【伝えたい「父の教え」】東日本大震災で不明となった父の遺志継ぎ空手道場再開 大槌町の女性の思い
東日本大震災で大きな被害を受けた岩手県大槌町にある道場で、父の遺志を継ぎ子どもたちに空手を指導している女性がいます。伝えたいこととは…。
大槌町で子どもたちに空手を指導している綱取佐穂子(さほこ)さん。震災前に町内で空手道場を開いていた父・新市(しんいち)さんの影響で小学1年生から伝統空手を始めました。
綱取さん
「うちの父もどちらかというと技というよりは体力やメンタル面を強くさせたい気持ちが強い人だったので、その意志は繋ぎたいと思っています」
沿岸にしては珍しいまとまった雪が積もったこの日。
綱取さん
「あの椿の木がある所がお墓です。月命日は必ず、最初はどこか受け入れられなくて行けなかった まだ見つかってないからですかね やっぱり」
綱取さんの父・新市さんは、設計士として働きながら1974年に道場を立ち上げ、町の子どもたちに空手を教えていました。しかし、東日本大震災の津波で道場は流され、骨組みだけの姿となり、新市さんは避難の誘導をしていた姿を見かけたという情報を最後に消息を絶ちました。
綱取さん
「どこかで暖かい所で釣りでもしながらいるんじゃないかなと思うんですけど、本当のわずかな希望ですけど」
「ここです。ここが元自宅兼道場 ここ!ここが...」
かつては道場に通う子どもたちの声が響いていた場所も震災から13年経ち、風景が一変してしまいました。それでも綱取さんは「空手」を続けることが父に報いることになるのではと、震災後わずか1か月後に道場を再開しました。
綱取さん
「子どもたちに救われている感じはあります。やっていて大変ですけど言うこと聞かないし、上手に成長した姿を見るとうれしくなります」
月曜と金曜の週2回開かれる空手教室「新風館(しんぷうかん)」には、町内の小学1年生から中学3年生まで男女20人ほどが通っています。中には県大会で上位入賞する実力の持ち主もいます。
道場に通う子ども
「声をおおきくしゃべる。気合を大きく言う」
「構えの立ち方とか技の速さとか色々なところがお手本になって」
「私は他の道場に行ってるから分かるけどさほこ先生は下の学年も考えているからやさしい」
「まずは先生をボコボコにしてから世界大会、全国大会に出たいです」
綱取さん
「一人一人の性格に合った教え方は出来ればいいなと思っています。空手が好きと言ってもらえるように自分なりに教えていけたらいいなと思います」
震災直後から再開した道場は今年で50年を迎えました。綱取さんは「技よりも体や精神を強く」という父の教えを生徒に伝えます。
綱取さん
「(Q綱取さんにとって父は?)何かを言ってくれるわけではないがいるだけで勇気づけられる。何かアドバイスしなくてもただいるだけで安心できる感じです」
父のような存在を目指し、子どもたちの心と身体を鍛える環境づくりを綱取さんは空手を通して続けていきます。