【開店準備】ふるさと陸前高田にイタリア料理店 東日本大震災で亡くなった父との思い出胸に
東日本大震災の被災地のいまを伝える「海街リポート」です。首都圏の名店で修業したイタリア料理のシェフが、ことし5月、ふるさと陸前高田市に店を開きます。いまは亡き大切な人との思い出を胸に準備を進めています。
陸前高田市出身のイタリア料理のシェフ、菅原 和麻さん、36歳です。高校を卒業後、首都圏の名店などで修業を重ねた菅原さんは、数年前地元に戻りました。ことし5月、ふるさとに念願の店をオープンします。
菅原 和麻さん
「物心ついたときからコックさんになりたいって言っていたらしくて、そのまま大人になったってかんじなんですけど。(強みは)飽きないところですかね。20年以上ずっと料理やってますけど、まだやっぱり作るの楽しいですし」
この日は施設を借りて料理を試作しました。
「岩手県産の鶏もも肉のロートロという手法なんですけど、鶏肉を巻いて、ジューシーに焼き上げると言った手法のお肉です。ソースは地元のですねファーム小金山さんが作っている黄金生姜シロップとマスタードを使って」
まるでアートのような一皿は「岩手県産鶏もも肉のロートロさつまいものマッシュポテト添え黄金生姜マスタードソース」です。
江口アミ
「やわらかい。鶏肉がとってもジューシーです。陸前高田のショウガがピリッとアクセントになっていて爽やかにいただけます」
ふるさとに店を開きたい。そう決意したのは14年前、首都圏のレストランで働いていた22歳の時でした。
菅原和麻さん
「ちょうどテレビのニュースを見てたんですけど、映像、実家が流れている映像が見えたので、ちょっとこれはただ事じゃないなということで」
市内の中心部、海まで1キロほどのところにあった菅原さんの実家は、津波で跡形もなく流されました。
菅原和麻さん
「父親と兄が消防団に入っておりまして、避難誘導の際に2人とものまれたということで、兄はなんとか一命をとりとめて病院にいるという情報を得たんですけれど」
父親の和好さん(当時61)は、市民を守ろうとして、帰らぬ人となりました。子どものころから和好さんにごはんを作ると、いつも「おいしいおいしい」とほめてくれて、料理人になろうと思いました。
「かなりあのころからは料理の腕は上がっているので、まあ可能であれば作ってあげたいなとは思いますね」
父と過ごした思い出の残るふるさとを盛り上げるような、立派な料理人になりたい。震災後そう考えた菅原さん。高校時代から憧れていた有名シェフに弟子入りして腕を磨き、毎日満席状態の人気店で料理長を務めるまでになりました。
料理に打ち込みすぎた影響で体重が10キロ減るなど、一時体調を崩してしまいましたが、ふるさとに戻ってからは、友人たちに励まされ元気を取り戻しました。
自分と同じように陸前高田を盛り上げようとする人との出会いもありました。陸前高田市内にあるブドウ畑です。
菅原 和麻さん
「ブドウを作ってらっしゃる及川恭平さんです。ワインを作っている方なんですけれど」
及川さんは、高校生の時に起きた震災をきっかけに、ふるさとに根を張る新しい産業をつくろうと、ほぼ1人で畑を開墾し、4年前、当時、国内最年少の27歳でワイナリーを創業しました。創業して最初のワインがもうすぐできる予定で、菅原さんは店で提供したいと考えています。
及川恭平さん
「(菅原さんは)陸前高田の新たな風になっていただけるのかなと、陸前高田出身ということもあって陸前高田の食材の使い方も熟知していらっしゃるのですごく期待しています」
心強い仲間とともに一歩を踏み出します
菅原さんはこの日、プレハブの建物を訪れました。入ってすぐの産直施設を通りすぎて、2階に上がります。ここは震災後、津波で被害を受けた商店などが、再起をはかるための仮設店舗として使ってきた建物です。2階には少し前まで蕎麦店がありました。
菅原 和麻さん
「まだこういうのが残っているんですけど、オープンの際にはこの辺は多分火口になってくると思うんですけど。みなさんが一歩ずつステップアップしていまは立派に店を構えてやってらっしゃいますので、ぼくもそれにならって一歩ずつ、プレハブからスタートして、立派なお店を構えられるように頑張っていけたらと思います」
近くの工場で働きながら貯めた開店資金と、挑戦を応援してくれる全国の人からの寄付を受け、プレハブをおしゃれなイタリア料理店に作り替えます。5月に店を開いたら、まず、気軽に楽しめるパスタをメインに提供します。
菅原 和麻さん
「最近出始めの岩手県産の生わかめ、こちらとあと地だこです。地元の食材をイタリア風にアレンジじゃなく、イタリアだったらどのような料理になっていただろうなっていうようなコンセプトをもとに、地元の食材をアピールできるようなお店になればなと考えていました。」
父親がおいしいと微笑んでくれたように、早くお客さんの笑顔がみたい。店のオープンまであと3か月ほど。菅原さんは夢に向かって腕をふるいます。