に 岩手

2024年8月1日 18:44
【特集】湧水のまち大槌町の今 自然再生の拠点に 岩手

 津波で大きな被害を受けた大槌町は古くから湧き水、「湧水(ゆうすい)のまち」として知られてきました。震災で失ったもの。新たに生まれたもの。水とともに新たな価値づくりが進む大槌町の今を取材しました。

「湧水(ゆうすい)のまち」としても知られる大槌町。町内のあちこちに湧き出る良質な水は人々の生活や自然環境に欠かせないものでした。

震災から13年。かさ上げされた大槌の町では多くの湧き水が埋められました。ですが、新たに生まれたものもあります。

豊富な湧水からなる源水川(げんすいがわ)。年間を通して水温、水質が安定しているため、清流を好む"イトヨ"が生息することで知られています。

臼澤さん
「津波でここは壊滅状態になりました。災害廃棄物が流れ込み見る影なかった 。その中で2011年5月イトヨの生息が確認された。自然の底力をここ源水川を通じて感じ取った」

地元・大槌町の臼澤良一さん。自然保護の活動や環境学習を通じて、生態系の保護を訴えています。

臼澤さん
「山々のおかげでこのようなきれいな水が出来て、その水を命の糧にしてイトヨがここに生息している」

大槌湾に注ぐ2つの川、大槌川と小鎚川。そして城山の沢。これらの伏流水は地中深くに染みこみ下流域へ。そこに海側の圧力が加わり、河口付近の扇状地に湧き出ています。

臼澤さん
「大槌川のイオン、小槌川のイオンは若干違う。ましてや城山の水も異なっている。それらが中洲に集まって豊かな水脈を形成している」

震災前の町方地区にはこれだけの井戸がありました。生活用水はもちろん、水産加工や酒造など生産業にも欠かせないものに。自然の恵み"湧水"は、環境だけでなく人々の暮らしをも支え続けてきたのです。

区画整理が終わった町方エリアには、震災前の名残が…。かさ上げ前の高さに残された水舟(キッツ)です。

臼澤さん
「大槌の言葉でキッツという、これが駅までの10数個あった。右にあったり左にあったり。日常の生活の場として洗濯をしたり…1日何回も使うから嫁姑の話をしたり孫の自慢をしたり。コミュケーションの場でもあった」

震災直後、住宅があった場所では、こんこんと湧水が溢れ出ていました。しかし、この風景はもう見ることはできません。

そうした中、唯一、当時の形を残すキッツがありました。

臼澤さん
「水温測ってみます。16℃。冷たいですね?」
「こういうものが残っている、歴史を感じます。これは財産。湧水で生活して歴史があるのだから、これは残してほしいです。ここがあるから当時が思い出されるんじゃないですかね」

 多くを失った大槌の町ですが、震災後、新たに誕生した場所があります。大槌駅南側に位置する「郷土財活用湧水エリア」。湧水で出来た湿地帯を公園として整備。ここでは、震災後、準絶命危惧種である「ミズアオイ」、そして淡水型の「イトヨ」と遡上型の「イトヨ」の交雑種が発見され、その保護と研究が行われています。

臼澤さん
「地中に埋まっていた(ミズオアイ)種を津波が掘り返した。そして芽をつけた。本当の偶然。震災で多くのものを失いました。だけど新たに生まれた財産。これは大槌にとって大変素晴らしいこと」

臼澤さんはこの場所がビオトープ、自然再生の拠点になればと考えています。

臼澤さん
「ここのエリアを通じて自然再生をやりたい。日本ビオトープ協会の先生たちも含め世界から注目をされている。震災を新たな財産が出来たことを呼びかけ発信していきたい」

 人々の生活と自然を育む大槌の水。新たな財産が生まれ、未来が広がっています。