【独自解説】「これまで通りの活動ができなくなる可能性も」宝塚歌劇団に労基署が立ち入り調査 一方、遺族側が劇団との面談内容公表「第三者委員会設置予定はない」
宝塚歌劇団の劇団員が死亡した問題を巡り、対立を続ける劇団側と遺族側。11月24日に両者の間で“面談交渉”が行われ、その結果を遺族側が公表しました。その2日前には、劇団に労働基準監督署が「立ち入り調査」。それが意味することとは?亀井正貴弁護士の解説です。
「答えたくないで済まされない」劇団に労働基準監督署が立ち入り調査
11月22日、兵庫・西宮労働基準監督署が、労働基準法などに基づき、総務担当者から聞き取りを行うために劇団に立ち入り調査を行いました。“調査”する監督官は、“厚生労働省職員”で逮捕状を請求できる“特別司法警察職員”だということで、法令違反があれば是正勧告を行い、悪質なケースでは検察庁へ事件送致することもできるということです。読売テレビの高岡達之特別解説委員によると「労基署の調査は、答えたくないで済まされない」ということで、亀井正貴弁護士は「法令違反“認定”となると劇団は、これまで通りの活動ができなくなる可能性もある」といいます。
労働基準監督署は厚労省の第一線機関で、全国に321署あり、監督課・安全衛生課・労災課・業務課で構成されています。今回調査を行った「監督課」の役割は、労働基準法などに基づき監督官が立ち入り検査して、関係労働者の労働条件に法違反が認められた場合、事業主などに対し是正を指導するというものです。そして、法違反の是正が行われない場合は、「刑事事件」として取調べなどの任意捜査や差押え・逮捕などの強制捜査を行い、検察庁に送検できるということです。
宝塚歌劇団は、2021年9月にも西宮労働基準監督署から是正勧告を受けているということです。歌劇団の文章による回答によりますと、「1日の所定労働時間8時間の専門業務型裁量労働制を採用する演出助手に対し、休日労働などに関する指摘を受け、是正を行いました。詳細は差し控えさせていただきます」ということです。専門業務型裁量労働制とは、「大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務の場合、労使間であらかじめ定めた時間を働いたとみなす制度で、舞台プロデューサー・デザイナー・ディレクターなど19業務が対象となっています。
Q. 労働基準監督署が調査で企業や団体に入るということは何を意味するのでしょう?
(亀井正貴弁護士)
「その企業・団体が労働問題について、労働基準法に違反している怖れがあるということで入ります」
Q.逮捕もできるということですが?
(亀井弁護士)
「警察官だけではなく、例えば麻薬取締官なども逮捕できますが、同じように刑事手続きをすすめられます」
Q.調査はどのように進められるのでしょうか?
(亀井弁護士)
「調査は徹底的に行います。そして、労働基準法違反だと認定されますと今回死亡した女性だけではなく全劇団員に適応されますので、過剰労働はできなくなりますし、団員が労働認定されると賃金も時間外などは割り増し賃金を払わなければいけなくなりますので、非常に影響は大きいと思います」
Q.今回の「立ち入り調査」というのは、大変大きいことなんですね?
(亀井弁護士)
「労働基準監督署は、『行政指導』から入って『是正勧告』へというふうに段々強い対応になって行きます。『立ち入り調査』は、より強い対応になって行っているということで、もっと違法性が強かったり、ちゃんとした対応をしない場合、次は『捜査』ということになります」
「第三者委員会を設置する予定はない」遺族側、阪急・宝塚歌劇団側との面談内容を公表
11月14日、宝塚側の調査委員会による調査結果が発表されました。調査委員会は、宙組劇団員62人や元劇団員1人、阪急電鉄から4人、理事長を含め劇団役員7人と遺族などからヒアリングを行ったということですが、劇団員のうち4人はヒアリングを辞退したということで、その理由は差し控えるということでした。報告の内容は、過重労働は一部認めるものの、いじめやパワハラは確認できなかった、というもので、遺族側は調査のやりなおしを主張しています。
阪急阪神HDの幹部によりますと、この調査とは別に11月20日から劇団の組織的問題の改善を目的として、宙組以外の全劇団員と音楽学校の生徒、合わせて400人以上から聞き取りをはじめているということです。
遺族側弁護士の文章によると、「劇団幹部がヒアリングを実施すると、劇団員が安心して事実を述べることが困難」だとしています。
劇団は、聞き取りを基に改善案の作成やチェックをする「外部調査委員会」を設置する方針だということです。そのメンバーは劇団に詳しい人物2人と残りは専門家などで5人ほどを想定していて、現在選定中、年内の立ち上げを目指しているということです。
そして11月27日、遺族側が阪急・宝塚歌劇団側との交渉内容を公表しました。発表によりますと、11月24日に阪急・宝塚歌劇団側と面談を行ったということで、阪急から代理人の弁護士2名、劇団からは総務担当者1名と遺族代理人2名が参加したとのことです。遺族側は「パワハラの事実を認めて、阪急・劇団関係者は遺族に謝罪し被害補償をすることを求める。パワハラが否定されたままで本件につき合意・解決することはあり得ない」と従来の主張を述べました。劇団側は、調査報告書でパワハラの事実を認定していないため、現時点で特定のパワハラの存在を認めていないのですが、「調査報告書にこだわることなく、遺族の主張を真摯に受け止め、引き続き協議したい。そのほかの遺族の要求について、認めるものは認めて前向きに対応していきたい」としました。そして「調査チームは第三者委員会ではないが、劇団との関係で独立性がある」と主張。さらに「本件を離れて、劇団に存在する問題点の検証やこれを踏まえた風土改革については、“第三者委員会を設置する予定はない”が、外部有識者の意見を聞きながら劇団の責任で進めていく」としました。
Q. 今回、阪急・宝塚歌劇団は「第三者委員会を設置する予定はない」ということですが、「第三者委員会」と「外部調査委員会」はどう違うのですか?
(亀井正貴弁護士)
「独立性の程度が全然違います。本来『第三者委員会』を立ち上げるなら、400人の聞き取りから『第三者委員会』が始めるべきです。今は、聞き取りは劇団幹部で、評価が『外部調査委員会』となっていますが、この場合『外部委員会』はいらないと思います。中途半端だなという印象です。わかりやすく言うと、第三者委員会は企業側が依頼しますが、その企業に矢をむけて調査します。企業は『自分たちはどうなってもいいから、徹底的にしてくれ。文句は言わない』というのが前提です。企業が依頼した『外部調査委員会』だと企業寄りになる印象があります」
Q.「第三者委員会」を立ち上げるというのは、その企業が潰れてもいいという覚悟で作るものなのですか?
(亀井弁護士)
「その通りです。『第三者委員会』の制度が立ち上がったころは、企業側から『なぜうちに対して矢を向けてくるんだ』と言われることもあったということですが、その後日弁連がガイドラインを作って、『企業に矢を向けるそのやり方が正しい』となりました」
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