「来世は女性アナに…」 美容男子で注目の直川貴博アナウンサーが壊したい“男女の壁”
人気の理由は、固定観念にとらわれない“自分らしさ”。直川さんに、“自分らしさ”を発揮できるようになったきっかけや、アナウンサーという仕事への思いを聞きました。
――アナウンサーを目指したきっかけを教えてください。
京都で生まれて伝統文化に育ったので、建前上キャッチーだから“伝統文化を言葉に変換して伝えたいです”と就職面接では言っていました。もちろんその気持ちもあったけど、自分の中の裏テーマで、昔から「個性的」と言われていたので、おこがましいけど、『個性っていいな』のきっかけを伝えられたらと思ってアナウンサーを志望しました。
――「個性的」と言われたのはどんなところですか?
昔から好きになるものは、例えば『プリキュア』とか『おジャ魔女どれみ』とか、ステレオタイプで“女子が好きなもの”。『ウルトラマン』や『戦隊モノ』っていうよりは、ガーリーなものが好きだったし、外で鬼ごっこしているよりも、中でおままごとをするほうが好きだったんですね。今はそういった垣根がなくなってきていますけど、やっぱり昔から“典型的な男子”とはちょっと差があったのかなと。
――入社後すぐは、どんなアナウンサーでしたか?
当時、局アナに求められていたのは、男性アナウンサーとしての“ステレオタイプ”。だから髪の毛も真っ黒で超短髪でしたし、個性はひた隠しにして報道でニュースを読んだりしていました。だから当時の写真を見たら別人です。もう「詐欺か!」って先輩に言われまして(笑)。あれももちろん本当の私なんですけど、今みたいにフェミニンな服とかアクセサリーとかは身につけてなかったですね。
■局アナとして…“自分らしさ”との葛藤
――今年4月と6月に出演した『踊る!さんま御殿!!』では“自分らしさ”全開でしたが、変化のきっかけは?
時代の潮目がここ数年でぐっと変わり、個性がより尊重される時代になっていく過程にあると感じています。一通りアナウンサーとして仕事を多岐にわたってさせていただいて……ふと原点に返った時に“あ、私なにしたかったんだっけ。『個性っていいな』を伝えたかったはずだけど、できていなかったな”と思ったんです。その時、背中を押してくれた時代の追い風に乗っちゃおうと思って。『さんま御殿』とか、いい機会をいただきました。
――アナウンサーとして、どうやって“自分らしさ”を出していますか?
私がやっているのって“本当に正解なのかな?”って思う時もあります。アナウンサーって、情報やニュースをお伝えする中で、“黒子”に徹しないといけない時があると思うんです。だけど、やっぱりどうしても私が目立ってしまう。ニュースを読む時は、すごく化粧を薄めにしているんですけど、それでも“普段化粧している直川アナが(原稿を)読んでいるな”っていう雑な情報が入ってしまっているのかなって。葛藤する時は多々あります。
それでも、私が思う『すてきなアナウンサー』というのは、 “自然体”でいる人なんです。私は仮面をかぶったままだと等身大じゃなくて、そのままだと世間がこれまで何十年と求めてきた“男性アナ”っていうステレオタイプにとどまっちゃうな、と思ったので“仮面”を剥いでいきました。同時に、番組ごとに、私が目立っていい時と悪い時があるので、服装や話し方には気をつけているつもりです。
■自分でつけたキャッチコピー『来世は女性アナウンサーになりたい。男性アナウンサー』に込めた“皮肉”
――SNSで『来世は女性アナウンサーになりたい。男性アナウンサー』と掲げていますが、その意味は?
あれはすごく皮肉ってキャッチコピーを付けたんですよ。私が込めたメッセージは、“女性アナ”、“男性アナ”って、まだ言わないといけない。 “女子アナ”って言葉が残っているように、アナウンサーって性差、性別でできる仕事・できない仕事っていうのが、結構ぱっきり分かれちゃう仕事だと、経験上は思うんです。
例えば、スポーツ実況を女性がやることは、まだまだ一般化してない。私の友達でも女性で“やりたいです”って手を挙げたら、“え? 女性なのに?”っていう言葉が返ってきた子もいるくらい、アナウンサーというのは男性、女性っていうある種、壁がまだあって。それに当てはめると私がやりたかった仕事は、女性アナウンサーの仕事だったんですね。だったら、時代が変わらない今だったら私は“男性アナウンサー”だけど、『来世は女性になりたい』ってちょっと皮肉ってつけたつもりです。
――そういう“枠”を、直川さんご自身も壊す存在になりつつあると思いますが?
いや~壊したいですよね~。私があと何年アナウンサーでいられるかわかりませんけど、現役のうちにちょっとでも男性・女性アナという垣根のグラデーションが薄まればいいなって。あと、セクシャルマイノリティーだけじゃなくて、個性に悩んでいらっしゃる方に、“これでいいんだ”、“こういう人が会社員でいるんだ”って、一人でも思っていただけて、気が楽になればいいなって思っています。
――“こういう人が会社員でいるんだ”とは、どういう意味ですか?
私は、会社員としての“局アナ”というところにこだわっていて。アナウンサーといえども会社員だから、もちろん事務作業もあるし、電話を取ることもあるし、そこで働いていることにすごく意義を感じています。多くの方は同じように、会社や組織の1個の小さな歯車として日々奮闘されて働いているわけじゃないですか。そこで個性を出してしまうと、“出る杭は打たれる方”ももしかしたらいるかもしれない。私も同じような環境下で、個性を出して仕事をさせていただいていることを示したかったっていうのがありますね。タレントさんとか、フリーアナウンサーでなくても、会社の中でちょっとの個性を出しても許されていることを示したかったから、局アナにこだわりました。
――男性・女性アナウンサーの“枠”に影響を与えられたと感じたことはありますか?
『ゴジてれChu!』で用意していただいている衣装はユニセックスで、女性ものもあるんですね。今年1月に情報番組『ZIP!』のコーナーで、福島の大内宿から中継をしたんですけど、その時に着た赤いコートも女性ものなんですよ。男性アナウンサーがあんなにビビッドな色のコートを着ることって、これまでなかったと思うので……“やってやった”って思う反面、ちゃんと情報が伝わったかな? とか、心配もありました。固定観念で“この人、女性もののコート着てる?”っていうのも思わなくなったら、もっと(社会が)フラットになっている証拠だと思うんですね。そういうのも気にしなくなる未来がくるのかなって、楽しみでもあります。
■SNSで“心ない言葉”も……議論は未来への前進
――SNSでの反響は?
本当に福島の方は温かくて、そこからつながった全国の方も本当に寛容で優しくて。“応援しています”とか“福島からいなくならないでね~”なんてコメントをいただいて、めちゃくちゃ力になっていますね。
その一方で……私仕事が終わると、一般的には“エゴサ”と言われる視聴者の方がどう思ったかなっていう(検索を)するんです。それは自分への反応を知りたいわけじゃなくて、番組をよりよい放送にしたいなというのが第一の目的なんですけど、そんな中でも目に留まる“心ない言葉”もあるわけですよ。それはゼロじゃない。それも重々承知でやっています。
悪く思う方がいるのも仕方ないというか、諦めじゃなくて、良いと思うんですね。今まで議論にならなかったことが、もしかしたら目に止まって、負の感情であったとしても議論になっているということが一歩前進していることだし。私のように、一応テレビの前に立たせていただく立場で、矢面になることは重々承知で、それをわかった上でこの仕事を選んでいるので。そういう小さなアクションが、もっともっと重なって、大きくなって、議論が生まれて、次の時代にはそれが良い形で伝わっていけばいいなって思っていますね。
――今の活躍を、ご両親はどのように見ていますか?
男は男らしく、女は女らしくっていうふうに厳しく育てられてきた家系なので、結構大変だったんですよね。本当にあの両親から私って生まれるんだっていうくらい、私と正反対。
高校時代には、いつも使っている筆箱の中にアイラインを入れていたんですけど、たぶん母の中の“男の子像”とかけ離れたものが入っていて、捨てられたりしていたんです。それが今こうやって『さんま御殿』に“美容男子”として出させていただくことになって。そうしたら母がこの間、おすすめの化粧品を聞いてきたんです。それは“あぁ、家族の中でもこう……一歩。それが前の一歩かどうかわからないけど、変わってきているんだな”と思いました。
――これから直川アナが目指すアナウンサー像を教えてください。
私、“え~”って驚かれるんですけど、目指しているジャンルでいえば報道なんです。バラエティーとか、賑やかでエンターテインメント性が高い仕事も楽しいですし、もちろんやりがいも感じますけど、将来的には報道番組に携わっていたいなと思います。
特に報道番組では、男性はクールビズが終わったら、ネクタイとジャケットを着ていないアナウンサーは、あまりいないじゃないですか。私も今ニュースを読む時、ジャケットにネクタイを締めて読んでいるんですけど……。女性アナウンサーが出ているような、きれいめな格好で出る男性がいてもいいんじゃないかなって思いますね。それが“雑な情報”として入ってこないくらい世の中が進めばいいなという思いでいます。そういう時代になってキャスターやりたいなって思います。