2025年版・エネルギー戦略を考える!再生可能エネルギーを電力構成で「4~5割」にすることは可能?再エネの課題と未来は…フロントランナーたちに聞く
去年は生成AIの台頭や半導体の工場の増設などが話題となりましたが、こうした技術によって、将来的に電力消費量が増える可能性があります。日本は、どのようにして電力をまかなっていくべきなのか。国は先月、新たな「エネルギー基本計画」の素案を公表し、2040年度の電源構成の目標について、再生可能エネルギーを初めて“最大の電源”と位置付けました。再エネの現状と普及に向けた課題は…
読売テレビ「ウェークアップ」は、風力発電と地熱発電に注目し、それぞれのフロントランナーたちに話を聞きました。
■データセンターの消費電力が“爆発的に増加”…AIの台頭で
山本隆弥キャスター
「兵庫県内にあるNECのデータセンターの入り口にやってきました。中を見てみますと、空港の保安検査場のような厳しいセキュリティー体制が敷かれています。」
顔認証など、7段階の厳重なセキュリティーを通り抜けた先にあるのは、ラックがズラリと並んだ空間。データセンターは企業や自治体などの情報システムを安全に管理・運用する施設で、内部の取材を許されました。
日本電気(NEC)伊藤誠啓さん
「これを一つのラックと呼んでいるのですが、 ここに入っている機器の消費電力を足すと、3~4家庭分ぐらいの電気が詰まっていると思ってください。それが5000ある。」
この膨大な消費電力を減らすため、外気によって冷却した水をセンター内で循環させるシステムなどを導入。サーバーから出た熱を冷やす空調などに使う電力を従来のデータセンターの3分の1に抑えています。しかし近年、消費電力が増える新たな要因になっているものが…。
日本電気 伊藤さん
「AIが出てきて、 消費電力は爆発的に増えています」
電力の需要は、テレワーク率の低下や節電、電気機器の省エネ化で減少傾向にありましたが、データセンターや半導体の工場の増設によって、2033年度には、2023年度よりも4%増えると想定されています。
こうした中、政府は先月、新たな「エネルギー基本計画」の素案を公表。2040年度の電源構成について、太陽光・風力・水力などの再生可能エネルギーの割合を「4割から5割程度」とし、初めて最大の電源と位置付けました。
■“先進地”秋田県で見えた洋上風力の課題
再生可能エネルギーの現状と課題は…ウェークアップが向かったのは秋田県。
ウェークアップ 上馬場雄介
「秋田県の沿岸部は海からの強い風が吹くことから、風力発電が盛んな地域です。その風力発電のさらなる導入拡大に向け、国が力を入れているのが洋上風力です。」
秋田県では、2000年代から陸上風車の設置が積極的に進められてきましたが、風をさえぎるものがない海に風車を設置する洋上風力の導入も進みつつあります。
秋田洋上風力発電・井上聡一社長
「こちらが我々の秋田港の洋上風車です。秋田港は13基風車が立っていて、能代港は20基、計33基の風車が立っています。」
海面からブレードの先端までの高さ、約150メートル。巨大な風車が風を受けて力強く回っていました。秋田洋上風力発電は、2022年12月から能代港で、2023年1月から秋田港で、洋上風力発電の運転を開始。100%民間資本の大規模な商用運転としては、国内で初めてです。
秋田洋上風力発電 井上社長
「(発電容量は)140メガワットで約13万世帯分です。秋田市の、ほぼ一般世帯の数をカバーできます。大きな事故もなく、おおむね順調に運転しています。」
秋田県で洋上風車が設置されているのは港湾区域内にとどまっていますが、沖合では洋上風力の導入を促進する区域として、全国で最多となる4海域が指定され、すでに事業者も決まっています。秋田洋上風力発電は、洋上風力事業のモデルケースとなりますが、今後の課題は―
秋田洋上風力発電 井上社長
「人材の不足がこれから大きな課題になってきます。工事・運営・維持管理、この全てのステージにおいて、今まで実績というか、日本で案件がなかったこともあって、工事の期間中は欧州から人材を連れてきて、一緒に作業していたという経緯もある。」
洋上風力の部品も、ヨーロッパやアメリカのメーカーのものが主流です。普及に向けては、日本国内の企業で生産体制を築けるかどうかがカギを握ります。
また洋上風力をめぐっては、漁業への影響も懸念されてきましたがー
秋田県漁業協同組合 菊地智英専務理事
「漁獲量も漁業者も減ってきて、厳しくなってくる段階で洋上風力発電が始まると、確かに漁場に風車が建って邪魔にはなりますが、漁業と風車が共生するための基金を事業会社が積んでくれることになっているので、その基金を活用して、漁業振興、漁獲量を上げるような取り組みをいろいろやっていくことによって、今後少しは漁業を続けていけるのかなと思っています。」
■島国・日本のポテンシャルを生かせるか?「洋上風力」拡大のカギは
もう一つ、洋上風力の拡大には大きな課題があります。それは、日本は「遠浅の海域が少ない」ということです。海底に固定する「着床式」は、技術やコストを考えると、水深50メートルぐらいまでが限界だといいます。そこで技術開発が進められているのが「浮体式」と呼ばれるタイプ。風の条件が良ければ、水深が深い場所でも設置できます。
2016年、長崎県の五島列島沖で、国内で初めて「浮体式」の洋上風車が商用化されました。設置したのは戸田建設です。現在も運転を続けていて、約1800世帯分の電力をまかなっています。
戸田建設 浅野均専務
「(海底が)急峻で「着床式」では対応できない海域にもかかわらず、風の吹くエリアが多数存在します。EEZ=排他的経済水域を含めると、電力供給の中で「浮体式」洋上風力が、大きなウェートを示すだけのポテンシャルがあります。」
■私財約120億円を投入!「業務スーパー」創業者が挑む地熱発電
可能性を秘めたエネルギーは海だけではなく山にも。熊本県小国町ではー
山本隆弥キャスター
「見えてきました。 白い蒸気が大量に出ています。 山の中に地熱発電所がありました。」
標高およそ1000メートルの山の中に突然現れた地熱発電所。開発したのは、「町おこしエネルギー」で、2024年3月、運転を始めました。
町おこしエネルギー 沼田昭二会長
(Q:この設備は)
「これは生産井です。熱水と蒸気が一緒になって上がってきて、蒸気だけがタービンを回して発電します。」
(Q:どれくらい掘っている)
「ここは浅くて700メートルぐらいです。」
地熱発電は、地下深くにある「地熱貯留層」から高温の熱水と蒸気を汲み上げ、蒸気によってタービンを回し、発電します。24時間発電可能で、燃料は不要。地球がボイラーの役割を果たす、純国産のエネルギーです。
町おこしエネルギー 沼田会長
「約8000世帯分ぐらいは発電できます。だいたい月に1億4000万円ぐらいの収入はありますので、燃料も要りませんし、ここの利益は次の発電所の投資に回すことができます。」
実は沼田さんは、全国で1000以上の店舗を展開する「業務スーパー」の創業者。徹底したコストカットでスーパー事業を成長させた沼田さんは、約120億円の私財を投じて、この発電所を開発した。なぜ、畑違いの地熱発電に取り組むのでしょうか。
町おこしエネルギー 沼田会長
「このまま日本が化石燃料を買い続けると、貿易赤字がどんどん大きくなります。ですから、24時間発電できる安定電源は、特に注力して今のうちにつくるべきだと考えたんです。」
火山大国である日本の地熱資源量は世界3位ですが、発電の導入量では10位。発電電力量に占める割合も約0.3%にとどまります。大きな要因は開発にかかるコストです。調査から発電所の稼働までには、一般的に10年以上の期間が必要で、事業としてのリスクが高いのです。
そこで沼田さんは、業務スーパーと同じように、地熱発電でもコストカットを追求しました。まず地熱の調査のために穴を掘る自走式の掘削機を自社で開発。通常は現場ごとに機材を入れ、やぐらを組み立てる必要がありますが、この掘削機は狭い林道も登ることができ、1台で完結します。その結果、調査開始から5年あまりという早さで発電所の運転を実現しました。
また従来は、地熱発電所ごとに設計を行うのに対し、「町おこしエネルギー」では、1号機と基本的には同じ設計で2号機も開発する予定です。
町おこしエネルギー 沼田会長
「設計期間を2か月半短縮できますし、2億5000万円の設計料の軽減になります。」
小国町のほかにも、北海道函館市や鹿児島県湧水町で調査や掘削を進めています。
沼田さんは、自治体に法人税を納めるため、現地法人も立ち上げました。従業員18人のうち、10人は地元で雇用しています。
地元で雇用 運転管理員 大塚賢さん
「町中を見ても、どんどん店が閉まっていって、活気があるところがないのが常だったので、新しく企業が参入してくるのは、ありがたいです。」
社名、「町おこしエネルギー」。その原動力はー
沼田会長
「自分ができる限りは、次世代のために、日本のエネルギーを安定させたいという気持ちで、地熱発電所をつくっていきたい。」
再生可能エネルギーの導入拡大は、日本経済の未来にとって、追い風となるのでしょうか。
(読売テレビ「ウェークアップ」2025年1月4日放送分を一部加筆・編集)